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誘拐

この前ラフィアが言ってた。かつてクリニカは、天才と謳われてたって。

この世界で唯一、重力魔法が使える少年だったかららしい。

でも結局、重力魔法以外の魔法適性数値が五十にもいかないことが分かって、手の平を返したように、重力魔法しか出来ない欠陥品といじめられたんだと。


「誰にも真似出来ないことが一つでもあるってすごいことだと思うんだけどなー」

「なんだ突然。変な奴だな」

お風呂から出て、友久と二人廊下を歩きながら、クリニカのことを考えていたら、気付かず口に出してしまってたみたいだ。

そうだよね。急に訳分からないことを言い出したら、変な奴って言われてもしょうがないか。

「いや、いつも通りか」

やめて。それだと僕が常日頃から変な奴みたいじゃないか。

「いやね、クリニカの重力魔法のことさ」

「あぁ。 そういうことか」

緊張感の欠片もない顔で、気のない返事をする友久。

「クリニカ、友久の無茶振りに困ってたよ?」

「知るかそんなもん」

こいつはまったく。

「ダメですよ?困ってたら助けてあげる。それが友達というものです!」

後ろから突然の敬語。女の子の声。これは……

「「ラフィア」」

振り返った友久と言葉が重なる。

やっぱりラフィアだったか。少しシャンプーの匂いが残ってる。僕たちと一緒でお風呂あがりかな。

「でもどうしたの突然?話聞こえてたの?」

「はい。なんとなくは。昔、ウルフさんに言われたんです。(何かあったら助けてあげる。それが友達というものです)って。だから真似してみました」

そっか。そういうことか。


「ウルフとはやっぱり、たくさん思い出があったりするの?」

「はい。ずっと側にいたので。私、鬱陶しくなって、(近くに来ないで!)って言ったこともあるんです」

へぇー何それ。ちょっと気になる。

「そしたらその時も、(私はお嬢様の側を離れるわけには行きません)って言って、トイレにまでついてくるんですよ?」

ははっ。それはすごいね。さすがライオンハート。

「ちぬまかさたゃはじぁげりゎめねな」

またしても後ろから声が聞こえる。

なんだ?恐怖の呪文か?

「あっ!ミータさん」

ラフィアが名前を呼ぶ。

やっぱりか。あんたしかいないと思ってたよ。

で?今度は何だって?

「お二人には、困ってた時に助けてもらった話はないんですか?って言ってます」

相変わらず、衝撃的な滑舌の悪さだね。もうほぼ地球の言葉には聞こえなかったけど。

困ってた時に助けてもらったことか、僕にもあるけど……友久の前で言うのはちょっとなぁ。

「「ないね」」


ムッ。またしても友久と被った。最悪。まったく真似しちゃってさ。

でも友久、ないって答えたってことは、あのこと……やっぱもう忘れちゃったんだよね。

ちょっと寂しく思いながらも、僕たちは自分たちの部屋へと戻った。


「さっき、何の話をしようとしたんですか?」

「なんだ突然人の部屋に押しかけてきて」

「気になってしまったんですもん。ミータさんが、助けてもらった話はないのか?って聞いた時ですよ」

「……あったらなんだってんだよ」

「悠一さん、落ち込んでましたよ?」

「……はぁ」

「ふふっ」

「この白い髪な、生まれつきなんだよ。今はなんとも思ってねぇんだけど、小さい頃はよくそれでいじめられてたんだ」

「友久さんをいじめるってすごい勇気ですね」

「まぁ小学生ってのは思ったまんまを言うもんだからな」

「そうですね」

「いつも俺の白い髪をバカにしてくる奴がいたんだけどな?ある日そいつが、(こいつに触ると、汚くて気持ち悪いその白い髪が感染る)そんな風に言ったんだ」

「酷い話ですね」

「周りの奴らは悪ノリするし、好きな子には、ゴキブリより気持ち悪いとまで言われた」

「髪が白いだけで?」

「あぁ。そいつらにとっちゃ、笑いものにして暇が潰せればなんでもよかったんだろうな。でも、子供心には、これが結構効いたんだ」

「それを、悠一さんが止めさせたんですか?」

「まさか。あの悠一だぜ?」

「ですよね」

「ただ、端っこでそれを聞いてたあいつは、突然黒板に近づいて行って、チョークの粉を被り出したんだよ」


「それって……」

「そう。舞い上がる煙の中、チョークまみれの頭を指さしてあいつは言ったよ。(どうだ。かっこいいだろう)って」

「悠一さんらしい……やり方ですね」

「餓鬼の頃のちいせぇ話なのかもしんない。誰にも、その時俺の気持ちは分かってもらえねぇのかもしんない。でも、俺にとっちゃそれは、とてつもなくでかい一言だったんだ」

「忘れられるわけない話なわけですね」

「目の前で言うのは、癪なだけだ」

「本当に、素直じゃないんですね」

「うるせぇ。……そうだラフィア」

「はい?」

「……いや、もうすぐ決戦だ。気をつけろよ」

「??……はい」



やばい。大変だよ。助けて……助けて……

息を切らして僕は走る。痛くなる鳩尾を押さえながら、全力で。

「どうしよう友久!」

「なんだ朝っぱらから……」

ベッドの上で欠伸をしながら返す友久。はぁ。はぁ。何を呑気なことを。

勢い良く開けた友久の部屋の扉。息を整えながら、中に入って言葉を探す。


「ラフィアが……ラフィアが攫われた!!」


驚愕の表情。数秒の沈黙。でもその後友久は。

「……くそ。やっぱりそう来たか」

やっぱり!?どういうこと?……友久は、こうなることが分かっていたの?

「やっぱりって何?友久」

「擬似戦争で勝つ簡単な方法がある」

「それが……ラフィアが攫われた理由ってこと?」

「バカのくせに察しがいいじゃねぇか。そう。簡単なことだ。敵の主力を戦争前に離脱させておけばいい。王女様はその筆頭ってわけだ」

離脱?つまり……擬似戦争に出られなくするってこと?

「待ってよ。それってルール違反じゃないか!!」


擬似戦争はあくまでも被害を出さずして国の優劣を決めることができる制度だ。どれだけの人が怪我をしたり最悪死ぬようなことがあったとしても、それは擬似的なもので最後には戻る。

でもそれは、今、ラフィアを攫って何かをしたら、その傷は治らないってことだ。

擬似戦争の外側でそんなことをするのが、それが、ルール違反じゃないはずがない。

「そうだ。だが証拠はない。奴らはシラを切り通すだろうよ」

「シラを切り通すって、それが許されるなら擬似戦争なんて何の意味もないじゃないか」

ルール違反も大丈夫なら、色んな反則も、最も重要なことで言えば、負けを帳消しにすることだって出来てしまう。そんなのずるいなんてレベルじゃない。

「意味がないことはねぇよ。擬似戦争に勝てば、勝った時点でこっちが強いことになる。本当の戦争になることを恐れて何も出来なくなるのは、あっちの方だ。それに、星三つの各国が、一応だが公平を謳ってやっている擬似戦争だ。そこまで手荒なことは出来ねぇよ」

そうか。さすが友久。僕なんかよりもっと先が分かっているね。

「でも、つまり奴らにとってラフィアを誘拐することは、それほどやり過ぎたことじゃないってことだよね?」

「あぁ。くそ。昨日ラフィアに気をつけろとは言ったが、まさか本当にやってくるとはな」

友久が油断するのも頷ける。こんなことをすれば、もし負けた時、僕たちの国に何を要求されるか分からないのに、それを分かってて行動に移るとは、考えにくいからね。

でもやってきたってことは、ラフィアさえいなければという自信が見て取れるね。


「俺様の道を塞ぐとはいい度胸だな。殺されてぇのか?」

この喋り方、面倒くさいのがやって来たな。でも、一応伝えとかないとね。

「ストラスさん。実は、ラフィアがタートルの誰かに誘拐されたようなんです。擬似戦争に参加出来ないように……」

「あぁ?だからどうした?自分の身も守れねぇクズが死のうがなんだろうが俺様には関係ねぇ話だ。分かったらどけっ。邪魔だ」

うわー。本当に仲間のことをなんとも思ってない人だなー。

こいつには、心なんてないのかな?というか、一度でも謝ったこととかあるのかな?

こんな人に心配するかもなんで少しでも期待したつくづく僕はバカだね。

がっかりしながら、すっと横にずれて頭を下げた。


「ラフィア様が攫われたって本当なの?」

ストラスとの会話を聞かれていたらしい。声変わりしていない高めの声に釣られ振り向くと、誰もいない。

ってことはやっぱり。

「ごめんねハク君。でもきっと無事に連れ帰るから」

「やだよ……ラフィア様がいなくちゃ僕嫌だぁぁぁぁあ」

しゃがんで頭を撫でながら話したけど、泣き出しちゃった。

しょうがないよね。ハク君は、ラフィアのことが大好きだもんね。

でも、こんな時どうすれば……

「泣くな餓鬼。泣いても何も変わらねぇぞ。ラフィアのことが好きなら、お前の力で、助けてやれ」

「…………うん」

友久言葉を聞いて、ハク君は男の子らしくゴシゴシと目を擦りながら泣きやんだ。

やるじゃないか友久。子供嫌いのくせに。

「よし。じゃあまずは特訓だ。行ってこい」

「うん!」

首を縦に振って大きな声で返事をすると、ハク君は元気よく走り去って行った。


「で?ラフィアのことはどうするの?」

「今はどうにも出来ねぇよ。どこに監禁されてるかも分からねえし。どっちみち後二日だ。擬似戦争に勝って、返してもらうしかねぇだろ」

うーん。心配だけど、友久が言うんだから、やっぱりそれしかないのか。

「分かった。なら今出来るのは、万全の状態で戦えるように修行するしかないってわけだね」

「そういうことだ。それにしても大丈夫か?今日はずいぶんものわかりいいし、バカな発言も少ないじゃねぇか」

バカな発言が少ないだけで心配されるとは、こいつはいつも僕のことをどんな風に思ってるんだ。

でも確かに今日は、自分でも頭がいい気がする。

でも残念だったな友久。その理由はたぶん僕じゃないんだ。

「ふっ。それはね、友久。このラノベの作者が、締め切りが迫ってるのにボケばっかで全然話が前に進まねぇじゃねぇか、と僕のバカ発言を減らしたせいなんだなー」

「そんな笑顔でメタ発言するなよ。てか言ってるそばから無駄な話をしてやがるし」

それは言いっこなしだよ友久。

「でも友久、ラフィアが出れないとこっちは八人だよ?補填はしないの?」

「無理だな。明日には戦いだ。今から人を選び、作戦を伝え、特訓をするのは不可能だ。心の準備とかもあるしな」

なるほど。相手はそれも見越した上で、ギリギリになってラフィアを攫ったわけか。

「友久のどうでもいい話にも飽きたから、僕、クリニカの特訓見てくるよ。微妙なコントロールが、まだ出来ないらしいから」

「お前が質問したんだろうが。勝手にしてろバカが」


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