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ラフィアとハメス

「いやー美味しい。本当に美味しいね友久」

「あぁ。まぁな」

「お礼ですからね。たくさんお食べになってください」


森を抜けた先には、多くの人が集うパテシアという国があった。

さらに歩みを進め、その国の真ん中に建つ、シャンデリアがぶら下がるような神々しい豪邸に案内された僕たちは、暖かい部屋を借り、豪華な食事をもらっていた。

ゲームの中でもお腹って空くんだ。


「それにしても、この屋敷にこの料理……ラフィアって何者?」

「あっ、言い忘れてましたね。私、このパテシア王国の現王女です」

「……えっ?」

「王女です」

「まっ……まじ?」

「はい!」

素敵な笑顔と元気のいい返事。

あはは。殺されるかも。

「すみませんラフィアさん。無礼な口をききまして。王女だなんて知らなかったんです。どうか命だけは」

「そうだぞバカ。口の利き方には気をつけろ。なぁ?ラフィア」

「お前もだよ!」

自分の発言を思い出して血の気が引いていく僕を尻目に、友久は呑気に食事を続けている。

王女を呼び捨てなんて、バカはどっちだ。

「いいんです気にしないでください。お二人は私の恩人ですから。仲良くしていただけたらむしろ嬉しいです」

偽りのないにこやかな顔に、思わず泣けてくる。

なんてええ子なんやー。どっかのバカとは大違いや。

「なら友達として聞きたいことがある。さっきの男の話だ。どうせもうすぐ犯られちまうんだからとか言っていたな。どういう意味だ?」

思い返してみると、そういえば、そんな台詞を吐いていたなぁ。

でもそれがなんだっていうんだ?

はてなマークのままラフィアに視線を移すと、表情から笑顔が消えていた。


「…………」


返事が返ってこない。

言いたくないことなんだろう。

僕でも察することができるくらいだ。友久が気づいていない訳がない。

だが友久は質問を続けた。


「この国に流れる物悲しげな空気と関係があるのか?」

まるで、答えが分かっているかのような質問と心を見透かすような目をする友久に、求めてしまいそうになった何かを必死に押し殺すようにして、ラフィアは目を背けた。

悲しげな空気。それにすら気づいていなかった僕には、友久が何故そんなことを気にしているのかも、ラフィアが隠そうとしていることも分からない。

……バカだからな。考えたって仕方ないか。聞いてみよう。

「ねぇ友久、何でそんなことを気にしてるの?ラフィアも話したくなさそうだし、僕たちには関係ないよ」

「それが、関係あるかもしれないんだ。俺たちが救わなくちゃいけない女の子ってのは、ラフィアの可能性が高いからな」

僕は目を点にした。

なんで友久にそんなことが分かるんだ?

「なんでそんなことが分かるのさ?」

「それはな……」

「私がお話します。中井さんには隠し事はできなそうなので」

意を決したようにラフィアは笑顔を作ってから話し始めた。


「この国の隣国に、感情を持たないロボットたちの国があります。……ハメスさんという、その国唯一の人間にして国王であるその方が、自分以外の人間のいない国を作り上げたんです」

ロボットの国?何の話なんだろう?

物語のように淡々と始まった話は、友久が聞きたいものとはかけ離れているように僕には感じたが、とりあえず、黙って聞くことにした。

「ハメスさんには、大切な人に裏切られた過去がありました。だからそれ以来、人を嫌うようになったのです。この世界から、人などいなくなればいいと思うほどに。……その後、人のいない国を作ったハメスさんは、隣国に次々と擬似戦争を仕掛け、賭けの賞品として、多くの国から人を奪うようになりました」

「えっと……どういうこと?」

思わず口を挟んだ。話が飛躍し過ぎだ。僕どころか、友久でさえよく分かっていないみたい。

そもそも擬似戦争って何さ?

「すみません。もう少し詳しく説明しますね」

僕たちの困惑の表情を見て、頭を下げるラフィア。僕と友久が頷くと、話を続けた。

「擬似戦争については、その名の通り戦争を真似た対国家戦闘のことです。これに勝利した国は、先に決めていたものを敗北した国からもらうことが出来るんです。人の命も含めて」

ラフィアの熱のこもっていない言い方に、一瞬ゾッとした。

鳥肌が立つのを感じる。

食事をしていた手は、すっかり止まっていた。

「ハメスさんは、奪った人間を感情のない骸人形ロボットにして、自国の国民にし続けています。そして、次に狙われたのがこの国なんです。擬似戦争に負ければ、この国の人たちは皆、感情のないロボットにされてしまいます。だから……」

「自分一人が犠牲になることで、この国を救おうってわけか」

突然、友久が話に割って入った。

えっ?友久はもう全部理解したの?僕にはまだ全然分かんないよ?


「……はぁ。つまりだな、この国は擬似戦争ってのに負ける可能性が高く、そうなれば国民全体が被害に遭ってしまう。だからそうならないように、擬似戦争を起こさないでもらおうと、ハメスにこの国の王女様ラフィアを売ろうというわけだ」


僕のキョトンとした顔にため息をつきながらも、友久は分かりやすく説明してくれた。

おかげで、やっと状況が理解出来た。

「はい。中井さんのお考え通りです。あの男の方が言っていたことは、そのままの意味で、悲しげな空気も、王女が国を去るのだから当然です」

なるほど。ずいぶんとひどい話なわけだ。

「でも、この話は気にしないでください。もう決まっている事ですから。お二人には本当に関係ない話ですし、私一人の命で済むなら安いものです!だから……これで、いいんです」

これでいいんだと、強く笑いかけた少女の唇が、けれど、震えているのが言い方で分かった。

さっき出会った僕らには関係ない話。

彼女はそう言った。確かに、そうなのかもしれないけど……

きっと大きな事件でなければ、女の子を救うためだけに、異世界から人を呼んだりはしないだろう。

つまり、これだけ大きい事件ということから考えると、僕たちが救うべき女の子がラフィアである可能性は高くなる。

もしそうなら、僕たちにも関係ある話に変わってくる。

友久はそのことに真っ先に気づいてたんだね。

それになにより。

自分が助けを求めれば、国の人たちを巻き込むことになる。

小さな背中にそんな重荷を背負って、必死に覚悟を決めている彼女が僕には……


「ねぇ友久……助けてあげられないかな……」

食事を終え友久と二人、会話のなかった部屋で僕は切り出した。

友久の言う通り、ラフィアを助ければ現実に戻れるかもしれないし、それに、全然大丈夫そうに見えなかったから。

「……異世界から来たたった二人の子供が、国同士の争いで何ができるって言うんだ」

友久は、無関心なんじゃない。現実的な事実を言っているんだ。

そんなことわかってる。でも……なんとかしてあげたいじゃないか!

「でもラフィアだけが犠牲になるって……理不尽過ぎるよ……」

「理不尽なことなんて、世の中たくさんある」

ベットで仰向けになっていた友久が、だるそうに寝返りをうちながら告げる。

僕だってそう思うけど……

「だけど──」

「ピザって十回言ってみろ」

ピザ?なんだいきなり。

突然、僕の言葉を遮って友久が定番の十回クイズをやらせようとしてくる。

まったく、大事な話をしてる最中だったのに。

でも、急でよく分かんないけど、あれだよね?「正解は肘でした」ってやつ。

ふふん友久め。僕を甘くみるなよ?そんなものに引っかかるほど、僕はバカじゃないんだ!

「ピザピザピザ──ピザピザ!」

よし十回!さぁこい友久!

「お前、ピザピザうるさいな」

なんて理不尽なんだ。

ムキー!お前が言えって言ったんだろ!

「なぁ?理不尽だろ?」

「えぇ。ものすごく」

なんだ。理不尽なんてたくさんあるってことの実演だったのか。

「危うく殺しかけるところだったよ」

「十回クイズに本気で挑みすぎだろ!……こんなふうにどれだけの理不尽に晒されようと、皆納得して生きてるんだ」

「でもそれは、納得したいわけじゃないんだ!……僕たちは、誰より気持ちが分かるはずだよ。友久」

僕が、食って下がるのには理由がある。僕たちには、ラフィアの気持ちが分かる理由がある。

友久は、僕の言葉を聞いて、自身の真っ白な髪を一本抜き、過去を思い出すように見つめている。

「やっぱお前女子だな。女子ってすぐ自分じゃない奴のことでうるさくなるから」

あぁ。「ちょっとー○○ちゃん泣かしたでしょ!」みたいなやつね。って何の話さ。

「しょうがない。お前がうるさいから……やるしかないか」

やった!友久がやる気になれば、なんとかなるかもしれない。


「さすがは友久。結局は助けてくれるんじゃない」

「勘違いするな。ラフィアの言う擬似戦争に勝ってラフィアを助けない限り、俺たちは現実に帰れなそうだからだ」

不貞腐れるように言う友久。

だけど僕は知ってる。本当は優しい奴なんだよな!

「またまた〜。そんな事言ってほんとは……」

ボキボキボキッ(骨の音)

「勝手な想像をしてると殺す」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

あー痛かった。友達に突然関節技決めるとか鬼かこいつ。誰だ本当は優しいなんて言った奴は。

「とりあえずラフィアに、いつハメスのところへ行くのか聞いてこい」

「はいはーい」

手を振ってから部屋を出た。


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