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ガリブー

「お前はほとんど目が見えないから、まず音や声に集中しろ。相手の呪文の声。俺たちの危険を知らせる声。攻撃が近づいてくる音。そういったものに、いつも以上に気をつけるんだ」


今の攻撃呪文って誰に向かって撃ったんだ?

友久からの指示はない。僕じゃないのか?

「シルドラ!!」

「攻撃魔力五十、防御魔力六十です」

うわあぁっ。ビビったぁーなんだいきなり。

シルドラは確か、防御呪文だっけ?ピスナーがそれを唱えた瞬間、ものすごく近くで轟音が響いたけど。

「おい大丈夫か?攻撃、当たってねぇよな?」

「う、うん。当たってないけど……」

えっ?なに?てことはやっぱり僕今死にかけたの?マジで?

「おい友久!何が音や声を聞けだ!何も言ってくれてないじゃないか!」

「……テヘペロ」

ダメだ。こいつに命を預けたのが間違いだった。

友達を殺しかけた謝罪がちょっと可愛く舌出して終わりってそれなんて鬼畜?

「そんなことよりバカ。こっちも攻撃するぞ」

「そんなこと!?今そんなことって言ったよね!?」

やっぱり僕の本当の敵はこっちなのか?

「オホホ。何をやっているのネイテラさん。奴らは所詮適性値二百以下よ?最初から防げないレベルの強さで撃ちなさい」

「では、三百五十で──スパ・フレイド!」

ヤバイ。なんかバカやってる間にまた攻撃されてる。しかも今回は防げないっぽい。

「どうすんのさ友久!」

「焦んなバカが。いけクリニカ」

「すみませんすみません。攻撃が遅くなってすみません。サンドラ!!」

友久の背後に隠れるように立っていたクリニカが、コンクリートの地面に手を付いて呪文を唱える。

「攻撃魔力三百五十、防御総力二千百です」

すごい音だ。怖くなるほどの重低音が鳴り響く。

上がっていく煙。クリニカってことは、相手の炎魔法を見事に防いだのは、重力魔法?でもそれってどうやって……

「オホホ。少しはやるじゃない。まさかこんな芸当が出来るなんてね」

「いやー意外と上手くいくもんだな。駅前で助かった」

「まさか、重力魔法で無理矢理ビルを倒してそれを盾に使うなんて、想像がぶっ飛んでるだわさ」

そっか!なにも、攻撃を防ぐのに防御魔法を使わなくてもいいんだ。

それで防御魔力じゃなくて防御総力が二千もあったのか。

少しの力でも、知恵と工夫で戦う。なんて友久らしい戦いなんだ。

「オホホ。それに比べてネイテラ。あなたは使えないわね。もう、要らないわ」

「ちょっ、ちょっと待ってください。まだ、まだやれます。次は必ず攻撃を当てますから!」

タートルの国王が、何やら物騒なことを口走る。

すると、ものすごく焦った様子で、ネイテラという男が、弁明を始めた。

「そう?それはすごいわね」

「はっ、はい!ですから──」

「──でも、やっぱりもう要らないわ」

「えっ……」

「召喚魔法──ガリブー」

「待った!待ってくれ!」

召喚魔法によって出てきたのは、子供ぐらいの大きさの紫色の化物。

僕に分かる特徴はそれぐらいだ。

その化物に男は動揺し、尻もちをついたまま後ずさり、右腕を前に突き出して助けを求めた。だが。

──ガブッ。

なんだ。何が起きたんだ?

いつもみたいに見えなかったんじゃない。あまりのことに、理解出来てないだけだ。

あの化物、男が突き出した右腕を──

いや、やめよう。そんな恐ろしいことあるわけない。どうせ目の悪い僕の見間違いだ。

「──食べやがった」

友久め。見なかったことにしとこうと思ったのに。

「召喚魔力二千です」

「うわぁあっ!俺の俺の腕が……」

──ガブッ。

ガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッ。

「おいおい……もう跡形もねぇじゃねぇか」

「何あれ……気持ち悪い」

初めて明日菜が、正しく気持ち悪いを使えているよ。人間をまるごと食べる化物なんて気持ち悪いに決まってるもん。

でも何より気持ち悪いのは──

「てめぇら何やってやがる!自分たちの仲間だろ!」

──仲間を簡単に切り捨てる、こいつらの性根だよ。

「オホホ。使えない奴は消す。当たり前のことだわ」

「あいつが弱いから悪いんだわさ」

そんなの仲間を殺した理由になってないよ。

「例えそうだったとしても、あいつは次はやるって言ってたぞ」

「オホホ。だってしょうがないじゃない。もうそういう気分だったんだもの。いいのよ。だって私偉いし、国王だもの」

気分だった?国王だから?それがなんだって言うんだ。

そんなのなんの理由にもなってないじゃないか。

「タートル、一人死亡です」

アナウンスで、淡々と死亡が告げられる。こんなりあっさりと。

「オホホ。それにそんなことよりあなたたちは、自分の心配をした方がよろしいんじゃなくて?」

そうだ。そうだった。あいつらの発言に憤っている場合じゃなかった。あんな奴が襲ってきたらヤバイよ!

「ヤバイよヤバイよ友久!」

「んーもうちょいダミ声にしないとダメだな」

「この状況でモノマネしてると思う!?バカなの!?空前絶後のバカなの!?」

普通に焦ってんだよこっちは。

「まぁ、そう焦るな策はある」

「本当!?さすが友久!どんな策が?」

「逃げる!」

世間一般ではそれを策がないと呼ぶんだよ友久。

──ガブッ。ガブッガブッガブッガブッガブッ。

ヤバイよ。もう僕たちを食べる気満々だよ。

「へっへっへっ。美味そうな肉が沢山あるじゃねぇか」

こっちは違う意味でヤバイよ。ヤバイ奴だよ。

変なアテレコしてる余裕なんてないんだよ友久。

「友久さん。ガリブーは本当に危険な猛獣です。どうすれば……」

「任せろ!こっちには悠一がいる」

任せられるかぁ!!

なんで僕今人間を食べる化物と張り合いに出されてるの?

「俺は信じてるぞ。悠一」

そういうのは、信頼じゃなくて無謀と言うんだよ友久。

「分かりました。友久さんがそういうなら」

「分かっちゃったの?僕の命が懸かってるのにそんなあっさり分かっちゃうの?」

そもそも僕の命のやり取りを何故友久と陽菜の二人がしているのさ。

「オホホ。そろそろ魔力も回復しましたし、いきますわ──テン・ガリブード」

さっきの化物が、今度は十体。まとめて現れる。

──ガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッガブッ。

うわぁ。うるさいぐらいガブッガブッ言ってるなぁ。

僕、あんなのと戦わされるのか。しかも一撃でも喰らったらゲームオーバーってこれなんて無理ゲー?

「召喚魔力千二百です。ここで、前の戦闘で魔力がゼロになったガリブーを無召喚状態に戻します」

なるほど。魔力を使い果たすと消えるわけか。これで正真正銘十体だけど、魔力千二百だって勝てるわけないよ。

「タオルを巻け。ゲームモードならなんとかなるだろ。ほれ!その刀で切り刻め。いつもやってるゲームと変わらねぇよ。俺の声に合わせて刀を振れ」

うーん。久々にモードが鬼だね。

でもまぁ、ここで僕が負けて死んでも、友久たちが最終的に勝てば生き返れるんだよね……

でも……友久たちも負けたら、僕たちは深い眠りについたまま、意思のない砂人形にされるわけだけど。

……大丈夫。あの友久だもん。……大丈夫。

「ほらよ」

「ありがとう」

心を落ち着けて、友久から刀を受け取りながら、思う。

この刀は、昨日のうちに友久がパテシア国民たちに創生魔法で作らせておいたものだ。

僕用と友久用の二つがあるらしい。

ゲームが始まってから、ここにいる皆の力を込めて作っても、こんなに立派なものは出来ないだろう。

でも友久が言ってた。

だったら、ゲームが始まる前から、皆で力を合わせて作り上げればいいんだ、って。

ほんと、その通りだよね。

だって、戦いに参加出来ない皆だって、ちゃんと仲間だ。

力になりたいと思ってる。僕たちの勝利を願ってる。

──僕たちは、そういうものを背負ってる。

この刀の重みは、皆の想いの重みだ。

あんな、仲間を仲間とも思っていないような奴らに、負けてやるわけにはいかない。

いかないん……だけどさ……

ここまできて、勝ちたい気持ちと恐怖が、入り交じる。

どっちみちここで負けたら、僕はもう何も出来なくなる。

皆の想いに応えることも、自分の力で生き返ることも。

時間の流れも分からない深淵で、いつ覚めるかも分からない眠りの中、仲間の勝利を願うことも出来ず、友久たちが仮想世界の外で起こしてくれるのを待つしかない。

……本当に、生き返れるのかなぁ。

ねぇ友久……もう起きれないなんて、嫌だかんね?

あぁ……怖いな。

「ヒビってんじゃねぇよ、バカ。よしじゃあ必殺技を教えてやる!」

えっ!!必殺技!?

「友久が必殺というぐらいだ。さぞかしすごい技が──」

「日本が世界に誇る最強の技。そう、土下座だ!」

──友久、知ってた?必殺技って必ず殺す技と書いて、必殺技なんだよ?

「あっ、でもあの、顔にどでかい口と牙しかついてない青い化物、目も耳もないから土下座分かんねぇか」

そういう問題じゃないんだなぁ。

「ていうか、あいつそんな気持ち悪いフォルムしてたの!?」

「まぁ頑張れ!お前の人生最後が、青い化物に喰われて終わるのは、俺も少し嫌だぞ」

「うん。僕もものすごく嫌だ」

というかこの刀は総力どれくらいなのさ。

「創生魔力三千五百です」

心で思っただけなのに、アナウンスが流れた。あらご親切にどうも。

三千五百か。結構強い武器をもらったみたいだね。

あとは、僕次第か。

敢えて、紅い両眼を隠すように深くタオルを頭に巻いていく。




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