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擬似戦争

「さて、どうやってボコボコにしてやろうか」

「オホホ。言いますのね。最下層国民の分際で」

「てめぇらの方こそ、ゴミ共の集まりのくせしてラフィアを誘拐とはやってくれんじゃねぇか」

「オホホ。何のことか分かりませんわ」

「黙れ。絶対許さねぇかんな」

「オホホ。だから何のことか分かりませんわ」

タートルの奴らは、やっぱりシラを切り通してくる。

友久の思っていた通りだ。


今僕たちは、タートルにある闘技場にいる。

今日は待ちに待った遠足……じゃなかった対決の日だからね。

「自分たちのしたことも忘れるなんてバカなんじゃないですかー?」

「オホホ。そっちのバカよりはマシですわ」

「それは認めますー悠一のバカさ加減に追いつこうなんて百年早いですー」

──何で戦ってるんだ何で。

まず友久、彼らはそっちのバカと言っただけだ。勝手にイコールで僕と結ぶんじゃない。

多分僕のことだけど。

「でもね、バカバカと言われてる僕でも、さすがに初対面でバカは42回目ぐらいしかないんだぞ!!」

「オホホ。そこそこあるじゃないの」

なっ、まぁ……確かに?

「ふっ……だがね、僕をただのバカだと思うなよ」

「なにっ!?」

よし。相手の同様の声が聞こえる。

聞け!そう僕は。

「僕はな……ものすごいバカだ!!」

「開き直っただと!?」

ふふふ。ビビってるビビってる。もっともっとだ。

「そろそろギネスに申請できるかな、ってほどのバカだ!」

「開き直り方が世界王者だ!!」

「アホな話をしてんじゃねぇ」

いて。何さ、叩かなくたっていいじゃないか。


「それでは、対戦に移ります。皆様対戦ルームに移動してください」

機械の声でアナウンスが流れる。

それを聞いて僕たちは、タートルの人たちと別れて一旦移動する。

そもそも擬似戦争とは、特殊魔法によって作られた仮想世界で仮想対戦をすることを言う。

要するに僕と友久は、ゲームの中に来てまでゲームをするというなんともおかしな状況にいるわけだ。

そんなことを思いながら向かった部屋は、それはそれはとても広大な広間だった。

そこには、部屋の大きさに似合わない、割と小さな、揺籃のような黒く丸い椅子が、計十八個据えられていた。

真ん中を空けるようにして、九個と九個に別れている。

どうやら、国によって別れてて、僕たちはこっち側のこれの中に入れってことらしい。

「友久さん、本当に大丈夫なんでしょうか?今さら不安になってきました……」

一番奥の一つに、恐らくストラスだろう男が、誰にも何も告げずに座ったところで、陽菜が震えた声で尋ねた。

陽菜が心配になるのももっともだ。でも友久ならきっと気の利いた言葉で不安を和らげてくれるはず!

「大丈夫だ。色々用意してきたし。それに、いざとなったら悠一が何とかする」

前言撤回。どこら辺が気の利いたこと言ってるんだ。

「友久、それはハードルが高いというよりもはやただの走り幅跳びだよ」

背面じゃないと飛べないやつだよ絶対。

「仕方ねぇだろ。俺はなんだが風邪気味なんだよ。お前がなんとかしろ悠一」

えっ?友久風邪気味なの?大丈夫?

へぇーでも、これ仮想世界で戦うっていうバーチャルゲームみたいなもんだから……

「風邪なのに一日中本気でゲームなんてマジイカしてるね!さすが友久、カッコイイ!やっるー」

「おい。かわった遺言だな。よしバカ、お前をタートルの国王に浣腸で戦いを挑む役に任命してやる」

「心の底からすみませんでした」

くそ。ちょっとバカにしただけで罪が重すぎるよ。魔法を使う相手に浣腸で戦いを挑むなんて。

「いいじゃねぇか浣腸隊長。カッコイイぜ!やっるー」

友久さん、もう許してください。


「皆様、席へお座りください」

友久のバカな会話に付き合っていたら、再びアナウンスが流れた。

気づけば、僕と友久と陽菜以外の全員が、既に着席していた。

「お二人は、いつでも同じですね。お二人を見ていたら、不安なんてどこかへ行っちゃいました!」

「それでは、擬似戦争が始まります」

優しく笑う陽菜。

まるで……ラフィアみたいだ。

その横に僕が、そしてさらにその横に友久が、座ったところで三度アナウンスが流れる。

揺籃型の椅子が少しずつ傾いていって、止まったところで、開いていた部分がガラスで閉じられ、催涙ガスが噴射されると、そこで僕は気を失った。


「ここはどこ?私は誰?」

仮想世界で目が覚めたところで、お決まりの台詞を言ってみる。

「ここは、埼玉県アミダクジ州。お前の名前はズ・べホホバダッチ。走って飛び乗ろうとした電車のドアが直前で閉まると何であんなに恥ずかしいのか、を研究するため、なんでだろうをしながら世界を飛び回るプロボクサーだ。ちなみにおかま」

なんて大胆に嘘をつく奴なんだ。合ってるところが一つもないじゃないか。

性別すら間違ってやがる。こいつは僕をどんな人間にしたいんだ。

「友久。もし本当に記憶がなかったとしても、さすがにその嘘には気づくと思うよ。脈略なさ過ぎるもん」

「お前がつまんねぇボケしてるからからかっただけだ」

なんだそうだったのか。友久は僕のことを今までおかまだと思っていたのかと思ったよ。

「オホホ。やっぱり、あんなおバカちゃんたちに負ける気はしないわ」

「そもそも戦いにならないだわさ」

僕たちのやりとりを見て、タートルの奴らが何やら鼻につくことを言ってくる。容姿はよく見えないけど、喋り方からして女の子かな?

「なんだとてめぇら!!」

すかさず言い返す友久。

おぉ!さすが友久。戦いにならないなんて言われたらムカつくよね!そうだそうだ言ってやれ!

「おバカちゃんたちだと!?こいつと一緒にすんじゃねぇ!」

そっちかーい!!

違うよ友久。怒るとこはそこじゃない。

勢いよくリアクションしたら、コケた。……痛い。

それを見ていた友久が声をかけてくる。

「どうした?大丈夫か?」

「うん、大丈夫。まさかこんな近くにも敵がいると思わなかったけど」

僕の味方はどこにもいないのかな。

「では、擬似戦争の説明に入ります」

仮想世界になっても、変わらずアナウンスは聞こえてきた。

説明と言っても、僕たちは事前にラフィアからルールを聞いている。

作戦を立てる上で、最も大事なものだと友久は語っていたっけ。

でも、聞いてなかった重要なルールも出てくるかもしれないし、ちゃんと聞いておこう!

「九対九で殺し合います。以上です」

あれ?終わった?早くない!?

恐ろしくシンプルなルールだったけど大丈夫?ちゃんと聞くもくそもなかったんだけど。

確か僕が聞いたルールは……


「パテシア国民のレベルであっても、普通魔法であれば、種類と強さを決めて、適性値以内まで出せます」

「適性値ってラフィアが二百前後、みんなが百前後、僕たちがゼロだっていうあれ?」

「そうです。なので私であれば、二百十の炎魔法や百五十の水魔法などが使えます。これは特殊魔法でも同じで、私たちには無理ですが、クリニカさんなら百三十の重力魔法ぐらいまで使えるかと」

「それは、一回に出せる強さの値か?それともその後にも影響するのか?」

「使った分の値が全体からなくなると思ってください。百の炎魔法の後であれば、百十の魔法までしか出せません」

「それは厳しいな」

「適性値の回復には、回復魔法を使う手と時間経過で戻す方法があります。使ってなくなった適性値は、一秒ごとに一ずつ回復します。なので私の場合、いきなり全力で魔法を使っても、出せなくなるのは二百秒ぐらいです」

「なるほどな。回復魔法ってのは、明日菜と陽菜の担当分野か?」

「そうですね。あのお二人の適性値は減りますが、皆さんが回復できます」

「攻撃を受けたらどうなるんだ」

「攻撃の強さ分だけ残りの適性値から引かれます。それがゼロを下回りますと、リタイアとなり戦いに参加出来なくなります。つまり、私であっても二百以上の攻撃を食らいますと、リタイアとなります」

「マジかよ。ってことは……」

「はい。タートル国民の適性値は千五百前後なので、皆さんほぼ一撃でリタイア。友久さんと悠一さんは、どんなに弱い魔法でも一撃でも食らったら、必ずリタイアです」

「さすがの僕でも、理解出来るヤバさなんだけど……」

「おいおい。無理ゲーが過ぎるぜ」

「攻撃を食らわない方法は、避ける他に相殺するという手もあります。さらに相殺には相性もあります」

「相性?」

「つまりな、百程度の炎魔法になら、五十程度の水魔法でも相殺できるって意味だろ?」

「はい。風魔法で炎魔法を強くしたりも出来ます」

「ほう。そいつは面白そうじゃねぇか」

「先に全員リタイアした方の負けです」

「問題は魔法以外でも攻撃となるか、だな」

「大丈夫だと思いますよ?適性値を使わない物理攻撃は元からありますし」

「その場合はどうやって強さを決めてるんだ?」

「食らった時にどれくらいのダメージを身体が受けたかを測定してますので、それが強さの値になります」

「よし!なら、いけるかもな」


……こんな感じだったんだけど。

僕と友久とラフィアと三人で話した時のことを思い出してみた。

まぁ、これだけ知ってれば大丈夫か。

困ったら友久もいるもんね。

「それでは、ステージの説明です。ここがどこか、分かる方もおられますかと」

アナウンスが、ほぼルール説明をしないまま、話はステージへと変わった。

いいのかそれで。

でも、そういえばどこだろここ?

言われて周りを見渡しても、僕にはあまり見えない。でもなんだか明るいな。それに、ビルが建ってる?……かな。

どことなく懐かしさを感じる雰囲気に、はっとする。

えっ?待ってビルってことはここ、パテシアでもタートルでも無くてにっぽ──

「そうです。ここは、日本の蕨駅前東口です」

──ものすごくピンポイントだった。

分かるか。そんなもん。

「これの作者が蕨出身なんだ。大目に見てやろうぜ」

どんな大目だよ。

「それにしても、駅前とは、結構いいステージじゃねぇか」

友久が、ニヤリと笑った。

僕は知ってる。こういう顔の友久は、いつも何か企んでるんだ。


「次に、事前に聞きました、勝った場合に相手国に要求するものを発表します」

そうだ。タートルも命懸けで戦っているんだ。きっと負けたら、僕たちは生き地獄のような苦しい要求をされるか、もしかしたら殺されるかもしれない。

「タートルが要求するもの、国王の引渡しと全国民の総奴隷化。パテシアが要求するもの頼み事を一つ頼める権利。どちらも要求可能ですのでそのまま続けさせていただきます」

えっ?待ってよ……総奴隷化?それって……

「奴らはたぶん、パテシアを売るから自分たちの国は狙わないでくれ、とアスプールに交渉したんだろう」

なるほど。結局僕たちは、どこに負けても速攻砂人形行きってわけね。

「それで?僕たちの要求はアレだけでいいの?」

「あぁ。絶対許さねぇけど、復讐なんかしたって意味ねぇからな」

そうだよね。そうなんだけどさ……

傷だらけでベットに横たわるラフィアの姿が、頭を過ぎって……


「それではこれより、擬似戦争のスタートです」

モヤモヤした気持ちが消えないまま、やっと流れたアナウンスに、皆に緊張が走る。

ついに、始まるんだ。

「5・4・3……」

目の前に大きな数字が映写される。

そしてアナウンスが、カウントダウンを始める。

「2・1……」

「構えろ!!」

「構えなさい」

カウントがゼロになる直前、友久とタートルのリーダーだろう男が、同時に叫ぶ。

僕も、攻撃に備えた。


「フレイラ」


知らない声。相手の攻撃だ。

僕は落ち着いて、友久に言われたことを思い出す。

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