それから
どこまでも続く果てしない暗い空間、ここはいったいどこなんだろうか?ここが死の世界なんだろうか?もしここが死の世界なら、神様、貴方は僕に来世を与えてくれないのでしょうか?
「ここに人間が来るのは本当に久し振りですね」
突然の後ろからの声に驚きつつも振り向くと、そこには僕が知ってる女性よりもずっとハリがあって、透き通るような白い肌を持った美しい女性が佇んでいた。まぁ僕が知ってる女性は祖母以外に居ないのだけど。若い女性というのは皆この人のように美しいのだろうか?
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。これでも私は6億年も生きているのだけど」
あれ、いま僕は声に出していたのだろうか。
「うふふ、神の代行者たる者、人の心を読むことなど容易いことなのですよ。ところであなた、生前にこんな感じの球体を呑み込んでしょう?」
そう言って女性はどこからかあの球体と同じ物を取り出した。
「はい、女神様、忘れもしません。僕は正にそんな感じの球体を呑み込みました」
「私は代行者であって神ではないのですよ。しかし、困ったことになりましたね。これはですね、<力の核>といいまして、神竜が体内に持つ特殊な核なんですよ。本来、神竜が死ぬ間際にこの核ともう一つの核<心の核>を次世代の竜に食べさせて、力を継承させるためにある物なのです」
「どうしてそんな物が僕の側に現れたのですか?神竜ってなんなのですか?」
「まず神竜の話からしましょうか。神竜とは簡単に言うと、神にも匹敵するような力を持った竜のことです。現在、神竜達は力を合わせて竜界呼ばれている世界を創り、そこに生息しています。これはあなたが生きていた世界とも、今私達のいる生と死の狭間の世界とも、神達のいる神界とも違った世界なのです」
竜は僕が読んだ本が正しいなら、僕がいた世界にも存在してたはずだけどなぁ...
「あなたの世界にいる竜は神にも匹敵する力は持っていないのですよ。せいぜい火を吐く程度です。神竜は空間を創ったり時間を操ったりするのですよ。まぁ神竜の話はこのくらいにしておいてですね。何故あなたの側に<力の核>が現れたのかといいますと、ある熾天使の独断であるそうで...」
「熾天使ってなんですか?」
「熾天使というのはですね、天使の中で一番偉い天使のことです。で、この熾天使の内の一体が、あなたが新しい人生を歩めるようにと、勝手に神竜を討伐し、あなたに核を送りつけたのです」
勝手に神竜を討伐したって、そんなことしたら神竜達も黙っていないんじゃ...
「ええ、普通なら神竜と戦争になるのでしょうが、今回討伐されたのが周りに迷惑をかけていた竜のようで、逆に感謝されたとか」
神竜なのに周りに迷惑とかかけるのか。神って名前についてるのに。
「神竜はあくまで力を持った竜なのです。神とは違うのですよ。まぁいまでは神竜も数が多くなってきていますし、そんなに怒ることでもないのでしょう。そんなわけで、あなたはその記憶を持ったまま新たな人生を歩むことができるのですよ。これは既に神達も同意してるのです」
ありがとう熾天使様、神様。僕は次の人生を精一杯生きていきたいと思います。でも、それって他人の肉体を乗っ取るってことなのでは?
「良い心意気です。きっと熾天使も喜んでいることでしょう。それでは転生の儀を行います。安心してください。死産の赤ん坊の肉体にあなたの魂が定着するだけなのです。あなたが思っていることにはなりませんよ。成功率を高めるためにより共鳴しやすい肉体を選ぶので、あなたが死んでからどのくらい月日が経ってるいるのか分からないのですが、次の人生、楽しんでくださいね」
こうして僕は転生するのであった。