7.髪を切ろう
「いつも通り、ミコトには勝てないと判断したのでしょう。この島の動物は人間より状況判断が的確ですね」
「それは、ミコト様が鬼神様だから勝てないって事?」
にこにこ笑うハデスに、バイスが素朴な質問をぶつける。
「これはこれは、バイス様はまだミコトが鬼だと思ってらっしゃるのですか?」
ハデスは眉根を寄せ、露骨にバイスを馬鹿にした表情を寄こした。
「ハデス、ミコト。何、話す?」
血がついた槍を放り投げ、ミコトが話に割り込む。
「バイス様がまだミコトを鬼だと思っているのですよ」
「オニ? それ、何? 私、ミコト」
ミコトは、心底分からないといった様子で首を傾げる。それから思い出したように手を打ち合わす。何やら自分の体を探って、干物のようなものを取り出した。
「ハデス、そこ出る。肉、食べる」
「私は、あなた達とは違うので食事はしないし、ここから動けません。ですが、お礼を差し上げましょう。バイス様の誤解を解く為にも、ミコトの身だしなみを整えるためにも必要なものです」
ハデスが言い終わるや否や、今まで何も無かったはずの石の卓に鋏と櫛が現れた。
「これくれるの?」
バイスは数ヶ月に一回牢獄で母に髪を切ってもらっていた為、それが何の道具か分かった。
「はい。それでミコトの髪を切って頂けますか」
確かにミコトの髪は、ハデスの指摘どおり伸び放題だった。バイスも切った方が良いように思える。
鬼の髪を切っても良いのなら、の話ではあったが。
「分かった。ミコト様、あの、あなたの髪を切っても良いですか?」
バイスの質問にミコトがまたしても首を傾げる。
「髪? 切る? それ、切る?」
自分の髪を摘んで、しきりに首を傾げ混乱しているようだった。