表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/27

6.大きい猫登場して退場

「ミコト。貴方以外の人が来たのを知って、ネコが来た」


 ハデスの言葉に、「ミコト」と呼ばれた鬼が、俊敏な動作で立ち上がる。

石の傍らに置いてあった長い棒を手に握った。細くしっかりした棒は、先が荒削りされて尖っている。腰が抜けていたのが嘘のようだった。


「バイス、危ない。私、近く、居る」


 長い白髪の下から細く華奢な手が伸び、バイスを引き寄せた。


「ミ、ミコト様。ネコなら危なくないんじゃ」


 バイスは恐る恐る鬼の名前を呼ぶ。牢獄で心を慰めてくれた、小さく可愛い生き物が思い出される。


「ダメ、大きいネコ。大きい大きいネコ」

「大きいネコ?」


 葉が擦れる音がして、バイスとミコトの向かいの木立の間に、大きなネコの顔が覗いた。

 ネコはバイスとミコトを観察するように、こちらを静かに眺めている。四つん這いの動物なのに、高さがミコトと同じ位あった。


「ガゥゥ……ッ」


 ミコトが棒を構えると、大きなネコは鋭い牙を見せて威嚇する。視線はバイスに定まっていた。


 あれは、ネコ?


 ピンと立った耳や、長い尻尾やふくふくとした毛皮はネコのようだった。


だが、大きさがバイスの記憶にあるものと違っている。鋭い牙とがっしりした顎で噛付かれたら、死んでしまうだろうという事は容易に想像できた。


「なに、あれ?」


 バイスは、ミコトの傍にへなへなと座り込む。

 ミコトはそんなバイスを庇うように、前に出てネコの視界に割り込む。


「私、言った。大きなネコ」


 ネコとミコトがじりじりと睨み合う。


「ミコトがネコと認識しているので、ネコと言いましたが、あれはトラという生き物です。南の島に住むベンガルトラから派生した生物ですね。あの橙色に黒の縞が特徴です。体長は平均約二・八メートル、体重は約二百五十キロ。ネコ科の生物なので、大雑把に分ければネコと言えなくもないですがね。多分、ミコトはヤマネコ種と間違えているのでしょう」


 石の中からハデスがすらすらと喋る。

 バイスは呆然として、『トラ』という生き物とミコトが対峙している様を見守った。


 鬼なら勝てるのかな。


「トラはクマや牛や馬も襲って食べる生き物です。それをミコトは、槍一本で倒しますから……。私が、風や霧で助けているおかげでもありますが。ミコトが次々に倒しているせいで、最近は襲ってこないのですが、バイス様のような人間が来ると、島の奥から出てきますね」

「ガァッー!」


 トラが人の頭を飲み込んでしまうような口を開けた。そのまま、ミコトに飛び掛ろうとするが、巻き起こった風に弾かれて転がる。


 トラは狙いを定めるように間合いをとる。トラの頭周りに靄のようなものがかかり始めた。

 対して、ミコトは次こそというように、槍を前面に突き出して構えた。


「あっち行け。バイス、食べさせない」

「ガゥッ!」


 トラが宙を飛んだ瞬間、トラの頭部を完全に霧が覆った。突然の事に驚いたのか、空中で姿勢を崩す。


「あっち行け」


 ミコトは、相手の隙を見逃さず両手で力を込め、槍でトラの左足付け根辺りを突き刺した。


 槍を引くと同時に、トラがまた転がる。すぐに起き上がったが、左足から血が流れていた。トラはしばらくこちらを見て唸っていたが、足を引きずりながら木立の奥に消えていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ