26.終わり2
「今日は、お父さんとお母さんとハデスが会った記念日でしょう?」
まだ少女は七つになったばかりだったが、すらすらと言葉を喋る。神殿で難しい言葉を教わっては、すぐ自分のものにして周囲を驚かせていた。
「ヒカリは賢いな。そうだ、ハデスが寂しかろうと思って、忙しい合間を縫い毎年直接来てやっている。お母さんは優しいだろう」
自分の娘・ヒカリの言葉に、ミコトは相好を崩す。
誰よりも勇ましく強いミコトも、娘の手にかかれば単なる親バカと成り下がっていた。
それが、周りには何とも微笑ましく映る。
「やれやれ、毎度のお心遣いまことに痛み入ります、とでも言えば満足ですか」
ハデスが憎まれ口を叩く。
一行は、ハデスのコンピューターがある所に向かう。
木立の中は歩きにくいので、ヒカリをバイスがいつものように抱えようとしたのだが、ヒカリは自分で歩くと言って聞かなかった。
その為、実にゆっくりした足取りで一行は進む。
「違うよ。僕がこの島で直接ハデスに会いたいんだ。この島でなければ、デメテルのコンピューターで声が聞えるだけだし。姿を直接見たくて……。忙しくないなら、もっと会いに来たいけれど……」
喋っていて段々恥ずかしくなったのか、バイスが頬を赤らめる。
バイスの片腕には、出会った時と同じ白い花が抱えられていた。ミコトがそんな物は不要だと言ったのに、持っていくといって聞かなかったものだ。バイスのハデスへの好意は、ミコトが時々嫉妬するほど根深い。
「私に肉体があったらバイスを抱きしめている所です。がさつで野蛮なミコトなどやめて、今から私に乗り換えませんか」
「え、……そんな……」
ハデスの求愛に、バイスは更に顔を赤く染める。
ヒカリと付き従っていた漕ぎ手は、おかしな方向へ進み始めた会話に、不安げな表情を浮かべた。
「ふざけるな。バイスは私のものだ」
そんな風に話をしていると、ハデスのコンピューターが置かれた開けた場所に出る。バイス達以外の者も来て掃除をしていく為、コンピューターの周りは綺麗に清められていた。