25.終わり1
「ハデス、お邪魔します」
可愛らしい子供特有の高い声が、島の浜辺に響いた。
色が白く、黒髪に赤い目をした不思議な少女だった。
「ここは、確かに私が居る島ですが、私の家というわけではないのですが……」
ハデスの声が、島の浜辺にいる者たちに届いた。
「子供の言う事に、けちをつけるな。今日こそお前をバラバラにしてやろうか」
「ミコト。今日くらいは、ハデスとの喧嘩は無しでいこうよ」
両側で少女の手を引くのは、もう完全に大人へと成長したバイスとミコトだった。
ミコトは、もうハデスの作る霧で日光を遮ってもらってはいない。自分で作った動物の骨に布を張った傘を、優雅にさしている。
その後ろには、族長になったバイスに仕える漕ぎ手がいる。
――あの数年前の事件の後、バイスは誰かが神を独占し、言葉を伝える制度をやめた。
神殿を開放し、ハデスやデメテルに誰もが会えるようにしたのだ。結果、誰もが平等に教育を受け、皆がその知識でもって町をよりよくしていこうと頑張っている。
また、何かを決めるときには、誰か一人が決めた事に従うというのもやめた。決めなくてはならない事がある時は、町の中から代表を数十名選出しておいて話し合いで決定している。
様々な事が変わり、良くなったことが多かった。
しかし、色々な意見が出て、皆が自分の意思で動くようになったが故の問題も出てきていた。
バイスやミコトは、問題の収拾をつけるのに忙しく働いている。
デメテルと同じく連絡の取れなかった、ヘラが治める町と交易も開始していた。 ミコトが住んでいたヘラの町も、バイスの町と同様の状況に陥っていて、交易は難航している。