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24.祈り
皆の乗った船が、ハデスに起こしてもらった風を受けて、次第に島を離れていく。
涼しい風が、バイスの黒髪を静かに揺らす。
島には、バイスが二年前に見たときと同じように濃い霧がかかっている。乳白色の濃い霧は、二年前はあんなに怖く見えた。
しかし、今はバイスの目に、霧がとても優しく暖かいものに見えていた。
神の住む島で過ごした日々は、何ものにも代えがたい素晴らしい日々だった。
「我々にとってはあなた方人間こそが神。神よ、切に祈ります。幸せに、どうか幸せに……」
ハデスが、「祈り」を口にしているのが風に乗って耳に届いた。
昔の人間には、神は遠い存在だったらしい。
そうやって、思い願うことでしか神と通じることができなかった、とバイスはハデスに教えてもらった事を思い出す。
バイスは、傍らに立っているミコトに微笑んだ。ミコトも微笑み返してくれる。
当の神に本人に幸せを願われているのだ。傍にはミコトもいる。
皆、幸せになれないわけがない。
バイスは、そう確認していた。