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23.告白

 次に、バイスが目を開けると、そこにはミコトの赤い目があった。バイスの身を案じるように、じっとこちらを見つめる目は恐ろしいくらい澄んでいる。


「ミコト……?」


 バイスが、名前を呼ぶと、目の前の目が嬉しそうに細められた。


「良かった。このまま目を開けなかったら、どうしようと思った」

「ごめん、心配させて」


 バイスが、まだぼんやりとした意識のまま謝る。


「バイスに何かあったら、あの糞コンピューターや神官とやらを、私自ら血祭りに上げる所だった。危なかったな、バイス」


 ミコトが小さく不敵に笑った。


「ミ、ミコトはそんな事しないよ」

「どうかな。それだけお前が大事だということだ」


 必死に言い募るバイスに、ミコトが甘い言葉を囁いた。

 バイスは、ふざけたようなミコトの言葉から深い愛情を感じて、頬を赤くした。


 バイスが赤くなった自分を紛らわすように辺りを見回すと、無数の視線にぶつかった。自分の住んでいた町の皆が、こちらを見ているのに気づく。


 バイスとミコトは、いつの間にか町の皆に囲まれている。

 その中には、懐かしいバイスの母の姿もあった。

 島の浜辺に皆、集まっている。


 あんなに荒れていた海は、いつの間にか静かになっていた。


 皆の傍らには、気を失ったまま縛られている神官と傍仕えの者達がいた。


「話は聞いたよ。よく頑張ったね、バイス」


 幾つになっても美しい母は、目を潤ませてバイスの頭を撫でる。

 安心する笑顔に、バイスの涙腺も緩む。


「まさか、神官が鬼と言っていたのが、こんなに美しい人だったとはなぁ」

「バイス様も生きていらっしゃった」

「バイス様、よくご無事で」

「神官の言葉をそのまま信じないで、自分らの目で確かめれば良かった」

「ここにも神様が居たとは驚いた」

「ただ目と髪の色が珍しいだけの綺麗な人じゃないか」


 バイスが目を覚ましたのに安堵したのか、周りの者たちが次々に大声で話し合い始める。

 それぞれが好き勝手な事を喋るため、段々収拾がつかなくなってくる。


「バイスが海に落ちた後、ハデスが波を止めたんだ。神官達も浜辺に打ち上げてくれた。後を追うようにお前の町の者たちが来た、私とハデスと漕ぎ手で一連の事情は説明した」


 喧騒の中で、ミコトがバイスに気を失ってからの状況を簡単に説明する。


 バイスはほっと胸を撫で下ろした。……父さんは死んでしまったけれども、それ以上もう誰も死ぬことは無かった。


 バイスは、ミコトの手を借り立ち上がる。びしょびしょの体が重くて、頭が少し痛む他はなんとも無かった。


「ハデス、ありがとう」


 目を覚ましてから、ハデスの言葉は無かった。


 でも、バイスは届くと信じて語りかける。


「……礼には及びません。私の主人はバイスとミコトです。争う人間を滅ぼすのに、バイスとミコトが居なくなってしまっては、本末転倒ですから」


 ややあってから浜辺に、ハデスの少し怒ったような不貞腐れたような声が響いた。


「うん、でもありがとう」

「礼には及びません」


 ハデスは素っ気無い。その素直になれない態度に、ミコトが目を吊り上げた。


「おい、あんまりバイスを困らせると、血祭りだぞ」

「おや、「血祭り」……ですか。新しい言葉を覚えて、すぐ使いたがるなんて子供ですね。私は、血などありませんから。機械ですので、血も涙もありませんよ」


 ミコトの暴言に、ハデスは調子を取り戻したのか、いつも通り皮肉を言う。


「じゃあ、バラバラの刑だ」

「やれるものならどうぞ」

「よし、じゃあ待っていろ」

「心よりお待ち申し上げております」


 ミコトとハデスの言い合いに、バイスは冷や汗をかく。

 今すぐにも、木立の奥に走り出そうとするミコトの腕を掴んだ。


「ちょっとちょっと、喧嘩しないでよ」

「喧嘩などしてない。ハデスがコンピューターのくせに生意気なだけだ。バイスは私の味方だよなー?」


 バイスに腕を掴まれると、ミコトはすぐ甘えたように擦り寄ってくる。基本的にバイスと一緒に居られれば、それで良いようだった。


「何と言うことでしょう。生意気なのはそちらです。初めの頃は、あんなに私を無心に頼ってきたのに……。バイス、正しいのはどちらか賢い貴方ならお分かりですよね?」


 ハデスが声のトーンを上げて、ミコトに噛み付く。

 バイスの答えは、浜辺にいる者の皆が気になるようだった。気がつくと、皆の視線がバイスに集まっている。


 バイスは、誤魔化すように力なく笑った。


「えっと、ハデスはもう僕たちの島の神様デメテルとは連絡取れる?」


 話を不自然だが、違う方向へ持っていく。


「……ええ、取れます。デメテルは神官に命令されて、私と通信できなかったようです」

「そっか、じゃあ神様が多い分には問題ないよね。皆、僕たちの町に帰ろうよ! 僕とミコトで作った船があるんだ。舟が無い人は皆、乗れるよ。さ、行こう」


 バイスは笑みを崩さないまま早口でそう言うと、ミコトの手を引いた。


 バイスとミコトに続いて、人々も毒気を抜かれたようにぞろぞろと動き出す。

 まだ、気を失ったままの神官たちは、町の屈強な男たちが肩に担いだ。


「逃げたな。……でも、そういう所も好きだ」


 ミコトは、バイスに引かれた手を強く握り返す。


「僕もミコトの事好きだよ」


 バイスはミコトに心を込めて囁き返した。

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