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21.ハデスの役割

 三人が、島の奥に向かって走り出そうとした、その時、


「その必要はありません。天候が悪くなってきたようです。愚かな人間は、海に沈むでしょう」


 ハデスの声が、辺りに響いた。


「ハデス?」

「誰ですか? 姿が見えませんが」


 三人が辺りを見回す。ハデスは、自分の居るところから動けないはずだった。声が聞えるのはおかしい。


「声だけを届けています。ほら、追っ手が消えますよ」


 大地が割れるような轟音と共に、空から雷が走った。

 雷は先頭に居た追っ手の舟を直撃する。

 舟は真っ二つに裂け、海へと散る。

 舟から落ちた人が暗い海へ、舟を追うように消えた。


 雷が合図のように、穏やかに雨が降り始める。瞬く間に黒々とした雲が、あたり一面に広がった。

 沖に大きな波が起り、次々と追っ手の舟を呑み込んでいく。


 三人は、呆然と荒れ始める海を見ていた。


「助けなきゃ……」


 最初にバイスが、ふと気づいたように呟いた。波の中で懸命にもがいている人がいるのに気づいたのだ。


 漕ぎ手の乗ってきた舟に駆け寄る。


 バイスを阻むように、波打ち際にバイスの身長以上の高さで水柱が上がった。


「もしかして、ハデス?」


 沖が荒れているのに、波打ち際にこんなに高い水柱があがるのは不自然だった。

 バイスは、おずおずと島の奥を振り返る。否定して欲しかった。


 ……ハデスの返事は無かった。


「まさか、ハデスにそんな事が。ハデスは命令されないと、天気を操ることなんてできないと言っていた」


 ミコトも、疑念を打ち消して欲しいように首を振って、木立の茂る森を振り返る。


「さっき、ハデスが心配だからって、フルドライブモードの使わせてくれって言われた。そ、それのせいかな」

「それだろう。だからって、なんでこんな命令もしていない事ができるんだ?」


 バイスのすまなさそうな申し出に、ミコトが緊迫した表情で頷く。


「この島にも神がいるのですか?」


 漕ぎ手も二人の視線の先を追う。


「心配ありません。今、この島にいる三人の生殖細胞から、いくらでも新しい人間は作り出せます」


 ハデスは問いには答えないままだった。


「そんな事を心配してるんじゃない! 数だけ合っていても、皆が生きてないならだめじゃないか」


 バイスが、木の葉のように波に揉まれる舟に近づこうとする度、邪魔するように水柱があがる。


 幸せを願った皆が生きていてくれないと意味がない、とバイスは思った。

 確かに父を殺した人たちは、憎むべきかもしれない。罪もない人を供物にしていた神官は許せない。

 だが、バイスは、これ以上誰も死んで欲しくなかった。


「眠りから覚めても、まだ人間は争いを続けている。殺しあっている。汚い失敗作は、処分しましょう。幸い私は、死を司る神です。私だけ、いらないと思った人間は殺せるように、力を授かっている。あなたたち人間からね」


 浜辺に、ハデスの疲れたような絶望したような淡々とした声が響く。ハデスは、人間に裏切られたような思いなのかもしれなかった。


 ……人は、どのくらい海に浸かっていたら死んでしまうのだろうか。

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