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2.バイスは鬼に会う

「マテ! イクナ!」


 一陣の風が巻き起こり、鋭い声が響いた。

 島を包む濃い霧の中から、ギョロリと赤い目が覗く。


「うわぁ! 鬼が、鬼が出た!」

「鬼!」


 地まで届くざんばらの白髪を振り乱し、爛々と赤い目を光らせた鬼が現れる。


 鬼が僕だけじゃなくて、他の人も食べようとしてる?

 バイスは、唐突な鬼との対面に唖然としたが、すぐさま気を取り直す。


「だめ! 皆じゃなくて僕を食べて!」


 漕ぎ手たちの方に向かおうとする鬼を止めようと、足のほうに飛びつく。

 手応えは、あった。

 白髪を巻き込んで、やけに細い足らしきものを捕まえることに成功する。


「ジャマスルナ! マ、マテ!」

「ひぃぃ!」


 漕ぎ手の一人が、とっさに小舟に積んでいた木箱を鬼に向かって投げた。

 ごう、と風がまた巻き起こり、木箱は鬼に当たらず砂浜に落ちる。

 鬼が鬼らしくもなく、飛んでくる木箱に怯えたのか顔を背ける。


「舟を漕げ!」


 うまれた隙を見逃さず、漕ぎ手たちが必死に舟を漕ぐ。


「ハナセ! マテ! マテェッ!」


 鬼が、ようやく足にしがみつくバイスを引き離し砂浜に駆け寄る。

……しかし屈強な男たちが漕ぐ舟は、とっくに浅瀬を離れていた。


「コノッ!」

「うわっ!」


 バイスは腹を鬼に蹴られて砂浜を転がった。

 鬼は獲物を逃したのが悔しかったらしい。バイスを蹴った後は、うずくまって砂浜をめちゃくちゃに叩いている。


「あ、あの、ごめんなさい」


 バイスがおずおずと謝ると、鬼がハッとしたように顔を上げた。

 白い髪の間から赤い目が覗く。


「お前、逃げない?」


落ち着いた高く澄んだ声が響く。鬼がそっと立ち上がった。

バイスは鬼がやけに小柄な事に気づいた。また、ばらばらに伸びている白髪の下から見える手足も細い。


……こんなに小さくて僕を食べられるのかな。


「僕、貴方に食べられなきゃ」

「人、食べない」

「えっ……」


 鬼はそれだけ言うと、砂浜に顔から崩れ落ちた。

 バイスは慌てて鬼に駆け寄る。助け起こすと、その華奢な体はバイスの両腕にいともたやすく収まった。肌が上気して真っ赤になっている。


 こんな小さな人が鬼なのかな……?


 鬼はバイスや島の皆が想像していたものとは遥かに違った。大きな体をしているのでもなければ、怪力でもなかった。船に乗った人を逃さないように、海を操ることもできない様子でもあった。


 予想していたものとは全く違っていた鬼に、バイスは酷く戸惑う。


しかし、同じだろうが違っていようが、自分は鬼に食べられる為に、この島に来たのだという目的を思い出す。


とりあえず、倒れてしまった鬼を休ませなくてはならない。バイスは、浜辺の木陰に向かって鬼の体を引きずり始めた。

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