17.真実の一部
「バイスが島に来て、約二年が経ちました。今まで理解できないだろうと思って、話していなかった重要な事があります。聞いてくださいますか? 我が主、バイス様。そして、ミコト」
ある朝、唐突にハデスが告げた。
それは、ミコトとバイスでこつこつと作っていた帆船が完成した、次の日の事だった。
帆船は完成したが未だに二人は、一緒に暮らしてきたハデスと別れて他へ行く決心がつかないでいた。このまま、この島に二人で暮らすのも良いかもしれないと話してもいた。
てっきり、朝の勉強が始まるのだと思って、ハデスに向かっていた二人は目を丸くする。
「もちろん、聞くよ」
「なんだ、ハデス」
二人は、ハデスがいつになく真剣な表情をしているのに気づいた。
ハデスはコンピューターなのに、いつも人間らしい表情をする。
最近、毎日続く小雨が画面に降りかかり、ハデスが泣いているようにも見えた。
遠くでは稲光が鳴っている。
「遠い昔の話。人間はこの世界に溢れんばかりに居ました。ですが、増えすぎて争い、自分たちの住む環境を破壊し、滅びそうになった事があるのです」
「滅びそうになったって……、今は一杯居るけど?」
さっそくハデスの話に疑問を感じたバイスが、口を挟む。
「私の島も、大勢人が居たぞ」
ミコトも首を傾げた。
「そうですね。滅びそうになった時に、ようやく人間は協力しました。そして、十二と二つのコンピューターを作り、人が減り環境が破壊されて、文明が低下した自分たちを管理させたのです」
ハデスの淡々と紡がれる言葉に、話を聞いていた二人は揃って首を傾げた。
「それで人は増えたの? そんな簡単そうな事で?」
バイスは、人が減ってしまった事が、そんなに容易に解決するのが不思議に思えた。
「ええ、コンピューターは計算と管理が得意ですから。人間を守る為なら、当の人間にすら考えつかないような方法も実行しますしね。人口を丁度良い状態で管理するのも、コンピューターが行っています」
「どうやってだ?」
ミコトが、ハデスを責めるように問いただした。自分の出生にも、コンピューターが関わっていると思ったのだろうか、険しい顔をしている。
「例えば……分かりやすい所で……。バイス様は男で、ミコトは女ですが、年頃の男女が二年も一緒に暮らしているにも関わらず、子供ができませんよね。何故だと思いますか?」
ハデスに逆に聞き返されて、ミコトは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして黙った。
バイスも黙るしかなかった。訳が分からないのだ。
自分たちのような年の者が、一緒に暮らしていると、子供ができるものなのだろうか。確かに自分は男で、ミコトは形的に女かと思っていたが、それに何の意味があるのだろう。