14.二人で水浴び
――どれほどの時間が経っただろう。
「バイス、ありがとう」
ミコトは、気が済むまで泣いたのか、涙で汚れた顔をあげた。そのどこかすっきりしたような顔つきに、バイスはほっとする。
「ううん、ごめんなさい。何も言えなくて」
「バイス、居る。それだけで私は嬉しい」
バイスが不甲斐ない自分を謝ると、ミコトは泣いていたのが嘘のように鮮やかに笑う。
「うーん、でも、何かできないかな」
バイスは、ミコトの為に何かできないかと考える。
彷徨わせた視線が、自分たちが今座っているものを捉えた。
「……そうだ! ハデスにちゃんとした道具を借りて、舟の作り方教えてもらって、海を渡れるような舟を作らない? 僕もミコトと一緒に行くよ」
自分たちが座っている「いかだ」から閃いた思い付きを、ミコトに提案する。
便利な道具を色々出してくれるハデスなら、舟を作る為の道具も出してくれそうな気がしたのだ。
「バイス、好き!」
ミコトがバイスの言葉に、赤い目を輝かせて飛びついた。
「わわっ……」
飛びついてきたミコトの勢いを受け止め切れなくて、バイスは「いかだ」から落ちる。
澄んだ海に、頭から突っ込んだ。
慌てて海から頭を出し、「いかだ」に縋るバイスを、ミコトが無邪気に笑った。
「何してる。塩が入った水で水浴びか?」
「酷いよー、ミコト。水飲んで、口の中塩で一杯」
口ではミコトを「酷い」と言いながらも、バイスは自分のびしょ濡れ加減に笑う。
今日は少し暑いし、どうせなら本当に水浴びしていこうと水の中で服を脱いだ。
まだ、ハデスのくれた自由時間はあるはずだった。
体に纏わりつく服を脱ぐと、さらさらした冷たい水が肌を撫で、爽快な気分になった。バイスの足の間を、人を警戒することを知らない小魚が横切る。
バイスが脱いだ草の服を「いかだ」の上に置くと、ミコトは羨ましそうな顔をした。
「バイス、ずるい。私も入る」
ミコトも草でできた服を「いかだ」の上に脱ぐと、裸になってバイスめがけて海に飛び込む。
飛び込んできたミコトを、バイスが腕を広げて受け止める。
ミコトがバイスにしがみついた。
ミコトの重みで二人とも海中に沈んだが、すぐに浮き上がって笑った。
ミコトが楽しそうな顔をしているのが嬉しくて、バイスもミコトに抱きついた。
そのまま、ハデスがくれた自由時間を過ぎても、二人は楽しさのあまり水浴びを続けた。
そして、予想していたことだったが、目を吊り上げたハデスに二人で叱られるのだった。