表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/27

13.さびしい

 ――海に来たからと、ついでに釣りをしていくことになった。二人並んで釣り糸を垂れた。

木の棒と蔓で作った糸に、ミコトお手製の石で作った釣り針を付けた手作りの竿だった。


 浜辺とは違い、島から海面に木がせり出しているおかげで木陰がある。

光に当たるとすぐに目を回してしまうミコトは、木陰のせいで楽そうだった。


「一人で、トラと戦った。舟を作った。魚を獲った。私は大忙し」

「……大変だったね。よく頑張ったね」


 バイスは、この島で一人、暮らしていくのはどれほど大変だったろうと思う。自分は幼い頃から牢に居たけれど、衣食住に困らなかったし、猛獣に命を脅かされる事もなかった。


「……でも、小さい時、この島に来た。大変だったのは違う。一人、寂しい」


 寂しい、と言ってミコトは光る海面を見つめたまま、涙を落とした。


 バイスは、強いミコトが泣くのを見て、心臓が掴まれたように苦しくなる。


「バイスの住む島。来る人、私を見ると逃げる。トラに食べられてしまう。私の住む島。私をいらない。私を捨てた。寂しい」


 ミコトの顔は泣いているのに歪まない。ただ、涙だけが顔と無関係のように流れていた。


「ミコト……」


 バイスは、どういう言葉をかければ良いのか分からない。

 ミコトの背中が、いつもより小さいように見えて、そっと手を置く。


「私、仲間に入りたい。仲間に入れてくれる人たちへ、舟で行く。寂しい」


 しばらく、ミコトは肩を震わせて泣いていた。バイスは、ミコトが泣き止むまで黙って傍にいた。


 自分も牢に居た時、「寂しい」という気持ちだった事を思い出していた。

牢と壁の隙間から、楽しそうな笑い声が聞える時、自分も一緒に笑いあいたいと思った。


少しでも皆の傍に行きたくて、無意味だと分かっていながら、牢の隙間から手を伸ばしたことがある。


精一杯伸ばした手は、やはり届かなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ