13.さびしい
――海に来たからと、ついでに釣りをしていくことになった。二人並んで釣り糸を垂れた。
木の棒と蔓で作った糸に、ミコトお手製の石で作った釣り針を付けた手作りの竿だった。
浜辺とは違い、島から海面に木がせり出しているおかげで木陰がある。
光に当たるとすぐに目を回してしまうミコトは、木陰のせいで楽そうだった。
「一人で、トラと戦った。舟を作った。魚を獲った。私は大忙し」
「……大変だったね。よく頑張ったね」
バイスは、この島で一人、暮らしていくのはどれほど大変だったろうと思う。自分は幼い頃から牢に居たけれど、衣食住に困らなかったし、猛獣に命を脅かされる事もなかった。
「……でも、小さい時、この島に来た。大変だったのは違う。一人、寂しい」
寂しい、と言ってミコトは光る海面を見つめたまま、涙を落とした。
バイスは、強いミコトが泣くのを見て、心臓が掴まれたように苦しくなる。
「バイスの住む島。来る人、私を見ると逃げる。トラに食べられてしまう。私の住む島。私をいらない。私を捨てた。寂しい」
ミコトの顔は泣いているのに歪まない。ただ、涙だけが顔と無関係のように流れていた。
「ミコト……」
バイスは、どういう言葉をかければ良いのか分からない。
ミコトの背中が、いつもより小さいように見えて、そっと手を置く。
「私、仲間に入りたい。仲間に入れてくれる人たちへ、舟で行く。寂しい」
しばらく、ミコトは肩を震わせて泣いていた。バイスは、ミコトが泣き止むまで黙って傍にいた。
自分も牢に居た時、「寂しい」という気持ちだった事を思い出していた。
牢と壁の隙間から、楽しそうな笑い声が聞える時、自分も一緒に笑いあいたいと思った。
少しでも皆の傍に行きたくて、無意味だと分かっていながら、牢の隙間から手を伸ばしたことがある。
精一杯伸ばした手は、やはり届かなかった。