10.パーティーと永遠の誓い
バイスが呆然と立っている横で、ミコトはどこからか枯れ枝を大量に抱えて持ってくる。
更には、木の枝に、先程の干物やどこからか持ってきた魚を刺して焼き始める。
手が濡れているのを見ると、この近くに川があるのかもしれなかった。
辺りに、肉や魚が焼ける香ばしい匂いが立ち込める。
忙しく動くミコトに、バイスが手伝うことが無いか聞くと、「座れ」と言われる。
「お前、逃げない。よく来た」
最後にミコトは、またどこからか白く小さい花を持ってきて、バイスの頭に飾った。
「ハデス。お前、よく来た」
ハデスの前の石の卓にも、花が飾られる。
「ああ、ミコトは私が今日初めて姿を見せたから、今日来たと勘違いしているのですね。私は最初からあなたと共に居ましたよ。風や霧と共にあなたの傍に」
「ハデス、見えない。今、見える」
「ああ、そうですね。面と向かって喋ったのは今日が初めてですね。なら、花は頂きましょう。ありがとうございます」
バイスは、ミコトの言っている事は言葉が少なすぎて、よく分からない時があった。それでも、ハデスには分かっているようで会話を続けている。
「よく来た。よく来た」
ミコトはバイスに食べきれないくらいウサギ肉や魚・果物を食べさせる。
バイスはミコトに進められるままに、次から次へと食べ物を口にしていたが、とうとう降参する。
「も、もうお腹一杯です」
「お前、食べない」
バイスの食べる量に不満があるらしいミコトは、膨れっ面をしてみせる。
「さあ、火は私が見ているので、そろそろ寝てください」
そんなバイスにハデスが助け舟を出す。
「ハデス、いつ、寝る?」
ハデスの言葉に、ミコトがまた木立の奥から、細長い葉を編んだ織物を出してきた。バイスにも同じものが手渡される。
よく見ると、ミコトは同じように葉で編んだ服を着ている。
辺りはすっかり暗くなっていた。
周りの木々から、夜に鳴く鳥の声が反響してバイスとミコトの耳に届く。火を恐れてか、もう獣は姿を見せなかった。
「私は寝なくても大丈夫です。あ、バイス様、先程差し上げたレンズ……石はミコトに持たせてあげて下さいますか? 何やら持ちたいようで、そのままだとバイス様が襲われかねませんから」
「あ、ごめんなさい。どうぞ、ミコト様」
バイスは、火がついてから自分がずっと左手に石を握り締めているのに気づく。 眩いばかりの期待の目を向けるミコトに手渡した。
「ありがとう、バイス。すごい、これすごい」
ミコトは自分の持ってきた葉の織物に横になって、石を焚き火に翳して遊び始める。
「ミコト、その石についている紐を首に通したら、手で握ってなくても大丈夫ですよ」
バイスもミコトも、ハデスの指摘で、石に透明に近い光る紐のようなものがついていたことに気づく。
ミコトが素直に紐を首に通すと、石は胸元でそのまま夜空の星が落ちてきたように輝いた。
「さすがダイアモンド。よく光りますね」
「ハデス、ダアモド、何?」
「ダ・イ・ア・モ・ン・ド。金剛石。その石の名前です」
「ダイ、ア、モン、ド」
「そうそう。石の言葉は不滅と純潔です。遠い昔に、永遠を誓う石として珍重されました。人間に生み出されてから、私たちは人間に永遠の忠誠を誓ってきました。私から、貴方方への贈り物として実にふさわしい。屈折率も高いので、レンズにも使用されていたのですよ」
「ハデス、言う。分からない」
「ははっ、でしょうね」
バイスは、そんなハデスとミコトの無邪気なやりとりを見ている内に、段々眠たくなってくる。
自分も葉の敷物の上に横になった。夜の涼しい空気を、胸一杯に吸い込むと落ち着くのが分かるのだった。
――僕、鬼に食べられなくても良いよね……?
鬼は、すごく綺麗な人だったから……。
ハデスはどういう人なのかな。物を何も無い所から出すなんて、牢に居た頃、母に聞いた僕達の神様みたいだ。
そういえば、皆はどうなるのかな。みな……幸せになれるの……かな。
バイスの身に、たった一日の内で様々な事が起り過ぎていた。
疲れ果てたバイスは、ミコトとハデスのお喋りを聞きながら、いつの間にか目を閉じて寝入っていたのだった。