表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/13

06.ノートの準備はいい?

「先に正解を言うと、これは1/2です。」

「1/2・・」


 ユンの言葉を繰り返しながら、ルーがノートに書いていく。


「1つのオレンジを2個に割った内の1個。分母は1つのものをいくつに割ったかという数字。分子は割った数の内それが何個あるかを示しているの。」


 ユンの手元を見ながらフンフンとルーが頷く。同時に揺れる髭がなんだか可愛い。


「この場合、1つのものを2つに割ったから分母は“2”。私が今持っている大きさは2つの内1つだけだから分子は“1”」


 今度は割ったもう片方だけを上に掲げる。


「じゃあこっちを分数で表すとどうなる?」


 するとルーは首を傾げた。


「2/2・・・?」

「どうしてか説明できる?」

「分母の2は2個に割ったから。分子の2はさっきのが1個目で、これが2個目だから?」

「成る程。分子はね、『何番目』っていう順番を表すものではなくて、『いくつあるか』という数量を表しているの。」

「あっ!分かった!!」

「はい!じゃあルーくん。正解をどうぞ。」

「1/2!!」

「正解!!」


 ルーの水色の目がキラキラとオレンジを見つめている。正解したのが余程嬉しかったのか、灰色の尻尾までパタパタ揺れた。そんな彼を見てユンも自然に笑みが零れる。生徒のこんな笑顔を見られることが、教師のやりがいだとユンは思う。


「こっちもあっちも、どちらも1つのオレンジを半分にしたものだから答えは同じ。ほら並べてみると大きさが一緒でしょう?」

「うん!」

「どちらも1/2である事が分かったわね。はい、じゃあどんどん行くわよ。」


 今度は2つに割ったオレンジの実を、元の通りにくっつけて見せる。


「はい。これは数字で表すといくつ?」

「・・・1個?」

「そう。最初と同じ1個ね。今私が目の前で行った一連の動作を数式にする事できるの。ノートの準備はいい?」

「はい!」

「まず、こっちは1/2だったわね。そしてこっちも1/2。この足し算をノートに書いてみて。」


 分数の足し算の式の式自体は授業で見たからだろう。鉛筆は止まることなくスラスラと数式が書き込まれる。


「当たり!『1/2+1/2』ね。じゃあ次、答えは?」

「えっと・・・」


 鉛筆が止まってしまった。計算となると途端に難しく考えてしまうみたいだ。


「分からなくなっちゃったらもう一度オレンジを見てみて。」


 顔を上げたルーの目に映ったのはまん丸の形に戻ったオレンジの実。


「あ・・1?」

「正解!まずは授業で習った通りに計算してみようか。分母は足さないで、分子は足すのよね。そうするといくつになる?」

「2/2・・」

「そう。2つに割った内の1個と2つに割った内の1個を足すと、2つに割ったオレンジが2個になるわね。」

「うん。あっ・・・そっか!分母は『2つに割った』って“意味”だから“オレンジの数”じゃないんだ。」

「そう!もしここで分母も足してしまうと2/4。つまり4つに割った内の2つになってしまうわね。じゃあ、試しにこのオレンジで2/4を作ってみて。」


 新しいオレンジを渡すと、ルーは膝の上にノートと鉛筆を置いて皮を剥き始めた。鋭い爪がある分ユンよりも剥くのが早い。そして実の房を慎重に四等分する。その内二つをユンに差し出した。


「当たり。4つに割った内の2つだから、これが2/4ね。ねぇ、ルーくん。これとこれを比べてみて。」


 今度は最初に二つに割った1/2のオレンジとルーが割った2/4のオレンジを見せる。


「どっちが大きい?」

「あれ、同じだ・・」

「そう。同じだよね。1/2と2/4は同じ量を示しているの。さっき計算した2/2と1も同じだったよね。じゃあ今度はその説明をするよ。」


 バラバラになったオレンジは一旦紙袋の中に戻し、今度はノートに書きながら説明していく。ルーが分かった!!と目を輝かせる頃には、すっかり空はオレンジ色に染まっていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ