第5魔術 覚醒フラグだってさ
この話しで第一章終了です。
主人公はシウを守り切れるのか。
そして、シウのすご〜い能力とは……
第5魔術 覚醒フラグだってさ
「その【本】さっさと手放して楽になれよ。それさえあればお前に危害は加えないから安心しろ」
夜の公園。月明かりが優しく照らす中、壊れた公衆便所の破片やねじれ曲がった滑り台、哀れな姿になってしまった動物の乗り物が散乱している。
僕とシウは仮面少女ANDショタ妖精ペアと狂ったように水を吐き出し続ける噴水を間に挟みながら睨み合っていた。
「くっ、絶体絶命という奴ですか。僕が少年マンガの主人公ならここで覚醒して返り討ちにできるのですが……」
「ならマスタぁー、さっさとこんな雑魚ギッタンギッタンのボッコンボッコンにしちゃってよ」
そんなのができるなら最初からやってるっちゅうに!
落ち着け僕。こんな時は手の平に人という漢字を書いて飲めば良よかったはずだ、それと腹式呼吸。人、人、人、ひっ、ひっ、ふー、ちょっと落ち着けたかな。とにかく、今この状況を打破するのに必要なのはシウが持ってるらしい力を使う事だ。しかし、特撮ヒーローやアニメの変身シーンのように敵が能力の説明を聞いている間、待っていてくれるはずがない。必要最低限の説明を聞き、ぶっつけ本番で使ってみるしかないな。
僕は覚悟を決め、シウに話しかけた。
「シウ、君の力を貸してください。この状況を打破するために必要なんです」
「アイアイさ〜、既にマスター契約は結ばれているので魔力を込めれば大抵の魔法は発動するよぉ」
しかし、
ドゴーーン
「あめぇよ。戦闘中にお喋りなんて余裕ぶっこいてられるわけねえだろ」
僕がシウと話すために少し視線を反らすと奴等はここぞとばかりに襲ってきた。
僕は何とか横っ跳びにその攻撃を避けたがほのちゃんが地面に触れた瞬間、地面が爆ぜ、僕達は砂場にめり込んだ。
「もう【本】を渡しちゃいなよ。貴方にはその【本】をそこまでして守る義理も義務もないはずだ。どうしてそんな泥だらけになってもその【本】を守ろうとするんだい?」
今まで空気と化していた彼女の【本】、ショタ妖精が語りかけてきた。
「ゴホゴホ、僕はね。嬉しかったんですよ。ずっと一人で生きてきて、友達もできず、勉強ばかりやってたんです。もしもの時のために覚えた料理も食べさせる人がいない。ないない尽くしの僕にも、やっと友達が出来たんです。いつも側にいてくれて、家に帰ればおかえりと言ってくれる人が。そんな大切な人を売るようなマネはできません。シウは僕が守ります。僕の全てをかけて!!」
と叫ぶと、僕の手の中にいるシウの身体が輝きだした。それと同時にシウの分身である魔導書が僕の前へ浮遊してくる。
「僕に使えって言ってるのか?」
「マスタぁーが望むなら私はずっと側にいるんだよ。安心して、私はマスタぁーを全力でサポートする為に作られた魔導書。だからマスタぁーの意思で私を使って」
【本】を手に取り、僕達の敵へと視線を送る。仮面の少女は下を向いたまま動かず、彼女の【本】は何故か諦めた様な表情で彼女を見ていた。
「私の能力はどんなヘッポコ魔術師でも所持しているだけで究極の大魔導士になれる事。私がいる限りマスタぁーに敗北の二文字はないの」
「なっ!!そんな事はありえない。貴方は【禁書】級の【本】だとでもいうのか」
ショタ妖精は驚愕と同時に警戒体制に入った。今まで獲物だと思って油断していた相手が実は強者だったのだ。こうなるのも当たり前だろう。
「私も図書館の真っ暗な倉庫にずっと閉じ込められてきたんだよ。もう一人は嫌、私はレプリカなんかじゃないの。私はシウ。マスタぁーの素敵な素敵な永遠のパートナーなんだよ」
ん?なにか告白紛いの様な事を言われた気が……。
「シウ、行きますよォ!!」「ガッテン承知の助だよ」
「ほのちゃん!!マズイですよ。僕達ではまだ【禁書】級には敵いません。他の【本】を探しましょう」
勝てないと悟ったショタ妖精は撤退するために仮面の少女の名前を連呼するが、彼女は反応を示さない。俯いたまま何やら呟いている。
僕は魔導書を開き、一番最初に目に入った呪文を読み始める。魔導書はより一層輝きを増し、肩に乗ったシウも強い光を発しながら共に呪文を唱える。
長い呪文ではないが始めて二人で唱えた呪文はとても長く感じた。
「我が魔道の前に立ちふさがる障害を殲滅せよ、アトミックーーーー」「くっ、ほのちゃん後で文句言わないでね。【縮地】」
「ブラストォーー!!」
仮面の少女とショタは瞬時に消え去り、辺り一帯は真昼よりも明るい光に照らされた。
ってぇ!!焦って最強虐殺魔法使っちゃった。どうし……。
ここで僕の意識は途絶えた。
ーーーーーーーーーーーーー
ジリジリジリ、ジリジリジリ
目覚ましの音が聞こえる。
「マスタぁー、起きてぇ。マスタぁー」
うるさいな、もう少し寝かせてくれよ……
……ん、目覚まし時計?
「って、なんで僕は自分の部屋で寝てるんですか?昨日の戦いでマンションは崩壊したはずでは……」
「わかんな〜い。私も目が覚めたら昨日と同じ様に目覚まし怪獣が暴れてたんだよ」
シウにもわからない。一体誰がマンションを建て直し、気絶した僕達を部屋まで運んでくれたのだろう。
「ん〜〜謎ですね。それに僕達は愚かにも、いきなり虐殺魔法を使ってしまったんでしたよね。被害はどれくらいなんでしょうか。これは僕の人生史上最もヤバ過ぎる事件な気がします」
身を守るためとはいえ、あんな町中で大規模な魔法を使ってしまったのだ。間違いなくヤバイ事になっているだろう。
「ああ、それなら問題ないんだよ」
「えっ!?」
「虐殺魔法アトミックブラストは発動しなかったんだよ」
これが僕を心配させない様にシウがついている嘘なのか、本当に発動しなかっただけなのか僕にはわからない。
「しかし、凄く光り輝いて仮面少女とショタ妖精は消えてしまいましたよ。あれは魔法の力ではなかったのですか?」
「光ってたのは私が興奮したからでぇ、あいつらが消えたのはあいつら自身の能力を使ったからじゃないかなぁ」
僕は取り敢えずベッドから起き上がり、朝ご飯の支度をしだした。スクランブルエッグを作りながらテーブルに待つシウに話しかける。
「でも何故発動しなかったんですか? 確かに何かを注ぐイメージで呪文を読んだのですが」
「簡単な事なんだよ。そもそも、マスタぁーには魔力がないの。だから魔法が発動できなかったんだよ」
魔力がないから発動できなかったのか。って、もしかして……
「もしかして、僕は魔導書の魔法が全て使えないのでは」
「そだよ〜」
軽く言い放ちやがった。僕は思わず頭に手を当てて唸り声をあげてしまった。魔法の使えない魔導師が究極の魔導書を持ってるなんて、まさしくカモがネギを背負ってる様な状態じゃないか!!このままでは僕の命がマッハでヤバイ。
「何とかならないのですか。このままでは僕はヤバイ人達に簡単にヤられてしまいますよ。そもそも貴方の能力はどんなヘッポコ魔術師でも凄い魔導師にするのではなかったですか」
「どんなにヘッポコでも魔術師なら少しは魔力を持ってるんだよぉ。1なら100を掛ければ100になるけど、0にいくら掛けても0のままなの。私の能力はあくまで持ち主の魔力を増幅させる物であって、魔力を与えるものじゃないんだよ」
僕はヘッポコ魔術師以下ということなのか、がっくし。今日のスクランブルエッグはしょっぱいかもね。
「興奮して身体が光ったって言ってましたけど、やっぱり魔導書は所有者に使ってもらうとテンションが上がるのですか?」
僕はスクランブルエッグの次にソーセージを焼きながら、シウに問いかけた。
「それは……マスタぁーが私の事を大切な人って言ってくれたからなんだよ。私はずっと何も無い暗い場所に閉じ込められてたから嬉しかったの。それにマスタぁーも私と一緒で孤独に生きてきたって聞いたから親近感も湧いちゃったぁ〜」
へぇー、色々辛い過去があったんだ。頑張ったんだね。それが何故大学の図書館にいたのか、ますます謎が深まっていくなぁ。
僕は台所にいるのでシウの声しか聞こえないがその声から彼女がとても嬉しがっているのを感じ取れた。完成した今日の朝食、スクランブルエッグとソーセージにサラダを付けてシウの待つテーブルへ移動する。
「お待たせしました。シウがどれだけ食べるかまだわからないから取り敢えず2人分作ってみましたよ」
「わーい。この黄色いフワフワしたやつ美味しぃ〜」
シウがスクランブルエッグに飛びつく。僕はこのタイミングで誤解を解く事にした。
「シウ」
「らぁんなぁんらあ」
口いっぱいにソーセージを突っ込んでいるシウに話しかける。
「あの戦いで言ってた事、ほとんど嘘ですから」
「ブフっッッ!!」
僕はスクランブルエッグを口に運びながら話す。シウはご想像の通り、少しだけ残念な事になっている。
「隣の県に両親いますし、学校にも普通に友人がいます。勉強ばかりやってて料理は食べさせる人がいなかったのは事実ですけど」
サラダにドレッシングをかけながらシウの様子を見てみる。彼女は俯きながら呟いた。
「私の事は?」
「ん? 普通に大事ですけど」
シウはパッと顔を上げて胸を撫で下ろした。
「ハアァー、よかったんだよ〜。嫌われたのかと思ったの。酷い、流石マスタぁー酷い。なんでそんな嘘付く必要があったのぉ」
「いや〜、それっぽい事を言っておけば何とか危機を乗り越えられるんじゃないかと……」
言い切る前にシウは僕に飛び付いて来た。
ワイワイ、ガヤガヤ
独り特に何もなかった僕の部屋は数日でとても賑やかになったのだった。
何とか間に合いました。
携帯で書いてるとよく消えてしまいますね。
今回の話しでバトルパートは終了、暫く日常パートになります。
諸事情によりしばらく更新停止しようと思います。
自己満足から始めた小説ですが、見てくださった人達には感謝しています。ありがとうございます。
更新を再開するときにはもう少し構想を練り直し余裕をもって投稿したいと考えています。その時にはまた、どうか宜しくお願いします。