第1魔術 電気とは
化けの皮が剥がれます。
第1魔術 電気とは
「え~と、魔導書さんでいいんですよね」
僕は恐る恐る訊ねる。現在、僕がいるのは自分の部屋の中。机に向かって図書館から借りてきた情報技術者試験の参考書で勉強をしようとしていただけなのだ。
「うむ、違いなし。妾こそ最強にして最高の魔導書シリウスである」
とにかく僕は参考書を開けただけであって魔導書なんてものは全く知らない。そんな物はファンタジーの世界の産物だろ。
「なんか説明変わってますね、あと口調も」
「気にするな」
「まあいいですけど……。一つ質問していいですか」
「良かろう、特別に許してやる。今日の妾は久しぶりに外に出られてウキウキのワクワクな上機嫌だからな」
ならば遠慮無く聞くとしよう。
「さっきから喋ってるちっちゃな女の子は誰ですか?」
本の上で無い胸を張りながら威張り腐ってる手乗りサイズの少女を指差す。オモチャ屋に置いてあるフィギュアのような可愛らしい少女であった。
「何を言う! それは妾じゃぞ。ちなみに本体がこちらで、書物型の方が分体じゃ」
何と新事実発覚、先程から喋っていた少女が本体らしいのです。本なのに本の体ではないと。
「ぷぷっ、僕今ちょっとうまいこと言った」
「何を笑うとるのだ?」
僕の目の前に閉じたまま浮かんでいる書籍型魔導書さん(分体)の上にちょこんと座る少女型魔導書(仮)は不思議そうにこちらを向きながら首を傾げている。ちょっと可愛いかも。
「ぷぷっ、何でもないです。すいません。ところで魔導書さん、貴方は何故情報技術者試験の参考書から出てきたのですか?」
僕はオカルトを信じない方なので冷静に突っ込む。暇を持て余した右手がペンを回転させる。
「ジョウホウギジュツシャシケン……何のことだ?」
「その本のタイトルですよ」
魔導書さん(仮)は自分の状況がわかっていないようだ。見た目科学を取り扱う本がオカルト的な発言をするのはとても違和感がある光景だ。
「ふむ、何か被せられているようだな。それっ」
そう言うと魔導書は浮かび上がり高速で回転し始めた。すると本のカバーが剥がれて中から禍々しい本が現れた。やったね、魔導書さんは禍々しい魔導書さんに進化した。
「へ〜、ダミーのカバーだったんですね。小学校の頃、よく漫画に教科書のカバーを被せて授業中に読んでる人がいましたが、これはその原理と同じですね」
こんな回転の中、本から降りず一緒に高速メリーゴーランドに乗っていた彼女は大丈夫なのだろうか?
「ふ~スッキリした。ではマスターよ。何から始める?死者蘇生か?人心掌握か?それともさっそく世界征服からいくか? ワクワク」
あのカバーが窮屈だったのだろうか、彼女は少し伸びをした後、問いを投げかけてきた。僕は眉をひそめる。彼女の言葉から今までどんな使われ方をしてきたかが伺えたのだ。きっと酷い使われ方をしてきたのだろう。(何故か楽しそうなのは無視)
ならば僕の取る態度は一つ。
「そうですか。なら僕はもう寝ますのでそこの電気消しといてください」
「え? 世界征服とかしないの?恐怖政治とかやろうよぉ〜」
彼女は本の上から飛び跳ねて僕の肩に着地し、あごの辺りを揺すってくる。小ちゃな手がくすぐったい。
(たぶんこれが素なのでしょうね)
「しません。今日はそんな気分ではないのでもう寝ます。おやすみなさい」
僕は部屋の隅にあるベットにたどり着くと彼女を一瞥もせずに布団をガバッと被って寝ってしまう。
明日はいいことが起こりますように、おやすみなさい。
「え〜、つまんない、つまんないぃ〜。というか電気って何のことなのぉ……」
放置されてしまった小さな魔導書さんはふよふよと浮かぶ本の上で一人呟く。
それを意識的に無視して僕の意識は夢へと旅立って行った……
シリウスは自分を強く見せてマスターに自分を敬わせようとあんな口調にしてました。
彼女は唯の寂しがりやさんなのです。