桜の木の下の
桜の季節ということで。
美しいものは美しいと皆に讃えられる。反面、美しいものは常にそうでないものからの嫉妬を受ける。これは人情というものだ、仕方がない。
「桜の木の下に死体が埋まっている。」なんて都市伝説は意外とその辺から来てるんじゃないかと思う。だが、少なくとも自分からすれば、美しいものはそういった感情を内包しての美しさがあると思うので、はっきり言って逆効果であると言える。人々の嫉妬を受け、美しいものがひどい扱いを受ければ受けるほど、美しいものの持つ凛としたものが際立つように感じる。
などと、何でこんなしょうもない話をしているかというと、そんなお話のような出来事がつい先程あったからだ。
事の発端は、ご近所で有名な桜の木の下でお花見を楽しんでいた主婦仲間の集まりにて、どうにも犬が吠えるのでブルーシートをめくってみれば、何やら白味がかった不気味な突起があり、警察に電話してみたところ、桜の木の下の死体発見という流れだ。これで、見つかったのが金銀財宝であったのならば、この辺りの桜は花咲か爺さんが咲かせたんだねぇ。などとのんきな話になっていたのであろうが、見つかったのは死体である。近隣住民の方は申し訳ない、付近でのお花見は中止でということになった。
これに食いついたのが、各種マスコミであった。それこそ犬に骨を与えた時のような喜びであったとも言える。事も有ろうに遺体の身元が判明した際に『桜木道子』なんていう少し美的センスがずれた推理小説家が付けたような名前であったことも災いし、連日のように衆目の好奇の目に晒されることとなった。蛇足にはなるが、ここぞとばかりに近くに屋台の行列が出来たというのを付け加えておこう。
桜の散るころには収束するだろうと思ったこの事件も、意外な展開を迎える。結末を知ってしまった今だから言える。全国の日本に自生している植物を姓に持つ皆さん、色々気をつけましょうね。
そもそも身寄りがほとんどおらず、捜索願すら出されていなかったことで身元特定が困難になるほど遺体の風化が進んでいた今回の事件であるが、自宅捜査によってあっさりと謎が解明されたらしい。
遺書が見つかったのである。
掻い摘んで説明するとこうだ。近く行われる予定であった都市開発工事において、近所でも有名なこの桜の木が撤去される運びとなり、姓から判断するにこの桜に並々ならぬ愛情を注いでいた桜木女史は、当時交際していた男性から振られた精神的ショックも相まって、自分が桜の木の下で死ぬことにより、身を呈して桜を守ろうという経緯らしい。
しかしながらその工事は行われることもなく、結局発見されず今回の発覚に至ったということだ。
天下の警察様の発表によると、自殺という結論がこの一連の騒動の幕引きとなるらしい。
このような結末になって、一番憤慨していたのは、間違いなくマスコミ各社であろう。連日連夜の報道攻勢には誠に頭が下がる限りであるが、最終的には無駄な公共事業を悪とする共同路線を取っていたのは、傍目に見ても中々に面白い見世物だったと言える。
ちょっと物足りない結末になって申し訳ない限りだが、今日もどこかの桜の木の下で穴を掘る音が聞こえる。とか言ってこの話を締めれば、この話にもちゃんとした土が付くと言えるのではないだろうか。
ミステリー小説家に憧れてました。
誰か桜の開花予報トリックの小説を書いてください。