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60点だった俺のカンスト人生〜底辺レベル1のアラサー社畜、超難関ゲートに落ちて神竜を簒奪(オーバーライト)したら世界最強になっていた〜  作者: kiro


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バグらせる支援職(バッファー)と、ランキングの壁


探索者ギルドの裏手にある、防音・防魔シールドが張られた訓練室。


そこへ、俺は雨宮しずくを連れ込んでいた。


「本当に……本当にいいんですか? 私のバフ、体が鉛みたいに重くなって、最悪三日は寝込みますよ?」


しずくは身の丈ほどある杖を抱きしめながら、涙目で俺を見上げている。


「構わない。むしろ、最近肩こりがひどくてな。強めのマッサージだと思って受けるから、全力で頼む」


「そんな、マッサージ感覚で……。もし倒れたら、すぐに救急車呼びますからね!」


俺がネクタイを緩めて準備運動をしていると、しずくがポツリとこぼした。


「……私、ずっと足手まといだったんです。探索者の『ランキング』って、純粋な戦闘力の測定値と、ダンジョンの踏破数、モンスターの撃破実績の総合ポイントで決まる仕組みなんですけど……」


「ああ、ニュースで見たことあるな。トップ層はアイドル並みに人気なんだろ?」


「はい。例えば今朝ロビーにいらした、S級3位の【魔女】神宮寺瑠衣じんぐうじ るい様なんて、一人でA級ダンジョンをいくつも踏破する化け物……いえ、雲の上の存在です。それに比べて私は、パーティを組んでも私のバフのせいで攻略に失敗してばかり。撃破実績ゼロで、C級の最底辺……第89,210位です」


しずくは自嘲気味に笑った。


なるほど。ギルドのシステムは「結果(実績)」でしか評価しない。彼女の異常なポテンシャルは、結果を出せないが故に埋もれていたわけだ。


「まあ、ランキングなんて会社の営業成績みたいなもんだ。相性のいい取引先パーティに出会えなかっただけさ。ほら、遠慮せずやってくれ」


俺が促すと、しずくは意を決したように息を吸い込み、杖を構えた。


「いきます……っ! 『エンチャント・ブースト』!!」

彼女が杖を振り下ろした瞬間。


ドシュゥゥゥゥッ!! と、凄まじい密度の黄金の魔力が、訓練室の空気を震わせて俺の体にまとわりついてきた。


「えっ……!?」


しずくが驚きの声を上げる。

普通なら、この魔法を浴びた人間は、体が異常な負荷に耐えきれず「重い!」と叫んで膝をつくはずだ。


だが俺は、首をコキッと鳴らして肩を回していた。


【対象から未解析の支援魔法を受けました】

【筋力・敏捷・魔力が一時的に『5000%(50倍)』上昇します】

【対象の器(レベル上限突破・無制限)により、魔力の『オーバーフロー(容量超過)』は発生しません】


「おおっ……! これ、すごいな。栄養ドリンク100本イッキ飲みしたみたいに力が湧いてくるぞ」


「う、嘘……っ!? 全然、平気なんですか!?」


しずくは信じられないものを見る目で俺を凝視している。俺の足元の影からピョコッと顔を出したクロ(妖狐)も、「すっごーい!」とばかりに尻尾を振っていた。


「よっと」


俺は軽く、目の前にあった『B級モンスター相当の硬度』を持つ訓練用ダミーに向かって、デコピンを放った。


――ドォォォォォォォォォォンッ!!!


鼓膜が破れそうな爆音と共に、超硬合金でできたダミー人形が粉微塵に吹き飛び、その衝撃波で訓練室の防魔ガラスにビキビキと亀裂が走った。


「ひぃっ!?」

しずくが腰を抜かしてへたり込む。


「なるほど、50倍のバフか。さすがに素手で殴ると、衝撃の反動で俺のスーツが破けそうだな……丈夫な『武器』が欲しくなる」


俺は破片まみれになった訓練室を見渡しながら、満足げに頷いた。


「あ、あの……朝倉さん、ですよね。なんで平気なんですか? 私の魔法は、みんな動けなくなるのに……」


「雨宮さん、君の魔法の本質は『能力の底上げ』じゃない。対象のキャパシティ(限界容量)を無視して、致死量の魔力を強制的にねじ込む『オーバーフロー(桁あふれ)』の引き金だ」


俺はへたり込んでいるしずくに手を差し伸べ、立たせてやった。


「水風船に、消防車の高圧ホースを突っ込むようなもんだ。普通の探索者は、自分の限界を超えた魔力を注ぎ込まれて、体内の魔力回路がショート(魔力酔い)を起こして動けなくなっていたんだよ。俺はちょっとばかり『限界(底)』がない体質だから、全部エネルギーとして吸収できただけだ」


「そ、そんな……。じゃあ、やっぱり私の魔法は、朝倉さん以外には迷惑をかけるだけの欠陥品……」


俯く彼女に、俺はニヤリと笑いかけた。


「勘違いしてるな。じゃあ、それを『敵のモンスター』にやったらどうなると思う?」


「え? 敵に、ですか? ……で、でも、もし相手がS級ダンジョンのボスみたいな、ものすごく強い(容量の大きい)モンスターだったら、そのまま強化されちゃうんじゃ……」


「いいや、ダンジョンのシステムに縛られている以上、どんな格上のバケモノにも必ず『レベルに応じた容量の上限(設定値)』が存在する。そこに君のバグみたいな魔力を強制的に叩き込んだらどうなるか」


俺はクロのアイテムボックスから、深淵で拾ってきた『アビス・ゴブリン(レベル1000相当)』の生きた個体を一匹、訓練室の床に放り出した。


『ギャァァァッ!!』


突然外に出されて暴れようとする凶悪なゴブリン。そのすさまじい殺気に、しずくが悲鳴を上げる。


「あいつに、全力でバフをかけてみろ」

「け、けど……っ!」

「いいから。俺がついてる」


しずくは震える手で杖を向け、目をギュッと瞑って魔法を放った。


「『エンチャント・ブースト』!!」


黄金の魔力が、アビス・ゴブリンの体を包み込む。

その瞬間だった。


『ギャ、ギィィィィィィィッ!?』


強化されたはずのゴブリンの体から、バチバチと赤い放電が走り始めた。


突如としてゴブリンは白目を剥き、地面にベチャッと這いつくばって痙攣し始める。ブチブチと筋肉が異常膨張し、自らの魔力に体が耐えきれずに内部崩壊を起こし始めたのだ。


「……え?」

しずくが目を見開く。


「分かるか? 相手がどれだけ格上のバケモノだろうと関係ない。君の魔法は、システムの設定値(限界)を強制的にパンクさせる『魔力暴走(内部破壊)』のデバフだ。水風船がどれだけデカくても、許容量の50倍の水を一気に叩き込まれれば、必ず破裂するのと同じ理屈さ」

つまり彼女は、ただの支援職ではない。


ダンジョンのシステム(法則)そのものをバグらせて、いかなる強敵をも機能不全に陥らせる【防御無視のジャマー】であり、なおかつ、俺という例外にだけは最強のバフをかけられる【専用サポーター】なのだ。


『ギ、ギギャァ……』


床に這いつくばって自滅していくレベル1000のゴブリンを見て、しずくは自分の杖と、ゴブリンを交互に見比べた。


「私……足手まといじゃ、ない……?」


「ああ。むしろ、ルールブレイカーなエース級だ。俺のソロ活動には、君のバグみたいな力が必要になる」


俺がそう告げると、しずくの目からポロポロと大粒の涙が溢れ出した。


ずっと無能だと蔑まれてきた彼女が、初めて自分の存在価値(100点の使い方)を認められた瞬間だった。


「……よろしく頼むぞ、雨宮さん。残業代は弾むからさ」


「は、はいっ……! 私、朝倉さんのために、全力で頑張ります……っ!」


こうして俺は、アイテムを無限に運べる妖狐クロと、最強のバフ兼デバフ使いの少女しずくという、会社なら即戦力間違いなしの最高のチームを手に入れたのだった。


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