グローバル支社の決算と、第三者割当増資
アビス(本社)の最深部で、俺が創世神(CEO)の【創業者特権】によって全ての力を剥奪され、血の海に沈んでいたまさにその時。
地上(地球)では、俺の会社【朝倉商事】の優秀な社員たちが、世界同時多発ブレイクによって降臨した『役員クラス』たちと、各大陸の命運を懸けた壮絶な死闘を繰り広げていた。
◇ ◇ ◇
【アジア市場・北京上空】
「クロちゃん! 対象のシステムログ、完全に捕捉しました! 喰らいなさい!!」
秘書の雨宮しずくが、書類のバインダーを激しく振り下ろす。
彼女の【EX:絶対的支援】によって命中率100%を確約された神獣クロ(概念捕食者)が、巨大な漆黒の顎を大きく開き、アジアエリアを統括する執行役員の『防御概念』そのものをバリバリと噛み砕く。
『――ガ、アアアァァッ!? わ、私の不可視の装甲が、喰われ……!?』
防御を完全に失い、パニックに陥る役員。
「はい、お疲れ様! これが我が社のアジア市場の売上(決算)よ!!」
上空に舞い上がったCFOのバハムートが、役員が無限に生産していたモンスターの大群のエネルギーを【EX:世界の敵対的買収】で根こそぎ奪い取り、極大の真紅のブレスへと圧縮して放つ。
『――エ、エラー……。ア、アジア市場の、管轄権限が……ロスト……』
直撃を受けた役員が、光のポリゴンとなって霧散する。
「やりました、バハムートさん! アジアのメインサーバー、制圧(M&A)完了です!」
しずくがタブレットを操作し、役員から流出した莫大な『アジアエリアのシステム権限』を、瞬時に自社のネットワークへと回収する。
「さあ、急いで社長に送金(魔力供給)よ! 社長がアビスで、一人で残業してるんだからね!」
◇ ◇ ◇
【欧州市場・ロンドントラファルガー広場】
「灰原くん、右から来るよ! 座標固定、いっけぇぇぇ!!」
ルミが鼻血を出しながら、ゲーミングチェアの上で宙に浮き、狂ったような速度で両手の指を振る。
彼女の【EX:多元宇宙の配置転換】により、欧州エリアを統括する執行役員の『回避行動』が未来永劫キャンセルされ、ただ空中に縫い留められる。
「うおおおおおっ!! これが、ユーロ圏の全負債の一括請求ですぅぅぅ!!」
涙目になりながらも、決して退かずに役員の理不尽な重力攻撃を全身で受け止め続けた灰原が、限界まで膨れ上がった【EX:森羅万象のリボ払い】のエネルギーを、両手から極太のレーザーとして一気に解放する。
回避不能の役員に、欧州全土の絶望が変換されたカンストダメージが直撃した。
『――処理、不能。……欧州エリアの、法務権限が、喪失……』
光となって消え去る役員。
「よし! ロンドンのサーバー権限、ぶっこ抜きました! 社長、今そっちに送りますからね!!」
ルミが空中に浮かぶホログラムのコンソールを叩き、奪い取った欧州の権限を、地の底のアビスへと転送する。
◇ ◇ ◇
【北米市場・ニューヨーク】
「……フッ。俺としたことが、たかがシステム風情に一度でも膝を屈してしまったとはな。朝倉に拾われた命、ここで全額返済させてもらおう!」
北米支社長として復活した【星条の英雄】リチャード・スタークが、全身から黄金のオーラを吹き出しながら、アメリカ全土に湧き出したシステムバグの大群を、単騎で次々と粉砕していく。
「オリンポスの全ネットワーク、ならびに俺のレベル1万2千の全魔力(資産)。朝倉商事の代表取締役、朝倉健人に全額委譲する!! 受け取れ、俺たちのボス!!」
リチャードが天に向かって拳を突き上げ、北米大陸の全エネルギーが、目も眩むような光の柱となって地の底へと撃ち込まれた。
◇ ◇ ◇
【アビス(本社)最深部・社長室】
『……往生際が悪いぞ、朝倉健人。お前は完全に無力化されたのだ。ここでチリとなって消え去るがいい』
CEOが、俺の頭を踏みつけたまま、右手に収束させた純白の消滅エネルギーを振り下ろそうとした、まさにその時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォォッッッ!!!!!
アビスの絶対的な静寂と純白の空間を切り裂くように。
虚空の天井から、真紅、漆黒、黄金に輝く、三本の超極太の『光の柱』が、轟音と共に俺の体に向かって真っ直ぐに突き刺さったのだ。
『――な、なんだこれは!?』
CEOが驚愕し、踏みつけていた光の足を思わず引っ込める。
俺の体を貫いた光の柱。それは、物理的な攻撃ではない。
地上で死闘を繰り広げた社員たちが、アジア、ヨーロッパ、北米の各エリアの執行役員を倒し、地球というサーバーの『システム権限』の大部分を強引に奪い取り、それを社長である俺の口座へと直接送金してきたものだった。
『――警告、警告。地球ローカルサーバーにおける、アジア、欧州、北米エリアの管轄権限が、システムから強制的に切り離されました』
『――当該権限が、ユーザー・朝倉健人のアカウントに【第三者割当増資】として譲渡されています』
アビスのアナウンスが、信じられないエラーを告げる。
「……ハァッ、ハァッ……。おせぇよ、お前ら……。社長をどんだけブラック労働させる気だ……」
俺は、血まみれの口元を拭いながら、光の奔流の中でゆっくりと立ち上がった。
CEOの【創業者特権】によって凍結され、D級レベルまで引き下げられていた俺のステータス。
だが今、社員たちから注ぎ込まれた「世界規模のシステム権限」という莫大な外部資本によって、CEOの張った凍結のファイアウォールが、内側からメキメキと音を立てて砕け散り始めていた。
『ば、馬鹿な……!? 私の創業者特権が、外部からの権限干渉によって上書きされようとしているだと!? たかが人間の集まりが、世界システムの過半数のシェアを奪い取ったというのか!?』
「言っただろ。お前みたいな、トップが一人でふんぞり返ってるだけのブラック企業じゃ、俺たちみたいな『結束したホワイト企業』には勝てねぇんだよ」
バリィィィィンッッ!!!
完全なガラスが割れる音と共に、俺を縛っていたCEOの呪縛が完全に吹き飛んだ。
ズタズタになっていた漆黒のオーダースーツが、社員たちの魔力と想いを受けて、かつてないほどの輝きを放つ『真なる概念武装(社長の一張羅)』として再構築されていく。
胸の奥の神竜コアが、限界を突破して爆発的に脈打つ。
奪われた【EX:絶対経営権】が、世界中のサーバー権限を吸収したことで、システムそのものを乗っ取る『真のROOT権限』へとバージョンアップを果たしたのだ。
俺は、首の骨をポキポキと鳴らし、狼狽する光の創世神(CEO)を真っ直ぐに見据えた。
「さあ、ここからが本当の『株主総会』だ。……お前が定めたその理不尽なルール、俺が全部、暴力で白紙撤回してやる」
最強の平社員チームによる、神のシステムに対する究極の敵対的買収。
その最終決戦の火蓋が、今度こそ、真の意味で切って落とされた。




