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60点だった俺のカンスト人生〜底辺レベル1のアラサー社畜、超難関ゲートに落ちて神竜を簒奪(オーバーライト)したら世界最強になっていた〜  作者: kiro


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スーツ姿の初心者(レベル812)と、深層からの迷い人


東京・新宿区。高層ビル群の影にひっそりと口を開ける

『第8ゲート』。


ここは主にゴブリンやスライムしか出現しない、初心者用のF級ダンジョンだ。


「ええと、ライセンスの確認ですね」


入り口のゲート管理所。迷彩服を着た自衛隊員の警備員に、俺はホコリまみれのカードを提示した。


警備員はカードをスキャナーに通す。画面には【等級:F(※測定エラー履歴あり)】と表示された。


「……お兄さん、スーツのまま潜るのか? 最近は低階層でも変異種が出るって噂だ。死にたくなきゃ、せめて革鎧くらい買ってきた方がいいぞ」


「あ、大丈夫です。ちょっと運動不足の解消なんで」

同情するような警備員の声に愛想笑いで返し、俺はビジネスバッグを提げたままダンジョンへと足を踏み入れた。


 ◇ ◇ ◇

薄暗い洞窟の中を、革靴の足音だけがカツカツと響く。

すれ違う初心者パーティたちは、ネクタイを締めた俺の姿を見て「なんだあのサラリーマン」「自殺志願者かよ」とヒソヒソ笑っていたが、気にするだけ無駄だ。


『ギギャッ!』


曲がり角から、緑色の醜悪な小鬼――ゴブリンが飛び出してきた。


手には錆びたナタ。初心者探索者が初めて恐怖を覚える、定番のモンスターだ。


「……遅いな」


俺の目には、ゴブリンの動きがコマ送りのように見えた。


あくびが出るほどの速度。俺は避けることすらせず、迫るナタに向かって、デコピンの要領で中指を弾いた。


パァンッ!!

「……あ」

破裂音。


ゴブリンの顔面はおろか、上半身がトマトのように弾け飛び、光の粒子となって消滅した。


【経験値を吸収しました】

【レベルが上がりました:812 → 813】

「デコピン一発でこれかよ……」

【EX:概念破壊】による防御無視ダメージが乗っているとはいえ、あまりにもあっけない。


自分のデタラメなステータスに呆れつつも、俺の口角は自然と上がっていた。


残業してエクセルのセルを埋めるより、ダンジョンでモンスターを吹っ飛ばしている方が、何百倍も血が騒ぐ。


「もっとだ。この程度じゃ、100点には程遠い」


俺はネクタイをさらに緩め、足早に下層へと続く階段を下りていった。


 ◇ ◇ ◇

F級ダンジョン・地下5階。


本来なら初心者が数ヶ月かけて到達するエリアだが、俺は数分で踏破していた。道中のモンスターは全て、すれ違いざまのデコピンや張り手で爆散している。


「キャァァァァァァッ!!」


その時、前方の開けた空間から悲鳴が響いた。

歩みを進めると、そこには血の気を引かせた3人の若手パーティが、巨大なバケモノに壁際まで追い詰められていた。


「嘘だろ!? なんでこんな浅い階層に『オーク・ミュータント』が!?」


「ひぃぃっ! 嫌だ、死にたくないっ!」


体長3メートル。全身が赤黒い筋肉で覆われた豚頭の魔人。


どう見ても初心者が挑むF級のモンスターではない。C級、いやB級に匹敵する変異種だ。


若手パーティの少し後ろでは、そこそこ良い装備に身を包んだ中堅パーティの男たちが、ニヤニヤと笑いながら事態を傍観していた。


「おいおい、新人共! ちゃんと俺たちが『トレイン(なすりつけ)』してきた囮の役目を果たせよ!」


「俺たちが逃げるまでの時間稼ぎくらいしろっての! ギャハハハ!」


どうやら、あの中堅パーティが深層で手に負えない変異種を引き当て、逃げる途中でたまたま居合わせた若手たちになすりつけたらしい。ダンジョンでは時折起きる、最悪の悪質行為(PK)だ。


「……胸糞悪いな」


俺はため息をつきながら、ビジネスバッグをドサリと床に置いた。


『ブゴォォォォッ!!』


オーク・ミュータントが丸太のような剛腕を振り上げ、若手の少女探索者に叩きつけようとした、その瞬間。

――シュンッ。


俺は一歩だけ踏み込み、少女の目の前に割り込んだ。


「え……?」


尻餅をついた少女が、目を丸くする。


直後、オークの剛腕が俺の頭上に振り下ろされる。俺はそれを、左手一本であっさりと受け止めた。


ドゴォォォンッ!!


すさまじい衝撃波が広がり、洞窟の壁にヒビが入る。

だが、俺の革靴は1ミリも後退していない。スーツに少しシワが寄った程度だ。


『ブギィッ!?』 


オークが驚愕に目を剥く。


「なんだあのサラリーマン!?」

「バカな、オークの全力攻撃を片手で……!?」


傍観していた中堅パーティも、腰を抜かしたように叫び声を上げた。


「あーあ、青山で買ったスーツなのに。土埃がついちゃったじゃないか」


俺はぼやきながら、受け止めたオークの腕を軽く握り潰した。


『ギャァァァッ!?』


バキィッと骨が砕ける音。悲鳴を上げて後ずさる巨大な豚に向かって、俺は無造作に右拳を引き絞る。


「残業のストレス発散、付き合ってもらうぞ」


――ドグォォォォォォォンッ!!


ただのストレートパンチ。

それがオークの腹にめり込んだ瞬間、分厚い筋肉も、強靭な骨格も、概念ごと貫通した衝撃波が背中側へと突き抜けた。


オークの巨体はくの字に折れ曲がり、洞窟の奥深くまで弾き飛ばされ、壁に激突して跡形もなく消滅した。


【固有スキル『暴食の覇竜』が発動しました】

【対象の経験値と、スキル『剛力』を吸収します】

【レベルが上がりました:813 → 850】


ティロリンッ♪という軽快なレベルアップ音が脳内で響く。


やっぱり変異種ともなると、上がり幅が段違いだ。


「ふぅ……ちょっとは運動になったか」


俺が拳の埃を払って振り返ると、助けられた若手パーティも、囮に使った中堅パーティも、全員が幽霊でも見るような顔で俺の顔を凝視していた。


「あ、あんた……いったい、何者……?」


中堅パーティのリーダーが、ガチガチと歯を鳴らしながら後ずさる。


「俺? ただの通りすがりの、60点のサラリーマンだよ」


俺は床に置いたビジネスバッグを拾い上げると、呆然とする彼らを置き去りにして、さらなる深層へと歩き出した。


まだ、俺の『100点』の熱狂を満たすには、この程度のバケモノじゃ足りない。



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