圧倒的資本と、平社員の意地
圧倒的資本と、平社員の意地
「あ、朝倉ぁっ!!!」
ミレイの悲鳴が遠くで聞こえる。
「ゲホッ……ガハッ……!」
瓦礫の山から這い出た俺は、大量の血を吐き出した。全身の骨が軋み、肺が潰れたように息ができない。
「君の装甲は厄介だが……外装がない以上、その胴体はただの脆弱な肉体に過ぎない。私の権限の前では、簡単にヒビが入る」
白衣の男が、空を歩くように悠然と近づいてくる。
「やめなさいっ!! 『神滅の業火』!!」
ミレイが黄金の炎を纏って男の背後に斬りかかるが、男は振り返りもせず「邪魔だ」と一瞥した。
それだけで、ミレイの身体は目に見えない壁に叩きつけられ、地面に縫い留められたように身動きが取れなくなる。
「ミレ、イ……!」
「朝倉、逃げて! そいつは、次元が違いすぎる……っ!」
「……逃げる? ふざけるな」
俺は、血まみれのワイシャツの襟を掴み、無理やり立ち上がった。
「有給を潰されて、会社をぶっ壊されて、上司を殺されて。……ここで引き下がったら、俺は何のためにサラリーマンやってるか分からねぇだろうが……!!」
俺は右腕に限界まで魔力を込め、男の顔面へと跳躍した。
「『神竜式・空間破砕』!!」
だが。
「――遅いね」
俺の右拳が届くより早く、男の純白の手刀が俺の胸板(ワイシャツの隙間)を深々と貫いていた。
「ガ……ァ……ッ!?」
「不採用だ、泥人形」
男が手刀を引き抜くと同時に、俺の身体は再びボロ雑巾のように氷の床へと叩きつけられた。
意識が、明滅する。
(……あ、あぁ。ダメだ。……体が、動かない)
薄れゆく意識の中で、俺は自分の敗北を悟りかけていた。
15万という圧倒的なレベル差。システムの管理者権限。俺の未完成な防具では、これ以上のダメージに耐えられない。
『朝倉……! 朝倉、死なないで……っ!!』
遠くで、ミレイが泣き叫ぶ声が聞こえる。
そうだ。俺がここで倒れたら、あいつも殺される。それだけは、絶対にダメだ。
(……防具がないから、体が持たない?)
(なら。……体が完全に壊れるまでの『数秒間』だけ、限界を超えればいい)
俺は、自分の中の最深部に眠る『神竜(終焉の古龍)のコア』に意識を向けた。
普段は人間の肉体が崩壊しないようにシステムが制限をかけている、レベル9999オーバーの神竜の【本質の力】。
「システム。……安全装置を、全解除しろ」
『――警告。肉体の崩壊を防ぐ外装が存在しません。全解放を行えば、対象の肉体は自壊(死亡)します』
「構わねぇ。……サービス残業(命がけ)の時間だ」
ゴクンッ、と。
俺の心臓が、人間のものではない、巨大な『竜の鼓動』を打った。
全身の血管が黒く浮かび上がり、右腕だけでなく、俺の肉体そのものから「空間を歪めるほどの神竜の闘気」が限界を超えて噴き出す。
「……なんだ、その異常な数値は!?」
白衣の男が、初めて焦燥に顔を歪めた。
俺は、両足の骨が砕ける音を無視して、地を蹴った。




