死の淵の戦乙女と、炎神の加護(キャリアアップ)
――ふざけるな。
私はS級第4位、【紅蓮の戦乙女】だ。ただ背中に隠れて、守られるだけの女になるために、彼についてきたわけじゃない!!
「……どきなさい、朝倉!!」
ミレイが、俺の背中から飛び出した。100体のレベル3万の軍勢のど真ん中へ、彼女はたった一人で躍り出る。
「おい、バカやめろ! お前のレベルじゃ消し飛ぶぞ!!」
俺の制止を振り切り、ミレイは固有スキル【反逆の業火】を、かつてない最大出力で展開した。
100体の黒い騎士から放たれる絶望的な破壊光線。その規格外のエネルギーを全て双剣で受け止め、カウンターとして跳ね返そうという完全な自殺行為。
ズガァァァァァァァァァァンッ!!!
「――――ぁ、ああ、あ、ああああっ!!!」
激突した瞬間、ミレイの全身を「想像を絶する熱と苦痛」が襲った。
レベル3万が100体。そのエネルギーの奔流は、S級である彼女の許容量を文字通り何百倍も凌駕していた。
身に着けていた白銀の軽鎧が赤熱し、ジュウジュウと音を立てて彼女の肌を焼く。
絶対の自信を持っていた「炎の双剣」が、耐えきれずにボロボロとひび割れ、砕け散っていく。
皮膚が裂け、噴き出した血すらも瞬時に蒸発する。
(あ……ぁ……無理、だ……)
視界が黒く塗りつぶされていく。呼吸の仕方も分からない。内臓が炭になるような激痛の中、ミレイは膝から崩れ落ちた。
圧倒的な死の淵。完全なる暗闇。
自分の体が消し飛ぶ音と、遠くで「ミレイ!!」と自分を呼ぶ、血だらけの男の悲痛な叫びだけが聞こえる。
(ごめんなさい……。私、やっぱり……足手まとい、だった……)
意識が途切れ、システムが彼女の【HP:0(死亡)】を宣告しようとした、その刹那。
――『俺は今、虫の居所が最悪なんだ』。
丸の内で、理不尽に会社を奪われ、絶望の中で彼が見せたあの「決して折れない背中」が、ミレイの脳裏に焼き付いて離れなかった。
(……嫌だ)
彼を、独りにしたくない。
ここで私が倒れたら、防具のない彼は、あの理不尽な軍勢に殺されてしまう。
それだけは――絶対に、嫌だ!!
「あ、あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
ミレイは、砕け散った双剣の柄を炭化した両手で握り締め、溶け落ちる足で、無理やり立ち上がった。
死の淵で、限界をとうに超えた魂が、システムが定めた「S級の器」そのものを焼き切る。
『ピロリンッ!』
『――個体名:神楽坂ミレイの、生命維持パラメーターの完全崩壊を確認』
『しかし、対象の魂の出力が、規定システムを強制突破』
『特殊条件クリア。これより、既存スキルの【覚醒】を実行します』
死に体だったミレイの身体から、突如として眩いほどの「黄金の炎」が爆発的に吹き上がった。
彼女のステータスはEXクラスの領域には届かない。しかし、S級の枠組みの中における『絶対的な規格外(最高到達点)』へと至り、新たな特性【炎神の加護】を獲得したのだ。
炭化していた傷跡が黄金の炎によって再生し、真紅の髪が神々しい黄金色へと染め上げられる。
「進化スキル――『神滅の業火』!!」
炎の神そのものとなったミレイが、光の剣を振り下ろした瞬間。
レベル3万を誇る100体の粛清部隊の軍勢が、空間ごと黄金の業火に飲み込まれ――一瞬にして灰すら残さず消滅した。
「……はぁっ、はぁっ……! どう、朝倉! 私だって……!」
肩で息をするミレイが、涙と汗で濡れた顔で、得意げに俺を振り返る。
だが、その黄金の炎の余波は、奥に立つ『白衣の執行官(役員)』へも向かっていた。
「……素晴らしい炎だ。既存システムの泥人形にしては、最高傑作だね」
パチンッ。
白衣の男が軽く指を弾いただけで、ミレイが命を賭して放った黄金の炎が、まるで蝋燭の火を吹き消すように「概念ごと」ふっと消滅した。
「な……っ!?」
ミレイが絶望に目を見開く。100体の軍勢を焼き払う威力の炎が、傷一つつけられない。それが、S級の最高到達点と、システム管理者(役員)との間にある、絶対に超えられない『理不尽な壁』だった。
「ご苦労だったね、お嬢さん。次は君が消える番だ」
白衣の男がミレイの心臓を空間ごと抉り取ろうと、冷酷に腕を伸ばした――その瞬間。
「……よくやった、ミレイ。最高にカッコよかったぞ」
血まみれのワイシャツ姿の俺が、ミレイの前に立ち塞がり、白衣の男の腕を『漆黒の右袖』でガシリと掴み止めた。
「雑兵ども(デスクワーク)の掃除、本当に助かった。……ここから先は、俺とこいつの『役員面接』だ」




