悪質な包囲網(ブラック職場)と、防具の欠落
北海道・【氷の宮殿】の最深部、役員室へと続く巨大な氷の回廊。
その空間が突如としてドロドロに溶け落ち、巨大な転送ゲートが次々と開いた。
『――警告。対象のバグ(朝倉健人)の脅威度が規定値を突破』
『これより、執行官権限による【強制的な人員整理(一斉粛清)】を実行します』
ゲートから湧き出したのは、漆黒の鎧を纏い、四枚の禍々しい黒翼を生やした機械騎士たち。
俺の【鑑定】が、絶望的な数値を弾き出す。
【エネミー:執行官直属・粛清部隊】
【レベル:EX-30(既存レベル換算:30,000相当)】
「……おいおい、冗談だろ」
丸の内で東京を壊滅させかけた「A級の支店長」と同格のバケモノ。それが、十体、二十体と増え続け……最終的に【100体】の軍勢となって、俺たちの前に立ち塞がった。
さらに、その大軍勢の奥。最深部の扉の前に、見覚えのある「純白のコートを着た男」がふわりと降り立った。
北海道で俺を殺しかけ、しずくたちを囮にした不法占拠者。
このメインサーバーを統括する『役員(執行官)』だ。
「やあ、不愉快な泥人形。よくも私の部下たち(支店長)を派手に壊してくれたね」
白衣の男が、嘲るように目を細める。
「君のその異常な耐久力……どうやら『両腕』と『下半身』に不正な概念防具を纏っているようだが。上半身を覆う【外装】がない以上、そこはただの脆弱な肉体だ」
白衣の男が指を鳴らした瞬間。
100体のレベル3万が一斉に、極太の破壊光線を俺とミレイに向けて放った。
「ミレイ、俺の後ろに隠れろ!!」
「えっ――きゃあっ!?」
俺はミレイを背後にかばい、両腕の『漆黒の右袖と左袖』を交差させて全方位からの光線の豪雨を受け止めた。
ズガガガガガガガガガガガッ!!!!!
宮殿が崩壊するほどの凄まじい爆発。両腕と下半身の防具は光線を完全に弾き返すが、問題は「数」と「死角」だ。
「……チィッ!!」
防具の隙間である肩や背中、そしてミレイを守るために無防備になった部位へ、レベル3万の物理攻撃が雨霰と降り注ぐ。敵は俺の隙を突き、「俺が庇っているミレイ」を執拗に狙ってきた。
ズバッ!!
「くっ……!」
ミレイの頭部へ迫る黒い刃を庇った瞬間、俺の背中が深く切り裂かれ、ワイシャツが鮮血に染まる。
「あ、朝倉……っ!? 私を庇って……!」
「気にするな! 労災保険の範囲内だ……!」
俺は血を吐きながらも笑うが、状況は最悪だった。この圧倒的な物量の前に、ミレイを守り切りながら100体のレベル3万を全滅させるのは不可能に近い。
(私が……私が足手まといになっているせいで、彼が死ぬ……っ!)
ミレイは、血を流しながらも自分を護る健人の背中を見て、絶望と激しい「自己嫌悪」に苛まれていた。




