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60点だった俺のカンスト人生〜底辺レベル1のアラサー社畜、超難関ゲートに落ちて神竜を簒奪(オーバーライト)したら世界最強になっていた〜  作者: kiro


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バグった測定器と、残業終わりのダンジョン通い


パリンッ……!!


難攻不落と思われた巨大なイレギュラー・ゲートが、まるで飴細工のように砕け散り、夜の新宿に光の粒子となって溶けていく。


ダンジョンが『完全攻略』された絶対の証。

その中心で、破れたスーツ姿の俺――朝倉健人は、数百人の自衛隊員とエリート探索者たちから、文字通りハチの巣にされるような視線を浴びていた。


「おい、貴様」


群衆をかき分け、ズシン、ズシンと重い足音を立てて一人の男が歩み出てくる。


身の丈ほどある黄金の装飾が施された大剣を背負い、歴戦のオーラを纏った40代の男。


テレビの特番で何度も見たことがある。日本に8人しかいない最高峰、S級探索者の『獅堂しどう れつ』だ。


獅堂は猛禽類のような鋭い眼光で、俺を上から下まで睨みつけた。


「中で何があった? どんな化け物がいた? ……お前一人で、あの未曾有のゲートを攻略したのか?」


空気が張り詰める。


ここで「はい、レベル9999の竜とワイバーンの群れを素手で皆殺しにしてきました」なんて言えば、どうなるか。


間違いなく国境レベルの大騒ぎになり、モルモットのように研究機関に軟禁されるか、過労死するまで国にコキ使われるのがオチだ。そんな面倒くさい人生は御免だった。


俺はあえて、情けない声を作って肩をすくめた。


「いや、俺はただ逃げ回ってただけです。落ちた先で、山みたいにデカいドラゴンと怪鳥の大群が縄張り争いをしてて……勝手に共倒れしたんですよ。俺は岩陰で震えてたら、帰りの扉が開いたんで慌てて出てきただけで」


「共倒れ……だと?」


獅堂の眉間が深く刻まれる。彼は信じられないという顔で、俺に顔を近づけてきた。 


S級探索者が放つ、威圧的な魔力の波動。並の人間ならそれだけで気絶するほどのプレッシャーだが、俺にとっては「そよ風」程度にしか感じなかった。


「……身分証を出せ。貴様、探索者か?」


「あ、はい。一応、昔登録だけはしたんで……」


俺は財布から、長年放置していたホコリまみれの『探索者ライセンス』を取り出した。

獅堂はそれを奪い取るように見つめ、鼻で笑った。


「等級・測定不能……? なんだこのふざけたカードは。

おまけに貴様からは、スライムを倒せるほどの魔力すら感じられん。覚醒者の端くれにもなれない、実質ただの一般人パンピーじゃないか」


(よし、狙い通りだ)


レベルが上がりすぎたせいか、あるいは【EX:概念破壊】のスキルの副産物か。今の俺は膨大な魔力を完全に内包しており、他人の目には『何の力も持たないただの無能力者』にしか映らないらしい。


獅堂はライセンスを俺に投げ返し、背後の部下たちに顎で指示を出した。


「とはいえ、事態が事態だ。得体の知れないゲートの内部にいた以上、未知のウイルスや呪いを受けている可能性もある。マニュアル通り、ギルド本部へ連行して再測定と隔離検査を行え。俺は残骸の調査に戻る」


 ◇ ◇ ◇

こうして俺は、保護という名目で探索者ギルドの東京本部へと連行された。


通されたのは、防音設備の整った特別な測定室。


目の前には、水晶玉のような巨大な『魔力測定器』が置かれている。


「朝倉健人さん、ですね。お怪我はありませんか?」

事務的なトーンで声をかけてきたのは、タブレット端末を持った若い受付嬢だった。


彼女は俺の顔を見ることもなく、手元の端末で俺の過去のデータをスワイプしている。


「ええと、登録は5年前……等級は『測定不能』、スキルも不明。なるほど、稀にあるシステムエラーの記録が残っていますね。それでは、形式上になりますが、測定器に両手を置いてください」


(やっぱり、5年前のデータは『単なるエラー』として処理されてるのか)


俺はホッと胸を撫で下ろしつつ、水晶玉に手を伸ばした。


自分のステータスが、最新のシステムでどう処理されるのか。この水晶玉に『レベル812・EXスキル3つ』なんて表示されたら、その瞬間に言い訳できなくなる。


(頼むぞ……過去のデータ通り、適当にごまかしてくれよ)


祈るような気持ちで、水晶に手を触れた瞬間。


『ピピピピピピピピッッ!!』


凄まじい警告音が鳴り響き、水晶玉が強烈な赤い光を放った。


空中にホログラムのウィンドウが展開され、そこにはバグったような文字が乱舞する。


【等級:ERrOr…EX…測定不能】

【スキル:???】

【レベル:測定――】


パァンッ!!


小さな爆発音と共に、測定器から黒い煙が吹き上がった。ショートしたのだ。


「きゃっ!?」


「おっと、危ない」


俺は後ずさる受付嬢を庇いながら、内心でガッツポーズをした。

(よし! 俺の規格外のステータスは、やっぱりギルドの機械じゃ読み取れない! これなら『昔と同じエラー』で押し通せる!)


「す、すみません朝倉さん。お怪我はありませんか?」


「大丈夫です。……また、エラーみたいですね」


受付嬢は少し困惑したように煙を吹く機械を見た後、手元のタブレットと見比べ、小さくため息をついた。


「過去のデータ通りですね。朝倉さんの魔力波長は、どうやらうちの機械と相性が悪く、エラーを引き起こしてしまう体質のようです。健康状態の異常も見られませんし、本日は『測定失敗(現状維持)』として処理しておきます。お疲れ様でした」


「あー、助かります。明日も朝から仕事なんで」

事務的な対応に感謝しつつ、俺は悠々とギルド本部を後にした。


これで、国からもギルドからもマークされることはない。


俺はこれからも、目立たず騒がれず、60点の平和なサラリーマン生活を続けていける。

はずだった。


 ◇ ◇ ◇

翌日の夕方。


オフィスの自分のデスクで、俺はパソコンのキーボードを虚無の表情で叩いていた。


(……つまんねぇ)


いつも通りの適当な資料作り。いつも通りの適当な相槌。

赤点さえ回避できればそれでいいと、心底思っていた日常。

だが、タイピングする指先は、恐ろしいほどの軽さで動く。


少し力を込めれば、この安物のキーボードなんて一瞬で粉砕できるほどの暴力が、俺の体の中には眠っている。

脳裏にフラッシュバックするのは、血のように赤い空。

ワイバーンの鋼鉄の鱗を、素手で引き裂いた時の感触。

無限に湧き上がる力を使って、空を飛び回り、ただ本能のままに暴れ回ったあの数分間。


あれは、俺の30年の人生で初めて感じた『熱狂』だった。


あのヒリヒリするような全能感を味わってしまった後では、この平和な日常が、ひどく色褪せて、退屈で、まるでピントの合わない白黒映画のように見えてしまう。 


「あー……ダメだ」


時計の針が、18時00分を指した瞬間。

俺はパソコンをパタンと勢いよく閉じた。


「お疲れ様でした。俺、今日はこれで上がります」

「えっ? 朝倉が定時ダッシュ? 珍しいな、デートか?」

「まあ、そんなとこです」


同僚のからかいを適当に受け流し、俺はオフィスを後にした。


夜の東京。


俺が向かったのは、ネオン街でも、行きつけの安い居酒屋でもない。


新宿の端にある、初心者探索者向けの『F級ダンジョン・入り口』だった。


夜風に吹かれながら、俺はネクタイを緩める。

体の中で、竜の心臓(エンシェント・コア)が歓喜の産声を上げるようにドクンと鳴った。


俺の口角は、自然と深く吊り上がっていた。


「さてと……残業代稼いで60点の人生送るより、こっちで『100点』取る方が、何倍も面白そうだからな」

ビジネスバッグを肩に担いだまま、冴えないスーツ姿の男が一人。


獲物を求めるように目をギラつかせ、夜のダンジョンへと足を踏み入れた。



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