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60点だった俺のカンスト人生〜底辺レベル1のアラサー社畜、超難関ゲートに落ちて神竜を簒奪(オーバーライト)したら世界最強になっていた〜  作者: kiro


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不渡り(日常の崩壊)と、紅蓮の戦乙女



「……3時間だと!? ふざけるな、俺の会社(日常)をぶっ壊す気か!」


極寒の【B級ダンジョン・氷雪の高原】に、俺の怒号が響き渡った。


丸の内といえば、日本を代表するオフィス街であり、何より俺が勤める中堅商社の本社ビルがある場所だ。そこがダンジョンブレイクで消し飛べば、俺は文字通り「物理的に会社を失う」ことになる。


「落ち着け、朝倉。ギルドの特権で、最寄りの自衛隊基地から音速のステルス輸送機を即時チャーターした。東京まで1時間半で飛べる」


「雨宮さんは無事なのか!?」


「彼女は現在、丸の内にはいない。千葉の【C級ダンジョン】でソロ研修中だ。巻き込まれてはいない」


その天羽の言葉に安堵したのも束の間。俺の心臓は、かつてない嫌な動悸を打っていた。


3時間はあくまで「完全にボスが地上に出現するまで」のタイムリミットだ。すでに地上へモンスターが溢れ出しているなら、丸の内にいる部長や同僚たちは――。


 ◇ ◇ ◇


1時間半後。東京・丸の内。


ステルス輸送機から見下ろした日本のビジネスの中心地は、俺の知る姿を留めていなかった。


「……あ、あぁ……」


俺は、輸送機のハッチから身を乗り出し、絶句した。


高層ビル群はへし折れ、道路はひび割れ、見渡す限りの火の海。そして、俺が毎日通っていた「本社ビル」は、巨大な何かに食いちぎられたように、無残にも半壊していた。


アスファルトには、血の海と、引き裂かれたスーツの残骸が散乱している。


逃げ遅れた多数の一般市民やサラリーマンたちが、無数のモンスターたちによって蹂躙された後だった。


『……間に合わなかったか』


天羽が、ギリッと奥歯を噛み締める。


地上では、一体の巨大なバケモノが暴れ狂っていた。


全長30メートル。あらゆる光を飲み込むような『極上の光沢を放つ黒曜のレザー』で覆われ、四つの赤い目を持つ、竜と獣を掛け合わせたような異形。


【エネミー:黒曜の暴喰獣(A級ローカルサーバー管理体)】

【レベル:EX-30(既存レベル換算:30,000相当)】


そして、その絶望的なバケモノの足元で、血まみれになりながらも必死に防衛線を張っている「一人の女性」がいた。


燃えるような真紅の長髪をなびかせ、白銀の軽鎧を纏った、美しくも苛烈な女戦士。


「S級第4位、【紅蓮の戦乙女】神楽坂かぐらざかミレイか……! 彼女の固有スキル【反逆の業火】は、敵の攻撃エネルギーを吸収し、自らの炎に変換する能力だ。普段ならその炎を広範囲に拡散させる剣技で群れを制圧するが……あのレベルのバケモノ相手じゃ分が悪い!」


天羽が驚愕の声を上げる。 


『くぅ……っ、ハァ……ッ!』 


神楽坂ミレイは、震える手で二振りの炎の剣を構え直した。


彼女は今、その唯一の固有スキルを『完全な下克上ジャイアント・キリング』の用途で限界まで酷使していた。


レベル3万相当のバケモノが放つ極大魔法。その規格外のエネルギーを強引に剣で受け止め、同等の炎に変換して相殺し続けているのだ。だが、彼女自身の許容量キャパシティを遥かに超えた熱量を経由させているため、強烈な物理的反動が彼女の華奢な体を内側から焼き焦がし、限界まで削っていた。


泥人形バグの抵抗は無意味だ。フォーマット(捕食)を続行する』


暴喰獣が巨大な前足を振り上げ、背後に倒れる数人の「生存者」たちを庇って立つミレイごと、まとめて押し潰そうとした。


「……っ! 私の体力が尽きるまでは、背後の市民には指一本触れさせないわ!!」


ミレイが歯を食いしばり、必死に双剣を交差させた、その瞬間。 


俺の視力が、その生存者の中に、瓦礫の下敷きになって血を吐いている「見覚えのある恰幅の良い男」の姿を捉えた。


「……部長!!」 


俺はパラシュートもつけず、輸送機から丸の内の火の海へと真っ逆さまに飛び降りた。


ズドォォォォォォンッ!!!!!


暴喰獣の前足がミレイたちを粉砕する寸前。俺は空から隕石のように乱入し、漆黒の右袖でその巨大な前足を受け止めた。 


「……えっ?」


死を覚悟していたミレイが、突如として降って湧いたワイシャツ姿の男(俺)を見て、凛とした瞳を丸くして呆然とする。


俺は彼女には目もくれず、背後に倒れている営業部長へと駆け寄った。


「部長! しっかりしてください、部長!!」


「……あ、あさ、くら……? お前……なんで、ここに……」


腹部を瓦礫に深く貫かれ、致命傷を負っていた部長が、焦点の合わない目で俺を見た。


その手には、自らの血で染まった『来月の新製品発表の企画書』とサンプルの鞄が、大事そうに抱えられていた。


「バカ野郎……今日は、お前の……有給消化日だろ。会社に、来ちゃ……ダメじゃないか……」


「喋らないでください! 今、ポーションを――」


「……新製品のサンプル……なんとか、守ったぞ……。あとのプレゼンは……お前に、任せ、た……。ウチの営業部を……頼む……」


俺の強さなど何も知らない、ただの善良な上司。


彼は最期まで、ただの会社員として、部下である俺を気遣いながら。


その太い手が、力なくアスファルトに滑り落ち

た。


周囲には、いつも営業成績を競い合っていた同僚や、受付で挨拶を交わしていた後輩たちの無残な姿が転がっていた。


俺の、煩わしくも愛おしかった『日常』が、この理不尽なシステムによって完全に破壊されたのだ。


「――――――――」


俺の中で、何かが、決定的に「冷え切った」。

悲しみではない。怒りですらない。


それは、害悪なシステムに対する、純粋で絶対的な『殺意』だった。


俺はそっと部長の目を閉じさせ、静かに立ち上がった。


ワイシャツに付いた血を払い、暴喰獣を振り返る。


「……ちょっと、あなた! 逃げなさい、そいつは一般人がどうにかできる相手じゃ――!」


ミレイが俺を庇おうと叫ぶ。


「俺は今、虫の居所が最悪なんだ。……気安く話しかけるな」


冷たく言い放たれた俺の言葉に、ミレイはカチンと来た。(助けようとして警告したのに、なんなのその態度は!)


――だが。彼女のその反発心は、次の瞬間、絶望的な『恐怖』によって完全に凍りついた。


俺の背中から立ち上る、周囲の酸素すら奪い去るような異常な神竜の魔力プレッシャー


S級である彼女ですら理解の及ばない、文字通り次元の違う「殺気」。


「……人的リソースの損失。社屋および備品の損壊。そして、業務への重大な妨害(殺人)」


極寒の殺気を放つ俺の声が、火の海に響く。


「……この莫大な損害賠償(負債)。お前らの親会社システムごと、不渡り(倒産)にして支払わせる」


『バグの増援を確認。排除、排除ォォォォッ!!』

暴喰獣が四つの赤い目を光らせ、丸の内のビルを消し飛ばすほどの極太の破壊光線を吐き出してきた。


俺は歩みを進めながら、漆黒の左袖レフト・スリーブでその破壊光線を、まるでハエでも払うかのように「裏拳」で弾き飛ばした。


ズガァァァァァンッ!! 弾かれた光線が上空で爆散し、暴喰獣が驚愕に動きを止める。


解体リストラしてやる。二度とシステムの再起動すらできないように、肉片一つ残さずにな」

俺は一切の予備動作なく、空間そのものを『縮地』して暴喰獣の脳天へと転移した。


今までのように一撃で楽には殺さない。


俺の『漆黒の右腕』が、黒曜の鱗で覆われた強固な巨獣の右前足を掴み――神竜の筋力で、空間ごと「ブチィィィッ!!」と根元から引きちぎった。


『ギ、ギィギャァァァァァァァァァァァァッッ!!!!??』


レベル3万のA級隠しボスが、丸の内中に響き渡る無様な悲鳴を上げてのたうち回る。


「まずは右腕だ。次は左腕。その次は脚。……お前たち不法占拠者が、俺の日常から奪ったものの痛みを、そのエラーだらけのポンコツOSに刻み込んでやる」 


血の雨が降る丸の内で、ワイシャツと漆黒のスーツを纏った男が、巨大なバケモノを物理的に『解体』していく。


その圧倒的で、冷酷で、あまりにも規格外な背中。


「……なんなの、あいつ……」


S級としての誇りも、先ほどの反発心も、全てが吹き飛んでいた。


炎の双剣を取り落とし、へなへなとその場に座り込んだミレイの瞳に浮かんでいたのは、純粋な恐怖と、理解不能な存在に対する強烈な『興味』だった。


(ただのサラリーマンが、神を素手で解体している……。あなた、一体何者なの……?)


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