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60点だった俺のカンスト人生〜底辺レベル1のアラサー社畜、超難関ゲートに落ちて神竜を簒奪(オーバーライト)したら世界最強になっていた〜  作者: kiro


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クリアランスの壁と、S級への『逆営業』



北海道での未曾有のダンジョンブレイクから数日後。


俺は、東京・丸の内のオフィスで、焼け焦げたツーパンツスーツの代わりに買った安物の吊るしを着て、自分のデスクに向かっていた。


「いやぁ、朝倉! お前の手配した『運び屋』、本当にあの地獄からサーバーを無傷で回収してきやがったな!!」


営業部長が、俺のデスクの前で満面の笑みを浮かべていた。


「おかげで来月の新製品発表も予定通りだ。あの状況で凄腕のモグリに連絡をつけるとは、お前の人脈には恐れ入る! 約束通り、特別ボーナスと『有給5日』はキッチリ手配したぞ!」


「ありがとうございます、部長」


俺は完璧な営業スマイルで頭を下げた。


「しかしお前、その左腕の物々しいギプスはどうしたんだ? 頬にも火傷のガーゼなんて貼って」


「ああ、これですか。運び屋との極秘の引き渡し現場がちょっと治安の悪い裏路地でして、階段から派手にすっ転びました。労災は申請しないのでご安心を」


適当な嘘で誤魔化し、俺はPCのモニターに視線を戻した。

(……ボーナスと有給はありがたいが、休んでる暇はないな)


俺は隠れてダンジョン情報サイトを閲覧しながら、密かにため息をついた。


雨宮さんの話では、北海道のダンジョンは「一時的に冬眠状態」になったという。だが、あの『執行官』というシステムの管理者が、いつポンコツOSを再起動させて日本を消し飛ばしに来るか分からない。猶予が明日までなのか、一ヶ月あるのかすら不明だ。


それまでに、俺はレベルを上げまくり、全身の『オーダースーツ(概念武装)』を完成させなければならない。


(俺が今まで倒してきた高レベルのバケモノは、新宿の隠しボスや、札幌のイレギュラーだ。……じゃあ、元々の危険度が高い『指定クラスC』や『クラスB』のダンジョンの奥底には、一体どれだけヤバいレベルのバケモノ(極上の生地)が眠っているんだ?)


EXクラスとなった俺にとって、上位ダンジョンはまさに宝の山だ。


だが、ここで『現実的な壁』が立ちはだかる。

「……俺、一番下の『クリアランス1』の免許しかないんだよな」


S級やF級といったアルファベットは、あくまで「生まれ持ったスキルのレア度(才能)」を表す指標に過ぎない。


日本の法律上、ダンジョンの入場制限はそれとは全く別の『探索クリアランス(資格)』という基準で厳格に管理されている。上位のクリアランスを得るには、探索での実績とあわせてギルドが主催する数ヶ月間の講習と実技試験をパスしなければならないのだ。


俺のスキルは最低レアのF級だが、条件さえクリアすれば上位クリアランスを取ることはできた。だが、平日は夜まで残業している普通のサラリーマンに、何ヶ月もギルドの講習に通う暇や探索実績を積み上げる時間などあるはずもなく、俺の免許はずっと「一番安全なダンジョンにしか入れないクリアランス1」のままだった。


(自力で資格を取る時間はない。上位ダンジョンに合法的に入るには、特例で『臨時同行パス』を発行できるS級ギルドのスポンサー権限が必要だな……)


俺はスマホを取り出し、北海道で名刺交換をした相手の連絡先を呼び出した。


 ◇ ◇ ◇


その日の終業後。

東京・銀座にある高級会員制ラウンジの個室。


「……まさか、お前の方から連絡をしてくるとはな。朝倉」


革張りのソファに深く腰掛けたS級第2位【剣聖】天羽蓮は、グラスの氷を揺らしながら、ひどく機嫌の良さそうな笑みを浮かべていた。


相変わらず隙のない男だが、その瞳の奥には、以前のようなただの好戦的な光ではない、静かで底知れぬ「深淵」が宿っている。


「単刀直入に言います、天羽さん。俺に、危険度クラスC以上のダンジョンに入れる『臨時同行パス』を発行してくれませんか。どうしても上位のレア素材が必要なんです」


俺の要求に、天羽はニヤリと笑ってグラスを置いた。


「ほう。サラリーマンの限界を悟って、ついに俺の誘いに乗る気になったか。いいだろう、俺の『天刃』の専属探索者メンバーになるなら、どのダンジョンだろうがフリーパスを用意してやる」


やはり、そう来るか。


俺は出された高級な水には口をつけず、ビジネスバッグから一枚の企画書を取り出してテーブルに置いた。


「お言葉ですが、俺は今の会社を辞める気はありません。あくまでギルドに籍を置かない『外部の業務提携』として、俺を同行させてほしいんです」


「……会社は辞めないだと?」


天羽の機嫌の良い笑みがスッと消え、剣呑な殺気が漏れ出す。


「ふざけるな。お前の都合のいい時だけ俺の権力をタクシー代わりに使う気か? 俺に何のメリットがある」


俺は構わず、営業スマイルを深めた。


「北海道で、お前のレベルは『1000』に繰り上がったはずだ」


俺のその言葉に、天羽の殺気がピタリと止まった。


「あの氷の迷宮で、システムのアナウンスが聞こえましたよ。天羽さん、あんたはシステムが定めた999の鳥籠を自力で叩き割り、『外側の景色(システム外)』に足を踏み入れた」


「……お前、気づいていたのか」


「ですが、あんたの限界突破はまだ『不完全』だ。あのレベル1000の壁の先で、どうすればもっと効率よくシステムを斬り裂けるのか……まだ手探りの状態じゃないですか?」


「……何を言いたい」


「俺にパスを出して、上位ダンジョンに同行させてください。その代わり……俺がどうやって規格外のスキルを構築し、バケモノを物理で粉砕しているか、一番特等席で『観察』させてあげますよ」


天羽の目が、カッと見開かれた。


彼は俺を勧誘したかった最大の理由である「異常な強さの秘密」を、共に戦うことで自身の限界突破のヒント(ノウハウ)として吸収できる。俺は彼のパスを利用して、合法的に指定クラスCのダンジョンで素材集めと残業レベリングができる。完璧なWin-Winの取引だ。


「……っ、ははははっ!!」


数秒の沈黙の後、天羽は腹を抱えて大笑いした。


「いいだろう! まさかS級の俺が、イチ会社員からダンジョン攻略の『同行営業』をかけられる日が来るとはな! その取引、乗ってやる!」


「ありがとうございます。では、有給を使ってダンジョンに通いますので、パスの発行を――」


「待て。ただパスを出すだけじゃ、お前の会社に怪しまれるだろう。平社員が毎日上位ダンジョンに入り浸っていれば、不法就労を疑われる」

天羽は悪魔のような笑みを浮かべ、スマホを取り出した。


「お前の『日常(サラリーマン生活)』を守るための、最高のカモフラージュを用意してやるよ」


 ◇ ◇ ◇


翌朝。俺の会社の営業フロア。


「あ、あさく、朝倉ぁぁぁぁっ!!!」


部長が、血走った目で俺のデスクに突進してきた。その手には、一枚のFAX用紙が握りしめられている。


「ど、どうしたんですか部長」


「S級ギルド『天刃』から、ウチに『大型の業務委託』が来たぞ!! 明日から始まる【C級ダンジョン・灼熱の火山】の深層調査において、現地で採掘される特殊鉱石の『リアルタイム査定業務』をウチに任せたいと!」


「へえ、凄いじゃないですか」


「前金で『3億円』だ!! しかも、条件として『査定担当には朝倉主任を指名する。彼には以前、仕事で世話になった恩がある』と書いてある!! お前、いつの間に天羽様とそんな太いパイプを……!!」


部長が涙を流して俺の肩をバンバンと叩く(左腕の折れた骨に響いてめちゃくちゃ痛い)。

俺は悟った。


あの人(天羽)、俺の会社に『3億円の業務委託』をねじ込むことで、俺のダンジョン潜りを「有給消化」ではなく「会社の正式な出張(社命)」にすり替えやがったのだ。


これなら、『外部の専門家』という名目でギルドの特例パスが降りる。堂々と会社の経費でダンジョンに潜り放題である。


ただの「スカウトする側とされる側」だった関係が、理不尽なシステムに抗う『最強の共犯者』へと変わった瞬間だった。


出張扱いの最初の行き先は、灼熱の火山ダンジョン。俺の『耐熱インナー』を作るための、最高の仕入れ先だ。


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