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60点だった俺のカンスト人生〜底辺レベル1のアラサー社畜、超難関ゲートに落ちて神竜を簒奪(オーバーライト)したら世界最強になっていた〜  作者: kiro


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【測定不能】の絶望と、レベル1からの残業(リスタート)



「……ん?」


俺は眉をひそめて天井を見上げた。


レベル1800の側近を消し飛ばし、札幌支社のサーバーを回収した直後。氷の宮殿全体の空気が、物理的な重さを持って俺の肩にのしかかってきたのだ。


『――警告。エラー。システム領域外からの不正アクセスを検知』


『空間座標が書き換えられます。強制シャットダウン――』


ピピピピピピッ!! と、俺の視界の端でシステムウィンドウが、今まで見たこともない真っ赤なノイズを放ち始めた。


「朝倉さん……っ! な、なんですかこれ……空気が、重くて……息が……っ!」


しずくが胸を押さえて膝をつく。クロも影の中で『キュゥゥ……』と怯えたように丸まっていた。


空間そのものが「ミシミシ」と悲鳴を上げている。

やがて、俺たちの数十メートル先の空間が、まるで黒いインクを落としたようにドロリと歪み


――そこから、『一体の存在』が静かに降り立った。

それはモンスターではない。


透き通るような白い肌に、幾何学的な光のヘイローを頭上に浮かべた、人間と見紛うほど美しい中性的な姿だった。


だが、その存在感は、これまでに遭遇したどんなバケモノとも異質だった。生命としての熱が一切ない。

俺は即座に【鑑定】を放つ。


【エネミー:???(管理者権限・代行体)】

【レベル:測定不能(ERROR)】

【特性:???】

「レベル……測定不能?」


俺が呟いた瞬間、その存在は無機質な黄金の瞳で俺を見据えた。


口は動いていないのに、脳内に直接、無機質な声が響く。


『――観測完了。不完全な箱庭システムに生じた、想定外のバグ。あの方々(・・・・)が勝手に書き加えた泥人形の生存機能が、エラーを引き起こしているか』


「あの方々? 箱庭?」


俺が聞き返すが、その存在は対話する気など一切ないようだった。


『システムの正常化を実行。対象のデータを、概念的に削除デリートする』


その存在が、細く白い指先を俺に向けて軽く振った。


ただそれだけ。魔法の詠唱も、魔力の波動もなかった。


(マズい……ッ!!)


俺は本能的に、サーバーを飲み込んだクロとしずくを庇うように前に出て、右拳に『見えない空間のグローブ』を限界まで圧縮して構えた。


「ナメるな! 『空間圧縮・ストレート』!!」


俺は全身の神竜の魔力を乗せ、絶対に干渉されないはずの「圧縮空間の壁」ごと、その見えない攻撃を殴り飛ばそうとした。


レベル2200の装甲をも跡形もなく消し飛ばした、俺の無敵の防具。

だが。


――パァァァァァァァァァァンッ!!!!!


鼓膜を突き破るような破砕音と共に、俺の右拳を覆っていた『空間の壁』が、まるで薄張りのガラスのように粉々に砕け散ったのだ。


「……なっ!?」


『見えない手袋』ごと、俺の右腕の骨がミシミシと嫌な音を立てる。

(空間の概念ごと、消去された……!?)


「ただ地球ローカルの物理法則を弄っただけの壁など、我々『上位権限』の前には無意味。……消えろ」


防御ごと削り取る見えない一撃が、俺の体を直撃した。


ズガァァァァァァンッ!!!!

「ガ、アァァァァァッ!!!」


「朝倉さんっ!!!」


俺の体は後方へ数十メートル吹き飛ばされ、氷の壁に激突した。


痛い。全身の骨がきしみ、口から血の味が広がる。俺の異常な生命力バグがなければ、今のの一撃で跡形もなく消滅していただろう。


そして何より――俺のお気に入りのツーパンツスーツが、上半身の半分以上炭化し、ボロボロに消し飛んでいた。


「……しぶといバグだ。完全に削除するまで、あと二回の処理が必要か」


その存在が再び指先を向ける。


(……クソッ。こいつはルールが違いすぎる。PCの画面内のキャラクターが、プレイヤーの削除コマンドに抵抗できないのと同じだ)


このままじゃ全滅する。

サーバーを守り、しずくたちを生かして帰す。サラリーマンの出張ミッションは、生きて帰るまでが仕事だ。


「……雨宮さん! 目眩ましだ!!」


俺は血を吐きながら叫んだ。


「は、はいっ! 『オーバーフロー・ブラインド』!!」


しずくがとっさに機転を利かせ、極大の魔力のバフを閃光弾のように放った。


「無駄な真似を」


相手が光を払いのけた一瞬の隙。

「クロ! 限界突破だ! ここから一番遠い地上へ


『影渡り(ゲート)』を繋げ!!」

『キュ、キュイィィィィィィッ!!!』


クロが限界を超えて影の穴をこじ開けた。

俺はしずくの腰を抱き寄せ、崩れ落ちる氷の宮殿から、クロの開いた緊急退避ゲートへと文字通り「逃げ込んだ」。


『――逃がすか』


背後から迫る削除の波動が、ゲートが閉じる寸前の俺の背中を掠め、視界が暗闇へと沈んだ。


 ◇ ◇ ◇


……ドサッ。

札幌市街地の外れ、防衛ラインのずっと後方の雪原に、俺たちはボロボロになって転がり出た。


「はぁ……はぁ……」


「朝倉さん! 朝倉さん、背中から血が……!」


しずくが泣きそうな顔で俺の背中をさする。

俺は雪の上に仰向けに倒れ込み、ボロボロに焼け焦げて半裸のようになった自分のツーパンツスーツを見下ろした。


サーバーは守り抜いたが、俺の「サラリーマンとしての防御力」は完全にへし折られ、生まれて初めての『敗北』を喫したのだ。


(……俺の空間魔法が、ただの「地球ローカルの物理法則」に過ぎないって……?)


痛む右腕を庇いながら、俺は視界の端にずっと表示されていた自分のステータス画面を睨みつけた。


【レベル:999(上限)】

【経験値:99,999,999 / ERRORオーバーフロー


探索者の世界には、絶対的な壁が存在する。

S級探索者と呼ばれる一握りのバケモノたちは、その「チートじみた固有スキル」のおかげで単独での異常なレベリングが可能であり、結果としてその多くがこの『レベル999』というシステム上の上限カンストに到達している。


対して、A級以下のスキルはS級に比べて明確に能力が劣るため、高難度ダンジョンの単独討伐が不可能だ。そのため、これまで確認されているA級探索者の最高到達レベルは『850』になっている。


俺の場合、新宿で「ワイバーン」をワンパンして一気にレベルが跳ね上がって以降、『幻影書庫』の防衛魔像や隠しボスを殴り倒す過程で、あっさりとその人類の限界である「レベル999」に到達してしまっていた。


だが、そこから先はピタリと止まっていたのだ。先ほどの氷獄の騎士長(レベル1800)を倒そうが、経験値の項目が「ERROR」とバグるだけで、システムは俺の成長を完全にシャットアウトしていた。


(……人類の限界(レベル999)なんて、ただのシステム上のストッパー。俺たち人類を『管理しやすい平社員』の枠に閉じ込めておくための、ふざけた仕様だったってわけか)


俺が雪空を見上げ、忌々しそうに息を吐いた、その時だった。


『ピロリンッ』


不意に、俺の脳内に、いつもの無機質なシステム音とは違う、どこか『温かみのある優しい音色』が響いた。


直後、俺の視界に、淡い青色の新しいシステムウィンドウが展開される。


『――条件クリア。不完全な箱庭のレベル上限(999)への到達、および超過経験値エラーの蓄積を確認』


『上位権限(敵対的)からの直接攻撃を生存・検知しました』


『――隠しプロトコル起動。人類側・・・からの最終パッチを適用中……』


「……なんだ、これ?」


ウィンドウの文字が、滝のように流れていく。

そして、長らく「999」で固定されていた俺の見慣れたステータス画面が、パリンッと音を立てて砕け散った。


代わりに表示されたのは、蓄積されていた莫大なバグ経験値をリソースにして再構築された、全く新しいフォーマットのステータスだった。


【氏名:朝倉 健人】

【クラス:EX(超越者)】

【レベル:1】

【次のレベルまでの必要経験値:10】

【レベル上限:∞(無限)】

【魔力統合:完了(神竜因子を正規システムに紐付け)】

『メッセージを受信しました:「理不尽な箱庭を壊し、生き延びてください。反撃の種は、蒔かれました」』


俺は、その青いウィンドウの文字を読み……思わず、血まみれの口元でニヤリと笑ってしまった。


「……なるほどな」


あの執行官が言っていた「あの方々」とやらが作ったこのダンジョンシステム(箱庭)。


ダンジョン作成者同士の派閥争いか何か知らないが、現場の人間(人類)に不完全な仕様(レベル999上限)を押し付けていたどこかの『味方のシステム管理者』が、俺の溜まりに溜まった超過経験値を鍵にして「システムの裏口パッチ」を開けてくれたらしい。


人類の限界だと思っていたレベル999なんて、ただの役職手当のつかない『ヒラ社員の給与テーブル』の頂点に過ぎなかった。


ここから、給与レベル青天井の「役員報酬(EXクラス)コース」が始まるのだ。


「新部署への異動で、レベル1から平社員としてやり直し(リスタート)か……ははっ、笑えねぇ。……だが、やりがい(成長幅)はある」


俺はよろけながら立ち上がり、遠くで黒い瘴気を放つ氷のダンジョンを睨みつけた。


「有給明けには、最高の姿オーダースーツにレベルアップして、もう一度お前の胃袋に直談判しに行ってやるからな……!」


最強のサラリーマンが初めての敗北を知り、

カンスト状態で頭打ちになっていたステータスが、限界突破プレステージを果たし、果てしない未知への反逆(無限レベルアップ)へと姿を変えた、真の覚醒の瞬間だった。


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