表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60点だった俺のカンスト人生〜底辺レベル1のアラサー社畜、超難関ゲートに落ちて神竜を簒奪(オーバーライト)したら世界最強になっていた〜  作者: kiro


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/47

未曾有の絶望(レベル2200)


北海道、札幌市。


かつては数百万人が暮らしていた雪と氷の美しい都市は、今や見渡す限りの地獄と化していた。

A級指定ダンジョン【白銀の霊峰】から溢れ出した数万のモンスター群。


吹雪に混じって濃密な紫色の魔力(瘴気)が吹き荒れ、市街地のビル群は巨大な氷柱に貫かれて次々と崩壊していく。


「退がるな! 俺の背中より後ろには、十万の市民が避難しているんだぞ!!」


札幌防衛ラインの最前線。


猛吹雪の中で部隊を鼓舞していたのは、日本S級第5位、【不動】の異名を持つ歴戦の老探索者・東郷とうごうだった。


彼の固有スキル『金剛城壁』によって生み出された巨大な光のタワーシールドが、A級モンスターであるアイス・ドレイクの突進を真正面から受け止める。


「フンッ!!」


東郷が盾を押し返すと、ドレイクの巨体が数メートル吹き飛んだ。レベル999という人類最高峰のステータス。彼がここに立つ限り、この防衛線は絶対に破られないはずだった。


だが、ダンジョンの異常は「人類の常識」を容易く踏みにじった。


ピピピッ、ピーーーッ!!!


突如、後方でモニタリングしていたギルド職員たちの特殊測定器から、エラー音のようなけたたましいアラートが鳴り響いた。


「な、なんだ!? 空間の魔力濃度が……計測器の限界値を振り切っています!」


「上空です! ダンジョンの領域そのものが拡大して、空間が……裂けます!!」


空中に、赤黒い亀裂が走った。


そこから、ドロリと「這い出て」きたのは、体長10メートルを超える、四つん這いの歪な獣だった。


全身が禍々しい黒氷で覆われ、その六つの赤い眼球が、眼下の東郷たちをギロリと睨み下ろす。


職員が震える手で、測定器が弾き出した数値を読み上げた。


「エ、エネミーのレベル……測定完了……。嘘だろ……」


「どうした! A級か、それともS級か!?」

「違います……ッ! レベル……『2200』……!! 未観測の、突然変異体ミュータントです……!!」


その数値がスピーカーから流れた瞬間、戦場が凍りついた。


人類が到達した絶対上限が999。歴史上、世界で観測された最強のモンスターですらレベル1200程度だ。


「2200」。それはもはや生物の強さではない。歩く天災、あるいは神話の終末装置に等しい絶望の数字だった。


「レベル、2200だと……!? バカな、システムがバグってやがるのか……!」


東郷の顔から血の気が引く。


だが、彼は歴戦のS級だ。絶望に呑まれる前に、全生命力を燃やして最強の防御スキルを展開した。


「俺が止める! 全員、後退しろォォォッ!! 『絶対守護・金剛不壊』!!」


東郷の前に、数十層にも重なる神話級の物理・魔力防壁が展開される。


しかし。

『グルルォォ……』


絶氷の魔獣が、ただ無造作に前足を振り下ろした。

それだけで、空間の圧力が狂った。魔力や物理といった概念を超えた「圧倒的な質量とシステム数値の暴力」。


ズバァァァァァァァンッ!!!!


数十層の光の防壁が、まるで薄いガラスのように一瞬で粉微塵に砕け散った。


「ガ、ァァ……ッ!?」


防衛線を支えていた絶対の盾(S級)が、防御ごと紙屑のように弾き飛ばされ、ビルの残骸に叩きつけられて血を吐き、動かなくなる。


「東郷さん!!」


人類最高峰のS級が、ただの一撃で沈んだ。

その事実が、探索者たちの心を完全にへし折った。誰もが死を覚悟した、その時。


「退けぇぇっ!!」


吹雪を切り裂き、上空から一本の巨大な斬撃が降ってきた。


S級第2位、【剣聖】天羽蓮。遅れて到着した彼が、空中で抜刀姿勢を取り、必殺の固有スキルを放ったのだ。


「『次元断』!!」


空間そのものを斬り裂く神速の刃。

格上であろうと防御力ごと次元を断つその一撃は、魔獣の強固な黒氷の装甲を抜け、その巨大な右腕を根本から『切断』した。


「やったか!?」


天羽のギルド『天刃』の部隊が歓声を上げる。


「……いや、ダメだ!!」


着地した天羽の顔に、かつてない焦燥が浮かんでいた。


斬り落とされたはずの魔獣の巨大な右腕が、地面に落ちる前にドロドロの黒氷へと変化し、一瞬で元の肩の断面へと吸い込まれて「再生」したのだ。


(空間ごと斬った傷を、瞬時に再生しただと……!? いや、違う! こいつの魔力の総量と生命力(HP)がデタラメすぎて、致命傷になっていないんだ!)


天羽の『次元断』は確かに通用する。だが、相手のHPが100万あるとしたら、天羽の全力の一撃でも1万しか削れない。


そして、次に魔獣が放つ「ただの反撃」は、天羽を一撃で消し飛ばす威力を持っている。レベル差とは、そういうことだ。


『ギシャァァァァッ!!』


激怒した魔獣が、極寒の吹雪を纏った咆哮を上げ、天羽に向かって六つの眼を赤く光らせた。

四方八方から巨大な氷の棘が隆起し、天羽の退路を完全に塞ぐ。


(ここまでか……!)


天才剣士が死を覚悟し、相打ち狙いの構えを取った、その時だった。


『――空間接続リンク完了。ゲートを開きます』


天羽と魔獣のちょうど中間。


雪と血に染まったアスファルトの上に、突如として『黒いもやのような穴』がぽっかりと開いた。


「……は?」

天羽が間の抜けた声を漏らす。


その黒い穴から、ヒョイッと。


まるで終電間際のサラリーマンが改札を抜けるかのような極めて場違いな足取りで、ビジネスバッグを肩にかけた『スーツ姿の男』が這い出してきたのだ。


男の足元には黒い星屑のような子狐が引っ付き、後ろからは大きな杖を持った丸眼鏡の少女が「ひゃあっ、寒っ!?」と言いながら顔を出している。


「いやぁ、クロのゲートがあって助かったよ。飛行機全便欠航してたからな。……ん?」


スーツ姿の男――朝倉健人は、革靴で雪を踏みしめながら、周囲の惨状をキョロキョロと見渡した。


「……あれ? 札幌支社の地下金庫室にピンポイントで跳んだはずなんだが。なんでこんな外みたいな猛吹雪なんだ? 屋根吹き飛んだのか?」

健人が呑気に首を傾げていると、背後のしずくが震える指で前方を指差した。


「あ、朝倉さん……! あれ!!」


健人が視線を向けると、そこには振り上げられた前足を硬直させ、突然の乱入者に戸惑っているレベル2200の巨大なバケモノと、その後ろで刀を構えたまま呆然としている天羽の姿があった。


「あ、天羽さんじゃないですか。奇遇ですね。さっき東京でお別れしたばかりなのに、もう出張先で会うとは」


「お前……なんでこんな所に……! いや、それより後ろだ!! 逃げろ、そいつは未観測のレベル2200の――!!」


天羽の制止の声すら待たず。


魔獣の巨大な前足が、虫ケラ(健人)の脳天をカチ割るべく、無慈悲に振り下ろされた。

S級の東郷の絶対防御すらも紙屑のように砕いた、理不尽な質量の暴力。


「ひっ……!」


『天刃』の探索者たちが思わず目を背ける。


――ドスゥゥゥンッ!!!


すさまじい氷の衝撃波が吹き荒れ、健人の立っていた場所が真っ白な煙に包まれた。


「……おいおい」


土煙の中から、心底呆れたような、低い声が響いた。


「出張手当も出ないのに、俺のスーツを汚す気かよ」


煙が晴れる。

そこには、魔獣の数トンはあろうかという巨大な黒氷の右足を。

健人が『見えない空間のグローブ』を纏った左手一本で、涼しい顔をして受け止めている姿があった。


もちろん、彼のスーツには汚れも、シワ一つついていない。


「……はぁ!?」


天羽が、今日二度目の間の抜けた声を漏らす。

「雨宮さん。どうやら札幌支社のビルは、ダンジョンの空間拡大に飲み込まれて、このバケモノの巣になっちまったらしい。仕事(サーバー回収)の邪魔だから、そこのデカ犬、ちょっと退かしてくれるか?」


健人の言葉に、背後のしずくが「デカ犬ってレベルじゃないですけど!」とツッコミを入れながらも、ニヤリと笑って杖を構えた。


「はいっ! 行きますよ、消防車オーバーフロー、全開っ!!」


最強のサラリーマンと、最凶のバッファー。

絶望に包まれていた北の大地に、全く空気を読まない『残業代稼ぎの出張パーティ』が降り立った瞬間だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ