15 私ではない私の声
漆黒の闇の中に、小さな光が差した。その光がたちまち眩いほどになって、耐え切れず私は目を開けた。
「まぶしい……」
瞳を刺す日差しを避けようとして身をよじると、自分がベッドに寝ていたことに気づいた。ふわりと柔らかくて心地いい枕の感触と、明るい日差しの入る部屋。
(ん? ここは……?)
その時、誰かが駆け寄る音がした。
「お嬢様! アデリナお嬢様!」
声のしたほうへ体を起こすと、侍女らしきお仕着せを着た年配女性が立ちすくんでいた。両目にはうっすらと涙をにじませている。
「マリー。心配かけて、ごめんななさい……」
そんな言葉が自然と口について出た。彼女は私の専属侍女のマリー。えっ? ……どうしてそんなことを知っているの?
どこか自分であって、自分ではない感じがする。そしてまた、ここは私の部屋だと、私ではない何かがそっと頭の中で囁いてくる。
――私はアデリナ・バローヌ。バローヌ公爵家の公女よ……。だけどね……。
どこからかそんな声が聞こえてきた気がして、無意識のうちにそれを受け入れている私がいた。
「お嬢様……本当に良かった……」
――マリーは私の味方。だから大丈夫……。
また聞こえてきた声。
私は何かに突き動かされるように、まだ涙をぬぐっているマリーの頬に手を伸ばした。
「私、どうしたの? わからない……。マリー、私に何があったの?」
「ああ……、そうですよね……。あんなことがあったんですから、覚えていなくて当然です……。お嬢様は三日間も眠っていたんですから」
マリーは私の手を両手で包むように握ると、いたわし気に見つめながら、三日前の出来事を静かに話してくれた。
ここから公女編が始まります。
次話は明日、何話か続けて投稿します。
本日、ここまでお読みいただきました方、ありがとうございます!