異世界へ
いつもと変わらぬ帰り道を歩き、家の玄関を開ける。
いつもと違っていたのは「おかえり」という言葉が部屋の奥から聞こえてこない事だった。
買い物にでも行っているのかと部屋の中に入るも、俺はすぐに異変に気付いた。
フローリングの上には画面の割れたスマホが落ちている。
強盗にでもあったか……と一瞬頭に過るが、よく見るとソファーの上に財布が置いてあるのでそれは無いだろう。
職業柄人に恨まれる可能性は大いにあるので、そっち方面で恋人を巻き込んでしまったのか……?
俺は恐る恐る気配の無い寝室の扉を開けた。
「はい?」
何とも間抜けな声が出てしまった。
何故なら……ブラックホールだ。
おそらくは、誰に「コレ何?」と聞いても、ブラックホール! と返ってくるだろうと予想出来るレベルに、ブラックホールっぽい何かが部屋の真ん中にあった。
「え? あ……あ?」
それを眺めていると俺の意識が遠のくのが分かった。
そして、体から何かが抜ける様な感覚を感じながら俺は意識を失った。
―――――――――――
俺は目を覚ました。
覚ましたが、目の前には心当たりの無い人達が目の前に11人、俺を凝視していた。中世の貴族を彷彿させる格好をしているが、彼等の動揺は見てて恥ずかしいくらいに分かりやすかった。
困惑、恐怖、尊敬、様々な感情を視線込める彼らに、しかし俺には身に覚えが無い。
「星來……様?」
どーもこんにちは小鳥居 星來です! って……いやこのオッサン誰やねん? 何で俺の名前知ってんだ?
「星來様だと?」「そんなまさか……」「これは勝ったも同然ではないか!」
訳の分からぬ意見が飛び交う中、俺は状況の整理を始める。
部屋の中には俺を含め計13名の人間がいる事が分かった。
目の前に11人、後ろを振り返ると魔法陣の様なモノの上にへたり込むように座る少女が1人。
そしてこれが一番大事だ。目の前の人間達を見た時、俺は何故皆でこんなに背が高いんだ? と思った……が、そうではなかった。
自分の身体を見える限り見たり、触ったりした結果……俺が小さくなっている……否。
俺は女になっていたのだ。
ここまでで俺はあのブラックホールのせいで異世界転生、又は転移に巻き込まれたのだと……色々思う所はあるけれど、とりあえず全部を飲み込んで、そういう事にして思考を進める事にした。
というかそれ以外に思いつかん!
だが問題なのは俺が俺じゃないのに、目の前のコイツらは俺を星來と認識している事だ。
単に女の姿になった俺の姿も星來という名前なのか、それとも俺を知っているのか?
はてさてどう振る舞うべきか? 前者なら女口調で話しながら情報を増やす。後者なら全てを話して情報を貰う。
迷う必要は無い、前者一択だ。
「ここで何を?」
俺は一番情報を与えず、情報を得られる可能性が高い言葉を選んだ。
「あぁ……星來様……本当に……本当に良かったです」
くそっ! 感慨にふけってんじゃねぇよオッサンよぉ! 情報だよ情報チョセヨ!
「お待ち下さい!」
俺がイラついていると、金髪のイケメン野郎がオッサンの前に出る。これ見よがしに俺を警戒しているように見える。
「皆様、この結果はイレギュラーです! 緊急会議を開くべきです!」
イケメンは状況を制した。
まぁ、これはこれでいい。この状況はお互いイレギュラーだという事が分かったのだから。
皆もイケメンの言う事に納得したようだ。
それぞれ俺を見たり、俺の後ろの少女を見たりしながら部屋を出ていく。
「さぁ、貴女もどうぞ」
そうして俺も促されるがままに部屋を出る。
暫く歩く事ざっと170メートルって所か、ある部屋に案内された。
貴賓室といった所か、中々綺麗な部屋だった。
そこに俺と、俺を見張る様に部屋の前に立つイケメン。
何も喋らない……喋れよ! このイケメンはクール要素まで持ってんの?
「あの」
俺はイケメンに声をかける。
「なんでしょうか?」
「鏡はありますか?」
まぁ、ここまでで恐らく俺は女だと思われてるみたいだし、実際体は女になっている訳だから、自分の姿を確認しておく必要がある。ただ興味本位で見てみたいという訳では断じて無い!
「どうぞ」
イケメンは棚の中から綺麗な装飾の手鏡を取り出し、俺に手渡す。
俺は鏡を見た。
情報的には、腰まで伸びた銀色の髪の毛に淡い水色の瞳で、身長は152センチ程度。
さて感想は……素晴らしい! 可愛いと美しいという言葉はこの子の為にあるような言葉! いや今は俺なんだが!
つまり俺は実に不満だ!
なんやかんやで異世界の何かに巻き込まれました!
まぁいいでしょう! でも俺が可愛い事に何の得がある?
普通は可愛い女の子と冒険して守って戦ってハッピーエンド! これだろう!! なんだ俺が可愛いって!?
やばいぞイライラしてきた……5.4.3.2.1、よし落ち着いた。
まぁ案内されたのが牢屋で無かった分、そう悪い状況じゃないみたいだし、もう少し踏み込んでみるか。
「あの、今の状況を教えて頂きたいのですが」
「会議が終わるまでは何も話せません」
なんだぁテメェ!? 取り付く島もないな。ハゲろ……馬鹿が!
―――――――――
それから1時間くらいして、扉が叩かれる。
「少々お待ち下さい」
イケメンはそういって部屋の外に出て行く。
そして5分くらいの後部屋に戻って来てこう言った。
「会議が今日中には終わりそうにないので、今夜はもうお休み下さい」
そうして俺はまた暫く歩かされ、ベッドのある綺麗な部屋に案内された。
「何かあれば外の二人に声をおかけ下さい」
そういってイケメンは部屋を後にした。
さて、色々試してみますかね。
俺は手から火が出ないかとか、目から水が出ないかとか色々試してみた。要するに魔法のようなモノが使えるかどうかを試してみたが結果は惨敗だった。
最初の部屋に魔法陣のようなモノがあったから、魔法を使えないかなと思ったが無理だった。慣れたら使えるのか?
俺だけが使えないのかは分からないがとりあえず無理だった。
……とりあえず寝てみるか?
やる事もないし、寝る事で得られる事もあるかもしれないと思い、俺はベッドに横になり瞼を閉じた。
―――――――
「ラ様!」「星來様!」「起きて下さいセーラ・ミリアーナ様!」
俺は耳元でする声で目を覚ます。
んん? なんだ? あ? ミリアーナ?
セーラ・ミリアーナ様?
目を開けると、そこにはオッサンとイケメンがいた。