エピローグ「1年」
オマケです
僕らは明るい展望を抱いて、光の中へ入っていっ……かないまま、30秒が経過した。
「あの… なかなか出口に辿り着きませんね」
「止まっている」
「え? どうして?」
「どうもおかしい。わずかだが計算と違っている」
「どういう事? まさか、ニ朱島じゃないんですか?」と小恋ちゃんが問う。
「いや、ニアに繋がっているのは間違いないが、計算した出口と位置が違うようだ」
「どの辺りですか?」
「不明だ、一旦戻るか…」
「え、でも、戻って、計算し直したらまたすぐに転移できるの?」
「それは無理だ、原因の調査と再計算に最低でも3日か4日、もっとかかるかもしれん」
「それだと響輝さんにご迷惑がかかってしまうじゃない!」
「そんな事は知らん」
「バカ言わないで! クビになったらどう責任を取るの!?」
小恋ちゃん? メェメェ様にそんな口のきき方は…
「ニ朱島に間違いないのなら、べつに問題はないでしょ。どこに着いたってメェメェ様の中にいるんだし」
「転移技術についてはまだ不明なところが多い、わずかな計算の違いがどのような影響を及ぼすか…」
「ダメ! 行けっての!」
「こ、小恋ちゃん、僕の事は気にしないで…」
「大丈夫です! 彼氏のお仕事を、決して邪魔させはしません!」
いや、あのね…
「…仕方ない。救世主のためだ。それに貴重なデータを採取できるかもしれん」
え、いやちょっと… 僕は安全第一で…
救世主の意見を確認してもらえないまま、光に包まれた。微量な電流が体中に流れ、急激な冷気を感じた。どちらも一瞬ではあったが、これまで二度経験した転移の衝撃とは、若干違いを感じた。その違いを… もう忘れてしまっている。
数秒で光がおさまって、全方位スクリーンに景色が映った。青い空と緑の木々、草原が見える。ベテラン(?)のカンペンメェメェは、メェメェ3兄弟と比べて転移による損耗は少ないようで、軟着陸をこなし、またすぐに頭を開いてくれた。
僕らは外に出て、周囲を確認する。懐かしい、そして美しい…ニ朱島の景色に思える。小恋ちゃんが確信したような笑顔を向けてくれた。間違いない。なんだ…取り越し苦労だったか。
森林に囲まれた草原…高所のようだ。つい一昨日(…とは思えないけれど)、梁神の兵士たちとクゥクゥ、そしてメェメェ達が争った高原とよく似ている。でも、黄緑色の草が全面に生えているから、きっと違う場所だろう。水平線が見えるが、太陽の位置は真上だ。ここは島の東かな? それとも北かな?
小サイズの分身が20ほど空中に現れ、およそ5メートル上空にある、直径50センチくらいに縮んでいたワームホールを取り囲み、安定させた。
「大丈夫みたいですね」
「まだわからない、少し様子を見る」
メェメェが言うと不安になってくるが、特におかしな所は見当たらない。
「響輝さーん!」
小恋ちゃんが呼んでいる。彼女はいつの間にか、200メートルほど先にある…崖際と思われる場所に立っている。
「ちょ、危ないよ!」
「ちょっとこっちに来てー!」
僕は小走りで彼女のもとへ向かった。
こっちに来てー、か。ふふ、もう完全に恋人同士じゃないか。
…自分でも気持ち悪く思うくらいに、僕は浮かれている。 でもいいだろう? 僕は結構がんばったと、自分でも思うよ。しばらくの間はボーナスステージとして、かわいい彼女とイチャイチャさせてもらったって罰は当たらな……ん?
小恋ちゃんが指さす…海を見つめた。
「響輝さん、あれって…」
「なんだあれ?」
船がいる。それも10…いや15隻以上あって、それぞれ島から数キロほど離れているようだが、どれもこれも、全長が100メートル以上ありそうだ。漁船なんかじゃない、商船やタンカーでもない。停船して、あるいは島を周回して…監視しているように見える。
「まさか、梁神の船?」
「あんなにたくさん隠してあったんでしょうか…」
「でも、それならもっと多くの兵士や武器を島にあげていたはず…と思うけど」
「そうですね。それにいくら梁神でも、あれだけの数を用意できるとは思えません」
「だよね。 あんなの、まるっきり軍隊じゃないか」
いったいどこの船だろうか。雲妻のように双眼鏡でも持っていれば良かったのに。 そうだ、メェメェ様に見てもらえば…
そう思って振り返ると、僕らの背後に1人の少…年が立っていた。乗って来たであろうマウンテンバイクを5メートル程後方に倒している。紺のTシャツを着て、カーキ色のハーフパンツと、高価そうなレースアップのスニーカーを履いている。10歳前後だろうか、すらりと細長い手足をしていて、女の子にも見えるが、髪はベリーショートだ。目を見開いて、口を開けて…凄く驚いた表情をしている
「やっぱり簾藤さん! それに小恋さん!」
え? 誰だっけ?
「小恋ちゃん、この子、島の子?」
「え、いや… この年頃の、こんなかわいい男の子、いたかな? わたしが知らないはずないと思うんですけど…」
「きっと帰って来ると信じていました! 良かった!」
そう言って、感激したかのように涙を流し、腕で拭っている。
「その、君、二朱島の子だよね。お名前は?」
「いやだな~ 僕ですよ。幸塚 珠です」
「へ? いやその… え?」
たま、って… あの…珠ちゃん? 顔は…似てるけれど、他は全然違うよ。
「あ、ああ、 手の込んだイタズラかな~? どこかに綾里さんや雲妻さんが隠れているのかな~?」
「はは、違いますよ。でも、無理もないです。僕ももう6歳ですから、少しは成長しました」
6歳!?
「何かが空に現れるのが見えて、まさかとは思いましたが、すぐにかっ飛ばしてきて良かった。お帰りをずっと待っていました」
「…珠ちゃんなの!?」
と小恋ちゃんは驚いたが、いやいや、そんなはずはない。
「響輝さん、まさか私たち…タイムスリップ?」
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや…… またそんな、アニメやマンガじゃあるまいし、もうタイムリープものはオワコンだよ。それに6歳って、珠ちゃんは5歳だったんだよ。 1年先の未来って事? 今は2025年って事? この子、どう見たって小学校高学年でしょう? たった1年でこうはならんでしょう?
「でも、たしかに面影があるけど… 君は10歳くらいでしょう?」
そうそうそうそうそうそう!
「いえ、6歳です。でも珠ちゃんです。毎日たくさん食べさせてもらいましたので、めっちゃ成長したんです」
うそうそうそうそうそうそ!
「おかげさまで、病気もすっかり治りました!」
「じゃあ、ホントに珠ちゃんなの?」
「はい! 小恋さん、お会いしたかった!」
小恋ちゃんが両腕を広げると、珠ちゃんは…いや、珠は素直に胸元に飛び込んだ。硬く抱き合う2人…僕の彼女、容易に抱きしめすぎじゃないでしょうかね。
「元気になって良かった!」
それは本当に良かった。しかし、しかしですね、たった1年で20センチ以上身長が伸びていることになりますよ。
珠ちゃんは続けて、僕に近づいてくる。もう観念するしかない、今更ファンタジーを拒否できるはずがない。こうして…ハグするしかないんだよ。
「ご無事でなによりです! 敵を倒したんですね!?」
「あ、うん、まあ… なんとか…。 た… たま君もその…とにかく良かったね」
体以上に成長しすぎてない? 小学1年生なんだよね?
「それで珠ちゃん、この1年でなにがあったの? あれって…」
僕の彼女… 順応性が高すぎやしませんかね。
「ええ、話せば長くなりますが、詳しくは後で。さしあたって掻い摘んでご説明します」
しつこいけど、1年生だよね?
「多くの異世界の人々を連れて島に帰った後、当然ですが色々と問題が発生しました。梁神さん達は二朱島への不干渉を約束し、今後の商取引を継続してくださる形で引き下がってくれました。ですが、この事でかなりの資産を減らしてしまったようで、彼との取引は大幅に減少しました。島は大口の客先を失ったのです。至急に広く取引先を開拓する事になったのですが、島の秘密を守るため、通常の商取引が難しく、思うように進みません。そのせいで多くの避難民を抱えた島の財政は、急激に悪化しました。食料は地産で賄う事ができますが、資材やインフラ、生活用品等は本土からの購入が必須になります。また不幸にも、昨今の資材不足と急激な円安による物価高が重なり、深刻な供給不足が起こりました。住居や土地を避難民に明け渡し、さらに物不足が続く中で、島民に不満がどんどん溜まり、異世界人との間で軋轢が高まっていきます。明日川町長の支持率はどんどん低下していきました」
懸念していたことがすべて起きてしまっている…かなりヤバい状況だな。
「そんな中、更なる大問題が… 島の存続を揺るがすほどの大きなインパクトが発生したんです」
なっ、なになに! …話し方がうまいな。1年生なんだよね。
「島の秘密が、つまり異世界人、クゥクゥと、それからメェメェ様の存在が、明るみに出てしまいました!」
「えっ!」
僕と小恋ちゃんは大声をあげた。
「いったいどうして!」
小恋ちゃんの顔が険しくなっている。なってしまっている。もうボーナスステージは望めないだろう。
「知らぬ間にちらほらと、ネットにメェメェ様の動画があがっていたんです。どうやら兵士のごく一部が、二朱島や異世界で撮影していたようです」
「どうしてチェックしなかったの!」と、小恋ちゃんが怒るように言った。
「もちろんしました。ですが、あの時の混乱具合では、漏れてしまっても無理ないでしょう。動画は、最初はフェイクと扱われて、大して話題になっていませんでした。島も色々対策を練って、風評被害の訴えを出して次々と削除させていたんです。しかしある時、高名とされるデジタルエンジニア数名が、動画はフェイクではないと言い出し、それが急にマスコミで扱われるようになりました。専門的な分析をわざわざ解説動画やネット記事で説明し、テレビにまで出演していました。しかもエンジニアには外国人も含まれていて、つまり世界中で話題にされたのです。動画はバズりを繰り返し、連日二朱島の存在が、ニュースやワイドショーで取りあげられる事態にまで発展しました」
エンジニアは何の得があってそんな事を…
「…誰かが仕組んだ?」
「ええ、黒幕はやはり梁神でした。しかし彼自身ではなく、その背後にいた…大国です」
た、大国って…
「梁神さんは異世界からの帰還後体調を崩し、急速に認知機能が衰えました」
えっ?
「二朱島への入植失敗により、多額の借金を抱えてしまった梁神さんはその後頭首の座を追われ、息子が継いだのですが立て直すことはできず、多くの事業を売却。日本のフィクサーの一角だった地位を追われました。その中で、梁神の息子は債権者である大国にキロメの秘密を、そして二朱島の秘密を全部暴露しました。不老不死の妙薬といえるキロメやその他の島の資源、そして異世界の技術、メェメェ様の事を記した大量の情報、物的証拠を前にして、大国は梁神の後を引き継ぐ事を画策しました。しかし二朱島はあくまで日本の領土、他国が無視して占領することは戦争行為となります。そこで大国は…」
た、大国は…
「日本政府に圧力をかけたのです」
ああ… 結局そうなってしまったのか。たった1年で… 早いよ、早すぎるよ。
「これらはほとんど、雲妻さんが調べてくださいました」
雲妻さんが?
「じゃああれって、もしかして海保とか、自衛隊とかの船って事?」
小恋ちゃんがまた海を指さした。
「島の調査を要求した政府を、二朱島は拒否しました。強行するため来襲した船を、メェメェ様があっという間に撃沈し、しかし乗組員を全員救助した事で、現在は膠着状態となっております。この状態はもう2か月も続いています」
「でもそれじゃあ、島は鎖国状態になっちゃってるんじゃ…」
「そうです」
「物不足が加速してるんじゃないの?」
「確かに色々なものが不足しております。しかし今それを解消すべく、島では様々な技術開発と、多種に渡る事業の展開を進めています」
「でも、資源が足りないんじゃ…」
「メェメェ様が3人もいるんです。…進んで働いてくださるのは2人ですが。 建築資材はまだ木材が主流ですが、すぐに鉄も製造できるようになります。エネルギーはほぼ無限ですから、人手不足も補えます」
「じゃあ、外では問題ありありとしても、今は島の中は、島民と異世界の人達は一致団結して、仲良くやってるって事なの?」 期待を込めた口調で、小恋ちゃんが問う。
「残念ながら、そうは言えません。 今年の2月、まだ秘密がばれる前に任期満了による町長選挙が行われたのですが、…支持を減らしていた明日川さんは、落選しました」
「ええ!」 彼女は悲鳴にも似た声を発した。
「じゃあ誰が… まさか曽野上のおじさんが!?」
「曽野上さんは得票数2票でした」
2票て…
「いったい誰が!?」
「それがその… 母です」
え!?
「幸塚綾里が、現在の二朱町長です」
…に、二朱島クイーン
小恋ちゃんがあまりの展開に絶句した。…僕はかなり前から言葉を失っている。
「母は政府の干渉を嫌い、徹底して外部からの上陸を排除しております。そして選挙に敗れたとはいえ、島民やクゥクゥの中には前町長を支持する層もいて、彼らは部分的な融和政策を主張しています。それにあまりの環境の変化に対応しきれず、ストレスを溜め込んでいた避難民の一部が自治を組み、北西部に居住エリアをつくりました。つまり、島は大きく3つに分かれてしまっているのです」
絶句が続く…
「とはいっても、別に内戦が行われているわけではないのでご安心ください。対立しているのはあくまで外交面についてです。普段は皆で協力し合って、畑や田んぼを耕したり、魚を獲ったり、牛や羊のお世話をしたり、建設や鉱物資源の採掘、環境整備、医療、教育など、毎日町づくりに勤しんでいます。仲良く…とまでは言えないのが残念ですが」
「サドルさんは、元々島にいたクゥクゥ達はその…どの陣営にいるの? それに鷹ちゃん、鷹美さんは?」
そ、そそ、そうだ、それが聞きたい。がんばれ小恋ちゃん。
「サドルさんは最初中立の立場で、それぞれ間に入って調整してくださっていましたが、母のサポートについていた鷹美さんと結婚したので… それに今は、育児にかかりっきりです」
「えっ!」僕はさすがに声をあげた。
「け、結婚!? しかも子供だって!?」
じゃ、あれからすぐに? あいつ…
「ええ、世界初の、いやユニバース初の異種間結婚じゃないでしょうか」
いやそんな事を… さらっと言うな~
いかん、小恋ちゃんがグロッキー状態だ。ここは彼氏として僕が代わらないと…
「じゃあ…あの人、ニーナさんは何をやってんの!?」
本当の意味での島の長は、彼女とニアなんだろう? 2人が全員を、日本人も異世界人もまとめて統制するべきなんじゃ…
「町にあった空き家を改造して、カラオケバー ‟勝手にしやがれ“ をオープンしました。毎日島のお年寄りを相手に歌っています」
…聞いた僕が馬鹿でした。
「メェメェは、3人のメェメェ様はどういう考えなんだ?」
「…わかりません。今も母と、そして雲妻さんを乗り手とされており、島の繁栄と防衛に力を尽くしてくださっていますが。僕はあれからもうお声を聞いておりません。母と雲妻さんしか…」
「雲妻さんは、今も島にいるの?」
「雲妻さんは前町長派ですが、たぶん、独自の考えを持っておられると思います。今は島にいません。本土か…もしくは海外に渡って、情報を収集してくれています」
今もスパイ活動をしているのか…今度は島のために。 いや、もしかしたら世界のために。 奥さんとはどうなったんだろう?
「その…」
「はい?」
「島が大変なことになっているのに、些末なことを聞いて申し訳ないんだけど…」
「なんですか?」
僕は小恋ちゃんを見た。彼女は茫然自失に近い状態だったが、僕を見て察知し、珠ちゃんに尋ねるよう首を縦に振った。
「僕は…なんと言えばいいのか。…どうなってんのかな? 1年間もその、もし行方不明とされているとしたら、仕事は…」
「ええ、とっくに解雇されています」
うわー! あっさり言いやがったー!
「ご安心ください。その後退職代行を雇い、きちんと始末をつけております。マンションも解約済みで、お荷物も引き取っております」
安心できるかっ! う… ショックで息が詰まりそうだ。 がんばれ! 喉を開け! 声を絞り出せー!
「お、お、お、親は… 両親は!? 息子が1年間も音信不通になっていたら…」
「そちらもご安心ください。新設の二朱島デジタル戦略チームが開発したA.I.簾藤が、メールや電話、ビデオ通話を通じて対応しています」
「A.I.…れんどー!?」
「ええ、細部までつくりこまれたCGに加え、簾藤さんの性格や声を皆で分析、調整してつくりあげました。色々不安でしたが、ご両親はこの1年、すっかり騙されてくださっています」
「だまされ…」
父よ… 母よ… お前らアホか。
「ぜひ後でご覧になってください!」
「うん、…そうね」
もう限界。…これ以上無理だ。
僕は珠ちゃんの横をそっと通り抜けた。小恋ちゃんが心配そうに僕の名前を呼ぶ。
「ちょっと、メェメェ様の中においてあるリュックを取ってくるね。続きを聞いておいて」
「…はい」
言った通り、僕はメェメェのところに向かった。が、リュックなんてどうでもいい。僕はとにかく一服つきたかったのだ。タバコは吸わないけれど…。
メェメェは頭を閉じて、そして両目を開けている。底部で草を押しつぶして、まっすぐ立っていた。
「…とんでもない事になっています」
「そのようだ」
僕は上を見た。ワームホールはまだ保たれている。
「もしも僕と小恋ちゃんを乗せて、また異世界に行ったとして、1年前に戻れるんでしょうか?」
「無理だな。1年後の異世界に着くか、もしくは2年後になっているかもしれん」
「それは…もっととんでもない事ですね」
「…逃げたいのか?」
僕は深くため息をついた。
「お前にだけ言っておこう。1年後に来てしまった原因が、おおよそ分かった」
「え?」
「この島…ニアが、ごくわずかだが動いている」
「は? 動いてる? それってどういう意味?」
「言葉通りだ。1年前と位置が変わっている。だから計算していた多次元座標軸とずれたんだ」
「そんな、ひょっこりひょうたん島じゃあるまいし…」
「なんだそれは」
「い、いえ… どうしてそんな事が…」
「わからん、段階を進めるのかもしれん」
「段階?」
「この世界の人間を、成長させる」
「え、 なにそれ? え? ちょっと… どうなんの?」
まさか、いつか二朱島が浮くなんてことは…
「どうする? 逃げたいなら本土へ、実家へでも連れてってやるぞ」
「そんな事を聞いて、逃げられるわけないでしょう!?」
「そうか」
小メェメェ達がワームホールを解いた。あっという間に小さくなっていく。
「あっ! あっ! ちょ、どう… え? 帰れなくなっちゃったんじゃ…」
「残る。こっちでの役割が生じた」
「で、でも異世界を、カンペン達を助けてあげないとならないんじゃ…」
「あっちでももう1年経っているのだ。きっと代わりのものが目を覚まして、役割を引き継いでいるだろう」
代わりのものって… え? まさか…
ホールは無くなってしまった。
「簾藤さん!」
マウンテンバイクに乗った珠ちゃんが、僕らの前で止まった。
「内外とも緊迫した状況が続いておりますが、悪い事ばかりじゃありませんよ」
「え?」
「たとえば…そうだ! 避難民の他にも、日本人の移住者が50人ほど増えました」
「でも、鎖国状態なんじゃ…」
「そうなる前に増えました。よほど島が気に入ったんでしょう」
「へ? 気に入った?」
「彼らの能力を活用するため、さっき言ったデジタルチームや、島と周辺近海を警備する二朱島警備隊を創設したのです」
…もしやその中に、ピンクやブルーの髪をした人がいるんじゃない?
「中には、異世界の女性と交際している人もいるみたいですよ」
…それって、マッチョの元リーダーじゃない?
「まだまだたくさんお話ししたい事がありますので、必ず母に会いに来てください!」
「う、うん」
「ではまた!」
力強くペダルを漕ぐ彼の背を見送る。 …元気になって良かったな。 …マジで小1なのかな。
小恋ちゃんもまた、僕らのところに戻ってきた。
「響輝さん、すみません、お仕事の事…」
すまなそうに深く頭を下げる彼女に、僕は笑いかけた。
「いいよ、もう気にしないで。いつか辞職するつもりでいたから…」
彼女は顔をあげて、今にも抱きついてくれそうなほどの笑顔になった。でも…後にしよう。
「とにかく、みんなに会おうか」
「うん!」
むずかしい事を考えるのは後だ。まずは町長に会って、綾里さんに会って、サドルやザッサ、クゥクゥのみんな、鷹美さんと…サドルとのお子さん。そうだ、笹倉さんと、そのご家族にも会ってみたい。 漁師たちや曽野上とも…今度は少しは仲良くなれそうだ。レストランの老夫婦にも会って、何か食べさせてもらいたい。あ、ニーナさんにも会わないとならないよな。もちろん3人のメェメェ様とも。
そしていつか…雲妻、カンペンやオロたち、そして簾藤メェメェ(いまはNewカンペンメェメェかな、もしくはオロメェメェかも…)とも再会しなくちゃ。
僕と小恋ちゃんはまず明日川邸に向かうため、一緒に草原を歩き始めた。メェメェが少し浮いて、僕らと並行しながら両目を閉じる。
「乗せてやる」
傾き、頭を開ける。頭の先が地面すれすれを移動している。
僕はひょいと飛び乗り、小恋ちゃんに手をさしのべた。
彼女の掌が、僕の掌と重なった。
最初から最後まで読んで腐った…
いえ、くださった方
誠にありがとうございました




