第4話「甘口・中辛・辛口」
二朱島…確かにオンラインマップには表示されていた。伊豆諸島より南だが、八丈島までは行かない、東よりの位置。名刺に金箔で描かれていた通り、十字星のような形状をしている。面積は三宅島や御蔵島と同じくらいか、わりと大きいな。しかし人口が1000人に満たずというのでは、居住地面積はごくわずかなのではないか。ネットにはテキストのみ、しかもわずかな情報しか載っていない。明日川小恋が言ったような開発が行われているなんて、どう考えても不自然だ。が、存在する島なのは確からしく、しかも東京都だという。
実に危なっかしいが、僕は申し込みにサインしてしまった(手続き時に至って、彼女は自分のバッグからタブレットとタッチペンを取り出した)。 出発前日の午後3時までに代金の振込、もしくは窓口での支払いがなければキャンセルになる、との条件を聞いて、後でヤバイと思ったら振り込まなければいい、と考えたのだ。結果、僕は先ほど代金4万円を指定口座に振り込んで、スマホに支払い確認のメールが届いた。内容が僕が求めていたものに合致していた事もあるが、何よりの決め手は明日川小恋だった。彼女の境遇に僕は深く感情移入してしまった。まだ社会人になったばかりと思われる年齢の女の子が、営業成績の見込めぬ場所でひとり働かされて、もしも一人も客を得ることができなかった場合、どういった叱責を受け、傷ついてしまうかを想像したのだ。まああんな子を厳しく叱るような上司がいるとも思えないが。
下心は全くない、と言えば嘘になる。でも、あんな若くてかわいい子と僕がどうにかなるなんて自惚れているわけじゃない。もし彼女がツアコンとして同行してくれて、ほんの数日の間仲良く話ができたなら、それで十分休暇を楽しんだことになるだろう。そうだな、もしもLINEの交換でもできたなら…。
フェリーの展望甲板から見る景色は視界いっぱいの鮮やかな青のグラデーションで、これだけで異世界の旅と謳われることへの抵抗は、かなり軽減された。舳先に立つことが許されるなら、レオナルド・ディカプリオにお願いして後ろから抱いてほしいくらいだ。
わりと大型のフェリーに乗船したとき、まさか二矢島への直行便とは思っていなかった。てっきり伊豆諸島を経由するか、八丈島へ行く途中で下船するものだと考えて、それなりの所要時間と二等室を覚悟し、酔い止めを準備していたのだが、なんと個室を用意されていた。そう広くない一般的な洋室だが、きちんとしたシングルベッドに洗面所まである。フェリー代だけでいっぱいいっぱいじゃないのか?
いくら快適といっても所要時間は約7時間の予定、とても個室内だけで過ごせないし、第一勿体ない。そう思って、出港1時間後に僕は展望デッキに上がった。直行便なので、乗船している人たちは皆二朱島を訪れるわけだ。デッキにいるのは僕を入れて3、4、5、子供を入れて6名、皆僕と同じツアー客だ。そう、やはり僕ひとりだけじゃなかったのだ。そう言えば、小恋ちゃんはどこへ行ったのだろう? フェリーの待合所にアイボリーのパーカーにジーンズ、スニーカーというラフな服装で現れた彼女は、ツアー客を集めて乗船手続きの案内を行った。挨拶を交わした際、一昨日の時のような笑顔を見せてくれたが、他の客も居たことだし、そこで話をすることは憚られた。彼女も一緒に乗船し、明日には希望者に島の案内をしてくれることを知って喜んだが、それから顔を見ていない。本当に乗ってくれているのだろうか。
ラウンジの方に行ってみようか、と振り返った時、僕以外の唯一の男性ツアー客が話しかけてきた。
「こんにちは!」
僕は素直に同じ言葉を(控えめな声量で)返した。男は背が高く…僕より5センチ以上、180センチ近くありそうだ…、肩幅の広いがっちりした体格。服装は袖まくりした白のワイシャツとグレーのストライプのスラックス…光沢があって、高価そうな生地に見えた。僕と同年代か、少し上だろう。
「せっかくですから、挨拶させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「え、ええ、はい、もちろん」
「私は雲妻薫と申します。30歳、公務員をしております」
え、姓だけじゃなく名前まで言うの? 「簾藤響輝です。29歳、会社員です」
「見たところおひとりのご様子ですが、後ほど奥さまか恋人、もしくはご家族、ご友人が来られたりするのでしょうか?」
「いえ、寂しい一人旅です」
「そうですか、それは良かった。いや失礼、私も同じです。同年代の方がいて嬉しいですね。どうか道中、旅先でも仲良くしてください!」
「ええ、そりゃ勿論。こちらこそ」
「ありがとうございます! お優しい方がいらっしゃって、本当に良かった」
ずいぶん大層な、芝居がかったような話し方をする変な奴だ。公務員と言うが全然それらしくない。舞台役者かオペラ歌手みたいだ。背が高くて、顔もまあ整っている方だと思うが、なんか変、気持ち悪い雰囲気を持っている。その原因の多くは、きっちり七三に分けた整髪料べっとりの黒髪のせいだ。公務員である事を主張しているのかもしれないが、今時そんな決まりもないだろう。目つきが切れ長でするどく、鼻はやや大きい鉤鼻、肌の色は濃い。なんか悪そう…輩ではないが、悪魔の手先のような容貌だ。中身は気さくと思われる人なのに、ボロクソに思って申し訳ないが。
「いやあ、すばらしい好天で良かった。温かいし、いい休暇を過ごせそうです」
「まったくです」
夏の始まりを感じる暖かさだ。もっとも4月の下旬なのだからそう不思議な事ではないが、風もなく、本土と比べてかなり暖かい。ジーンズを履いて、長袖のTシャツの上にダウンベストを羽織ってきたが、どうも上着は余計だったようだ。
同じく景色の方を向いていた雲妻薫が、突如長身を躍らせるようにして振り返った。
「そこのお嬢さん方もいかがでしょう、一緒にお話ししませんか!」
エンジンと波の音が邪魔しているとはいえ、距離に対してあきらかに間違えた声量と身振りで、他のツアー客である(それぞれ天然ではありえないような髪の色の)若い女性二人組に話しかけたが、彼女たちは顔を見合わせた後、わざわざ怪訝そうな表情を見せてから去って行った。
「ありゃあ、ダメでしたか。どうも昔から女性には嫌われる性質でして、お恥ずかしい」
「そうなんですか? 背が高くてカッコいいのに」
「またまた、お世辞でしょう?」
お世辞に決まってるだろうが、変だよ変。
「簾藤さんこそ、会社員とおっしゃっいましたが、連休前からお休みを取られているのでしょう? 実は若き経営者とか。 ITですか~、タワマンですか~、何か奢ってください~」
わー、うぜー。
「嫌だな、そんなんじゃないです。有休を消化させられているだけです。そちらこそ公務員なのに平日に連休を取られているって事なら、相当地位が高いんじゃないんですか? エリート…もしかして官僚とか」
「とんでもない! ヒラ中のヒラ、もうまったいらですよ。役立たずの鼻つまみ者ですので、忙しい時期に目障りになってはいけないと、有休を早めに使っているのです」
「お役所勤めですか? どちらの…」
「いやあ、まあその辺はいいじゃないですか。せっかくのバカンスです! 異世界です! お互い現実を忘れて楽しみましょう」
そう言って雲妻はまた海の方を向いて、大きな笑い声をあげた。
この男にちょっと親近感が湧いた。僕だってこんな所で詳しい仕事の内容、そして自身の冴えない境遇なんて話したくはなかった。
「そ・れ・で」
悪魔の使いのような顔が真横に近づいた。反して親近感は一気に遠のいた。
「男二人できゃっきゃするのも一興なのですが、やはり寂しいものがありますし、ここは勇気を出してトライしてみるべきだと思うのです」
僕の顔を外れた雲妻の視線を追うと、その先にロングヘアーの若い女性の姿があった。ネイビーの七分袖ワンピース姿で、スカートは膝下まである。ウエストの高い位置に同色のリボンの飾りがあって、シックでありつつ男受けしそうな恰好だ。スタイルも良い。今は距離があって顔は良く見えないが、待合所で少し見た時、わりと美人だと思った。しかし…
「彼女は子持ち… お子さんがいるじゃないですか」
彼女はデッキの中央付近で立っているだけだが、顔はずっと幼い(まだ3~5歳くらいじゃないだろうか)子供に向けている。ひっきりなしにちょこまかと走っているために、ずっと頭が動いていて、子供が少し離れると急いで駆け寄り、引き留めていた。
「いいじゃないですか。お若い方だと思いますよ。いや、仮に年上だったとしてもまるで問題ございません。子持ちヒロイン、結構結構!」
何言ってんだコイツ。
「あれえ? 簾藤さんはもしかして、ヒロインに処女性をお求めになられているのですか? 意外に古典趣味でいらっしゃる。いけませんよ~、今時は創作物においても社会倫理、コンプライアンスが求められますからな~」
「ちょちょ、なに言ってんですか? そんな趣味は持っていません。大体、ヒロインってなんなんですか」
「だってこれから向かうのは異世界なんですよ。異世界の旅! ファンタジーですよ! アニメですよ! 漫画ですよ! ラノベですよ! 同行する女子をヒロインの一人と認識するのは当然の事でしょう。さっきのお二人には苦い顔をされてしまいましたが、なあに、まだまだ挫けるのは早いですぞ!」
いや、苦い顔されたのはお前だけだ、よな?
「さっきも言った通り、私は異性に嫌われる性質ですので、今度はぜひ簾藤さんのお手並みを披露ください。ささ、どうぞ」
「いや、やめてくださいよ。大体、彼女がシングルマザーかどうか知っているわけじゃないでしょう? それこそ、連休に入ったら旦那さんと合流するのかも知れないじゃないですか」
「おそらく、いえ、十中八九シングルマザーでいらっしゃる」
「どうしてわかるんです?」
「彼女、待合所にいた時も出港した時も、そして今も、電話はおろか、メールを打っている様子もありませんでした。お子さんの写真は何枚か撮っていましたが、すぐにスマホをしまっていました。ふつうは夫にすぐ送ったりするものでしょう」
「ずっと彼女を見ていたんですか?」 気持ちわるっ
「いえ、目が届いた範囲内ですが」
「なら、部屋の中で連絡を取っていたのかも知れないし」
「ええ、その可能性はありますが、それでも待合では30分余り、乗船後ラウンジで約20分、この展望デッキで現在まで約15分、そして今はちょうどお昼休みの時間です。お子さんを注視する以外にする事がない状況で、ろくにスマホを手にしない様子は、そう推理する理由になりませんか?」
「まあ、そうかも知れませんが…」
「ああ! 簾藤さん、私の事を気持ち悪く思っていらっしゃいますね。こいつ、ストーカーじゃないのかって。危惧されるのも無理ありませんが、誓って否定申し上げます。彼女にお会いしたのは本日がはじめてですし、はじめて出会った方に即恋慕を抱くほど激情家ではありません。人を観察してしまうのは、ずばり癖なのです」
「はあ、癖ですか」
「簾藤さんは待合所に1時間も前に到着されていましたね、この旅行を相当楽しみにされていたんじゃないですか? 売店で缶コーヒーとチョコバーを買っておられました。乗船後は今まで部屋にずっとおられたようですが、一度トイレに行かれました」
いやもう、完全に引いた。
「お気になさらず、単なる癖ですから」
無理だっつの。
「さっきの二人組の女性たちは高校生時代からの友人同士、口調から言って双方ともギャルですね。専門学校を卒業したばかりのようです。オタクに優しいギャルという種族が実在するか確かめてみたかったのですが、早々に判明してしまいました。残念です」
ああちょっと、これ以上は無理だ。
「あの…」実はちょっと船に酔ったみたいで、到着まで部屋にいようかな~と言って逃げようとしたのだが、両膝を固められて動けなくなった。
下を向くと、子供が僕の足に両手で掴まっていた。そして僕の顔を力強く見上げ、「あれえ?」と大きな声をあげると、頭の重さにひっぱられて後ろに倒れそうになったので、あわてて両肩を掴んだ。同時に雲妻もまた、子供の背を大きな左手で支えていた。
「大丈夫?」という僕の声に、「すみません!」という母親の大声が被さった。駆け寄って子供を抱き寄せた時に、ウェーブがかった柔らかい髪が僕の両腕に触れた。
「失礼しました」
「いえいえ」
彼女はおそらく年下、20代半ばくらいに見える。左側の目を隠した艶やかな長い黒髪。目頭と目尻がシャープにしまったアーモンドアイとすっきりした鼻筋、上半分は大人っぽいが、反面小さい口と丸みを帯びた顎がやや幼い印象を与える。だがアンバランスと言うわけではなく、やはり美人だ。やや痩せ気味で、疲れているように見える。
両肩を母親に掴まれた子供が、まだ僕の顔を不思議そうに見ていた。
「お父さんと間違えたのかな?」
言おうかと一瞬迷った事を、雲妻が先に言ってしまった。もし本当にシングルマザーなら失礼だろう。
「いえ、そういうのじゃ…」と母親が答えた。どうやら本当にシングルマザーのようだ。
「かわいらしい子ですね。男の子ですか? 女の子ですか?」と、僕はフォローの意味合いも込めて言った。もっとも服装は男の子っぽいが、判別できないほど、おかっぱでまん丸お目目のかわいらしい子だ。
「男の子です」
愛想笑いもなく答えて、彼女は子供を抱きあげた。向けられた子供の背を見て、僕は拒絶を感じた。
彼女はもう一度頭を下げたが、その後は振り返ることなく船内に向かって行った。母親の背中越しに男の子が手を振ってくれたので、僕と雲妻も振り返した。
「ん~、悪い感触ではありませんね」
「え、どこが? 完全警戒って感じでしたよ」
「いいえ、私に対してはともかく、簾藤さんの事はさりげにチェックされていたと思いますよ。真面目そうで、年齢も丁度いいし、お子さんにも好かれそうって評価ですかね」
僕は少しわざとらしく笑った。
「いやあ、実にうらやましい。甘すぎず、辛すぎず、ツンデレとはちょっと違うようですが、いい塩梅のヒロインになりそうです」
僕は本気で笑った。
「雲妻さん、もうはっきり言いますが、あなた変な人ですね。ガチオタと言うか、もう突き抜けてしまっています」
「ええそうです。簾藤さんはオタクではないのですか?」
ちょっと言い過ぎたかと思ったが、雲妻は変わらない様子だ。
「いえ、多少は好きですよ、アニメも漫画も。でも一般的な程度です。たかが3泊4日の旅行で、アニメや漫画の主人公気分になれるほど無邪気じゃないです」
「3泊4日ですか…、短いですね」
「え、雲妻さんは何泊の予定ですか?」
「私は連休いっぱいまで楽しむつもりです」
「へえ、羨ましいですね」
「ホテルに空きはあるでしょう。延長できるんじゃないですか?」
それは小恋ちゃんからも伝えられている。1泊1万5千円の追加料金を支払えば延泊は可能であり、その場合は復路のフェリーも合わせてくれる。ツアー客がこのフェリーに乗っている6名だけならば、延長は可能だろう。
「いやでも、間の平日にいろいろとしなければなならない事がありますので」
それに、転勤先でどれだけ入用な物が生じるか分からないので、贅沢は控えておこうと考えていた。
「そうですか、それは残念です」
まあ相当変わっているけれど、良い奴だな…。
「まあ雲妻さんこそ頑張ってくださいよ。旅行中の出会いが交際や結婚に結び付くなんて話、結構聞きますからね」
「私は既婚ですが」
「はあ?」 最悪だこいつ。
「ちょっと! 奥さん置いて旅行に来てんですか?」
「いやあ違うんです。 簡潔に説明しますので、ひとつ聞いてください。 妻はもともと両親が決めた結婚相手でしてね。お付き合いも浅く、お互いさしたる愛情がわかないまま周囲に押し切られる形で3年前に結婚したんですが、彼女は私の趣味、つまりオタク趣味にまるで理解を示さない、むしろ激しい嫌悪を遠慮なく示す人でして、結婚後まもなく露見してしまってからは、私に対してゴミ虫を見るような態度になりました。性交渉も拒まれ、当然子供もできず、ただ双方の体裁を保つために見せかけの婚姻関係を維持している始末。もともと私の仕事は日々忙しく、出張も多いためにろくに家に帰ることもできなかったのですが、唯一の癒しの空間に心を許すことができない伴侶がいるという状況に、常に精神の疲弊を重ねておりました。そしてそれがとうとう限界を超えたため、数年間一度も使わずにいた有休の所得を願い、妻にはいつもの長期出張と偽り、今この場にいるという次第です」
「へー」 いや、どうでもいいけど。
「自分で話しておいてなんですが、どうかここだけの話にしておいてください」
きびきびした動作で、雲妻は直角に上半身を折った。
「いや内緒も何も、僕には関係ない事ですし…」
「ありがとうございます!」
「まあ、ほどほどに…ね」
「ご安心ください。 私、先ほどからエキセントリックな言動を繰り返していると思いますが、このキャラクターはあくまで一部のものですから」
「一部?」
「こんな変な奴が社会人、しかも公務員なんてまともに務まるはずがないでしょう。これは擬態…とはいいませんが、あくまで私の一部分を拡大しているだけなのです。また、仮にも妻がいる身で他の女性にちょっかいを出そうだなんて、本気で考えているわけではありません。私はただ楽しみたいのです。日常を抜け出して、私の中にいる、普段は隠しているキャラクター、それこそ現実にはいない特異なキャラクターを開放したい。 無遠慮で、少し人をおちょくるような態度ですが常に丁寧語を話し、自身の欲望を素直に理解しており、周囲の不信をものともせず常にマイペース、そして時に真理を突く言葉を吐く、そうですよ! 漫画、アニメともに名作と称えられる高橋留美子大先生著「めぞん一刻」に登場する一刻館四号室住人 四谷氏です。彼が私の中にいるのです!」
「いや、知らんし」
「えー! ご存じない?」
「いえ、なんかふわっとは知っていますが、きちんと読んだことも、アニメを見たこともないです」
「じゃあ、私が口調、CVまでも真似ていることを…お気づきでない?」
僕が首を左右に軽く振ると、雲妻はがっくりうなだれた。
「まあ…そういう訳です」
若干声が低くなった。
「つまり、かなりキャラをつくっているという訳ですね」
「そうですね。どちらが本当の自分かと言われれば、どちらも本当で、どちらも嘘なんでしょうがね。他にもたくさんいますし」
「…まあ、どこまで付き合えるかわかりませんが、理解しましたよ。ちょっと引いちゃう時が多くあると思いますが、その辺は容赦してください」
「いえ~、あなたはそのままがいいんです。ぴったりなんですよ、五代君」
誰が五代君だ。ってか知らんっての。 …まあでも、気持ちはわからんでもない。旅の恥はかき捨てと言うやつだ。女性たちと仲良くなれなくても、どうせ旅行が終われば二度と会う事はないのだから、もう少し積極的になるべきだろう。失敗したところで、この男と酒でも飲めば憂さを晴らせるだろう。しかし、あのギャル二人組は趣味じゃないし、あまり仲良くなれる自信はない。シングルマザーもハードル高いよな~。そうなるとやっぱり…
「響輝さん~」
心が浮き上がる、明るい声が聞こえた。明日川小恋が、僕の姿を見つけて歩いてくる。
「響輝さん? へえ、そうなのですか」
「なんですか?」と言いつつ、照れ笑いを隠せなかった。
「これは参りました。大甘じゃないですか」
次話
第5話「ヒロイン制限」




