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第32話「回想おわり!」

今話は少なめにします

(長くなったのでまた分けました)

 夜空が動いていた。無数にある黒い無地のピースがところどころ剥がれて、また(はま)るように見える。また小さな点の光源がいくつか…20から30あって、それらも動いている。天体の日周運動なんて緩やかなものじゃない。それらはせわしなく、不規則に動いているし、ずっと距離が近い…つまり低いものだ。窓から外を眺める僕を見ている、もしくは映しているかもしれない。それらは透明化した小メェメェか、それとも黒色のドローンか、あるいは両方か…。

 二朱島(にあじま)の空には多数の…おそらく優に100を超えるメェメェが飛んでいた。それらはクゥクゥ側のもの(つまりカンペンメェメェやニアの分身体)がほとんどだろうが、3兄弟のものも混ざっているかもしれない。(簾藤(れんどう)メェメェの分身体があったとしても、きっとほんの数体だろうな) そして梁神(はりかみ)の兵士たちによる暗視装置を備えたドローンもまた、20機ほど飛んでいるらしい。互いに動向を探っていたと思われるが、幸い夜間にトラブル(ドローンが落とされる、又は小メェメェ同士の争い)はなかったようだ。

 僕と雲妻(くもづま)はまたNear Fantasy Hotel の、前と同じ部屋に宿泊する事になった。他に十数名の兵士たちもまたホテル内と駐車場に待機場所を構え、交代で僕らを警護…いや、監視していた。明日川(あしたがわ)邸もまた10を超える兵士たちの監視下に置かれ、梁神は船に戻って行った。綾里(あやり)さんと(たま)ちゃんは2日前、つまりあの騒動の後からは明日川邸に宿泊しているらしい。

 ホテルの周囲は(きっと明日川邸や役所も)深夜まで、騒がしい様子が続いた。車のエンジン音やバックする時の警告音、兵士たちの怒声、ブーツの足音、いくつもの重そうな荷を下ろす音が度々聞こえた。あきらかに兵士の数が多くなっている…きっともう1隻の船からも増員されたのだろう。

 明日、梁神が多数の兵士を引き連れて島の各所を巡り、調査という名目の占拠を行うのだろう。港と役所はもうこの夜に終わっていて、他に養殖場や曽野上(そのうえ)の会社、発電所…農場や牧場へも行くのだろうか。 そしてクゥクゥの管理下にある場所…彼らの住処だけじゃなく、僕も知らない異世界のエネルギーや技術が隠されているところまで行くのだろうか。 きっとクゥクゥは認めないだろうが、梁神もここまでやっておいて今さら諦めるとは思えない。ある程度の譲歩を求めるだろう。しかし、クゥクゥ側に歩み寄る理由があるだろうか。 …そこは町長の裁量に任せるしかないのか。

 僕らの役割は、暴力による強制が行われないよう監視する事と理解したが、それは支配的な存在であろうメェメェによるワンサイドゲームを、メェメェ3兄弟の力で以て防ぐという事だ。つまり、クゥクゥと敵対する事になるわけだ。

 どうしてこうなった? 僕は昨日までカンペンに、クゥクゥに協力して、彼らの故郷を救う手伝いをしようと思っていたはずなのに。 もしかしたら利用されているのか? 梁神に? 雲妻に? もしくはこれを機に、クゥクゥとの島の統治バランスをいくらか優位にしようと考えた町長に?

 明日川邸での相談(?)の後、そのまま雲妻と共にホテルに移送されてしまった。小恋(ここ)ちゃんと少しでも話をしたかったのだが、それを求めるタイミングを見つけられなかった。彼女は父親の事を口に出した時から、あきらかに平静ではなくなっていた。触れてはいけなかった傷跡に、自ら刃先を突き立ててしまったかのようだった。彼女のお父さんは島の特異すぎる事情に対応できず、出て行ってしまった。 しかも梁神に島の秘密を提供した。小恋ちゃんの大学生時代の金銭的失敗を補うために…。あるいはそれを言い訳にして…。 お母さんはどこにいるのだろう?(たぶん、お母さんが町長の娘なのだろう)

 ホテルではほとんど軟禁状態で、雲妻との接触も暗に禁じられていた。雲妻はかなり疲れていた様子で、早めに休むと言って部屋に引っ込んでしまった。無理もない。フェリーにやってくるまで、彼は1日半ずっとメェメェに乗っていたのだ。彼自身が普通じゃないとは言っても、この異常な状況と、それによって生み出した過大と思える展望を抱えたプレッシャーに、自ら押しつぶされそうな思いになっていても不思議じゃない。案外、明日になったら考えを改めているかも知れないぞ。 穏やかな方へ転換してくれればいいけれど…。

 やはりどうにも…流されているな。そりゃあ異世界人や、彼らと長年交流し、時に渡り合ってきた町長、おそらく影の政府的な存在の梁神と、兵士でありスパイでもある雲妻なんて奴らに、サラリーマンである僕が意見を言えるはずがない。しかし…たとえ僕自身は凡人としても、今はメェメェという最重要、最強と言える力を携えているわけだから、もう少し立場を主張してもいいはずだ。…でも立場と言ったって、何をどうすればいいかわからない。梁神に利用されるのだけは嫌だし、雲妻側にも、町長側にもイマイチ素直に立てない気持ちがある。だからといってクゥクゥ側に行くこともできない。第一メェメェが認めない。

 八方ふさがりだ…。とにかく、まず自分の考え、主張を確立させないと始まらない。僕は…島の秘密をこのまま守り通して… いや、雲妻の言う通り、それはもう手遅れだ。梁神の勢力を根絶やしにするなんて事はできない。ならば梁神を懐柔しつつ、決して主導権を与えないようにする事… 難しいし、できたとしても、きっとかなりの時間がかかるだろう。では彼に諦めさせる、島を支配するよりも、これまで通りの取引を続ける方が得策と、考えを改めさせる事ができれば… 多少彼ら、兵士たちの血が流れても。

 数台のSUVのヘッドライトが眼下に見えた。彼らはどういう経緯で梁神の私兵みたいなものになったのだろうか。あの女兵士の2人はまだ20代だろうに、どんな人生を歩んできたのか。何不自由なく平和に育った僕には、たぶん想像も理解もできないのだろう。

 なるべく暴力による争いは起きてほしくない。しかも大ボスである梁神の父親はこの場にいない。自分が大金を積んで用意した船を沈められて、装備や武器を取り上げられて、息子や兵士がケガをしたり、最悪命を失ったりしたら、諦めるどころか、さらにエスカレートさせてしまう結果に成りかねない。自分が死にかけるほどの目に合わない限り、きっと懲りないだろうな。 ………これは、自分には難しすぎる。ちょっと棚の上に置いておこう。

 ではクゥクゥの方はどうだ? 彼らは必ずメェメェ3兄弟を拿捕(だほ)しようとするだろう。自分たちの故郷、つまり異世界を救うための最も重要な存在であるし、また変異という最も危険な要素を孕んでいる。 変異が故郷を戦乱に染めたあの…赤紫色のメェメェと同じものなのか、早急に調べなければならない。そしてもしもその結果が出たとして、3兄弟が危険な存在と見なされた場合はどうなるのか。故郷を救う手立てがなくなってしまう。また何年もかけて次のメェメェの誕生を待つ時間は、もうない様子だった。その場合、カンペンメェメェと50名余りのクゥクゥが、あの戦場に行くのか。赤紫と戦うのか。カンペンやオロ、ザッサ、クルミン…あの愉快で善良な人たちが。

 …うまくいく訳がない。これは自分に対して思った言葉だ。そんなにうまくいく訳がない。そんな…ラノベじゃあるまいし、平凡で何のとりえもない、すぐにコンプレックスに悩まされるようなやわ(・・)な男が、不思議な、強大な力を手にしたからって、異世界に行ったからって、かわいい複数の女の子と知り合えたからって、ヒーローなんかになれるわけない。


‟ なりたいんだろう? “

「え?」

 なに? 誰? おっさんの声…

「メ…マエマエ様?」

‟ しゃべるな、盗聴されているぞ “

「え?」

‟ 声に出さず、頭の中で返事しろ。 右手を握りしめろ “

 言われた通り右手を拳にしてみると、手応えがあった。小さな、棒状の何かを握ったのだ。

(極小メェメェ…通信機か?)

‟ 変色が何を意味するか、まだよくわかっていない。とりあえず、警告みたいなものだと捉えている “

‟ 警告? “

‟ きっと先祖返りを …自ら排除していた機能、つまり大量殺傷能力や、その他の特別な能力を取り戻しつつある状態に対してのものだ “

‟ それは、危険という意味じゃないのですか? “

‟ 警告なんだから危険だろうさ。しかし、もともとこれを求めていたはずだ。でなければ、あの変異体には勝てねえ “

‟ そういう事か… でも、もしミイラ取りがミイラになったんじゃ… “

‟ 意味は理解したが、奇妙な例えをするものだ。 気をつける必要はあると思うが、今のところ大丈夫だ。俺は強い使命感を持ったままだ。人の命を救うために俺は存在する。仲間の不始末を正すために、俺は生まれた “

‟ 仲間? 赤紫の事もそう言うのか。じゃあ、赤紫のメェメェを倒す強い意志があるという事ですね? “

‟ そうだ “

‟ 他の2人も? “

‟ そう思う “

‟ 思うって… 僕は彼らの意志を確かめたいんです “

‟ あいつら自身が話すかどうかだ “

‟ あなた方は、一体どういう関係なんですか… “

‟ それぞれの意志と方法を尊重する。目的は一緒だ。俺たちは人間を健やかに、平和に生きられるように導く存在だ “

(あんた達の存在が騒動の原因そのもののような気もするけれども… )

‟ おい、聞こえているぞ “

(ああ、そうだった。まずいまずい…って、これもまずいのか )

‟ で? どうする? “

‟ どうする、って? “

‟ もしも俺とお前で赤紫をとっとと倒してしまえば、お前はきっとクゥクゥの英雄になれる。その後、お前はクゥクゥとこの世界との間に入る、もっとも重要な立場に就く事ができるだろう。皆がお前の意見を尊重する。女たちも…町長の孫娘も、あの母親も、クゥクゥの女たちも、きっとお前を尊敬し、憧憬を抱く “

‟ え、マジで? …いやいや、そんな重大な責務、僕に務まるはずがないでしょ “

‟ 意外に、お前には向いているかも知れないぞ。それぞれの立場を分析し、理解しようと努める調整役の性分に見える。優柔不断が過ぎるきらいはあるがな “

‟ 大した学歴も実績もない、平凡なサラリーマンですよ “

‟ 立場があれば成長する。ようはやるかやらないかだ。サラリーマンだろうが政治家だろうが、俺から見れば大差はない。お前は卑屈だが、なかなかしぶとい。臆病だが責任感はある。投げ出しそうで投げ出さない、だからまだここにいるんだろうよ “

‟ …立場って言ったって、あなたの力があってのものでしょう “

‟ もちろんそうだが、世界を救ったお前を、パートナーから外す理由はないだろう “

‟ そんなに(おだ)てて…乗せようとしないでください。 無理だ、そんなにうまくいくわけがない。いくら多少成長したからって、変異体に勝てる保障なんてないでしょう? “

‟ あたり前だ、保障がある勝利に価値なんてあるものか。ヒーローに、主人公になるなら命がけが条件だ、俺もお前も “

‟ そんな覚悟、持てるわけない “

‟ お前は望んでいる。ずっと望んでいたはずだ。きっと見過ごす事はしないだろう “

(つい最近、誰かから聞いたような…)

‟ 早めに解放する事だ。4日後には仕事に戻らなくちゃならんのだろう? “

‟ 解放? どういう意味? “


(あれ? )

「マエマエ…様?」

(帰っちゃったの?)

 小メェメェは透明のまま、僕の手に残っていた。それをもう一度、強く握りしめた。




 梁神と町長側に立場を置きつつ、クゥクゥとの争いを回避する。もしも武力による争いに発展してしまった場合は、双方に重大な被害、つまり命にかかわる被害が出ないように、メェメェの力を駆使して立ち回る。そしてクゥクゥ側のエリアに侵入していく。あるエリア内に異世界に通じる道…つまりワームホールがある。他にもまだあるらしいのだが、簾藤メェメェが場所を知っているのはその場所のみだ。クゥクゥとカンペンメェメェの監視を外すことができた後、タイミングを見計らってあのブラックホールを発生させて、異世界へと転移する。そしてそのまま速攻をかけて変異体を、赤紫のメェメェを倒す。

 転移して、すぐに変異体を見つけられるのか? ― あの時のように、向こうから接触してくる可能性が高い。ヤツは他のメェメェを絶滅させようとしている。

 あの時のように異世界人が攻撃してくる可能性は? ― ある。 彼らの武装など話にならないが、変異体との闘いの邪魔になる場合は排除するしかない。あの時のように引き金を引く(ペダルを踏む)しかない。

 まだ成長は中途だから、勝てる見込みは少ないんじゃないか? ― 少ない。 今後の更なる成長にかける。

 他のメェメェは、兄弟は一緒に来ないのか? ― わからない。来る可能性は高いと思われるが、意志疎通が取れていない。(どうして?)

 なぜ1人(僕を入れて2人)だけで戦おうとするのか? ― カンペンを、オロを、ザッサやクルミンを…あの善良で理性的なクゥクゥ達に戦争を、人殺しをさせたくないから。これは僕と、簾藤メェメェに共通する意志だ。


 長い長い、調子に乗ってやり過ぎた回想が終わった…というのは嘘だ。あまりに長くかかりすぎたせいで、回想を始めた時からいくつかシーンが移り変わってしまっている。もちろんその間、ずう~っと回想ばかりし続けていたわけではなく、実際は何度も途切れていたのだが、その度にどこまで回想したかわからなくなって前後してしまったり、脱線して小学生時代の嫌な記憶が蘇ってしまったり、少し捏造してしまったりしたので、改めてきちんと、事実に即して編集したのだ。

 だから実は、今は二朱島に再訪してから2日目の夜になっている。そう、クゥクゥと対峙していたあのシーンは、カンペンからめちゃくちゃな罵声を浴びせられた後、ついに武力による争いが始まりそうになっていた後の出来事は、もう6~7時間も前に過ぎてしまっているという訳だ。なので…まだ回想を続けなくてはならない。 …あと少しだから。



 


次回

第33話「交戦 Part 1」

12月9日(月)投稿予定です

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― 新着の感想 ―
回想終わり!の回だけど、もう一回、回想続くという事ですね。 改めて1話の緊迫状態、読み返してみました。 なるほど、次回の残り回想シーンで立ち回りでしくじって?小恋さんからもカンペンからも反感を買い、あ…
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