その後の話19
「人の幸福の絶頂に水を差すとは、その輩の身柄は拘束してるのだろうな?」
王政に混乱をもたらす悪しき聖女の存在に、タテロットは血管がブチギレそうなほど苛立っている。
なにより、フィオナの華麗なる王太子妃デビューを邪魔されたことが我慢ならなかった。
「いえ…はい、そうなのですが…」
フランタンに対してありったけの憎悪を向けてくるタテロットに対して、彼は気まずそうに視線を逸らす。
あれだけ勢いよく乱入してきたというのに、一気に歯切れが悪くなった。
側近の態度の矛盾にタテロットが違和感を覚えた時、彼の背後から聞き慣れた声がして来た。
「だからアレは、背に腹は変えられないというか、その場凌ぎについた嘘で王政を陥れようとかそんな意図はなかったんですって!…まぁ確かに、英雄扱いされたらそりゃ気持ちいいですけど。」
「これは、アレスが私への愛ゆえに起こした行動であり、彼女には何の責もない。だからこれ以上追求することはやめてもらいたい。」
「やはり、お前達か……………………」
ギャアギャア騒ぐ二人を目の前にしたタテロットは、それで全てを悟った。
その場に崩れ落ちないように足に力を入れることに必死だ。自分の背中を彼女が見ていると思うと、余計に力が入る。
「タテロット様、これは一体どのように…」
「まぁ、アレスさん!!?」
アレスの声に気づいたフィオナが彼女達の元へ駆け寄って来た。
心細い場所でよく知る相手の声がし、思わず足が赴いてしまった。
「フィオナ先生!?なんでここに…って、そのテッテカテカのロイヤルブルーのドレスを着ているということはまさか…………」
自分の状況も忘れて、タテロットにドン引きした目を向けるアレス。
ついでに、自分も今どれだけ独占欲に塗れた格好をしているのか頭から抜け落ちていた。
「そうなのよ…ちょっと色々あってね。」
なんとも言えない表情で微笑むフィオナ。それをまたなんとも言えない表情で見つめるタテロット。
聖女による混乱はここにまで影響を及ぼしていた。
「この騒ぎはどうやって鎮めましょうか…」
この中で唯一冷静であったフランタンが再度主君に尋ねた。
軽く目を閉じて一考した後、タテロットはややめんどくさそうな顔で口を開いた。
「アレス嬢の口から皆の前で聖女の件を否定してもらう。あと、褒賞の件だが、君には王太子妃付き侍女の役にする。誰もがなりたがる栄誉ある立場に加え、君が王族の配下にあると知らしめることが出来る。ただ、侍女と言ってもフィオナの茶のみ相手になってくれれば問題ない。彼女も知り合いのいない中で一人きりは辛いだろうから。今回はこれで手を打つ。」
「畏まりました!テト、私仕事見つけたよ!これで当分養ってあげられる。フィオナ先生、また宜しくお願いします!」
にっこにこの笑顔で承ったアレス。
これが自分がしでかしたことに対する処置だということは微塵も思っていなかった。
「…もうなんで良い。とりあえず、皆の前で否定さえしてもらえれば。フランタン、段取りは任せた…」
「アレス、私にはきちんとした職があると何度言えば伝わるのか…」
「アレスさんが一緒にいてくれるならとても嬉しいわ!私も頑張れる気がする。」
最も好意的だったフィオナの言葉にだけ、アレスは頷いて笑顔を見せた。
他の者達の言葉は調子良く聞こえないフリをした。
***
招待客で満員となった会場に、ようやく現れた王太子殿下の姿。
主君の到着を心から待ち侘びていた彼らは、割れんばかりの拍手と歓声を送った。
「今回は、大規模掃討作戦に参加した者に対する慰労の場となるが、その前に皆に話がある者がいる。アレス嬢、前に。」
突然のタテロットの言葉に、しんと静まり返る会場。
だが、壇上に上がって来たアレスの姿を見た途端ざわめき出した。
「あ、あれが聖女様か?」
「ああ、俺たちを窮地から救ってくれた恩人だ!」
「きっと、これからの王政にもお力を貸してくださるはず!」
アレスのことを聖女だと信じて疑わない者達の、期待に満ちた声があちらこちらから聞こえてくる。
壇上の中心に立ったアレスは、勢いよく頭を下げると深く息を吸った。
「私、聖女なんかじゃありません!嘘をついて騙してごめんなさい!」
張り上げた声に、またしんと静まり返る会場内。
皆、彼女の言っていることが信じられず、不安に揺れる瞳で続きを待っている。
「好きな人のためにあの場ではああすることしか出来なくて、皆さんのことを混乱に巻き込みました。本当にごめんなさい!」
深く頭を下げたまま、ありったけの声を張り上げたアレス。
あまりに必死な様子に、不安に揺れていた多くの瞳には同情と労りが入り混じり始めていた。
これで誤解は解けたはずとタテロットがその場を引き継ごうとした時、アレスは勢いよく顔を上げて叫んだ。
「でも後悔はしてません!好きな人のためになれたから!そして何より、大好きなこの国を救えたから!」
叫びを終えたアレスは、肩で息をしている。
タテロットは突然のことに言葉を失い、一方後ろに控えていたテトはアレスの側に駆けつけた。
静まり返る会場の中、アレスの息遣いとテトの足音だけがやけに響く。
「「「「わああああああああああ!!!」」」」
「え???」
テトがアレスの隣に立った瞬間、会場内から大歓声が上がった。
「聖女様、サイコー!!!」
「俺らの国をこれからもよろしくお願いします!」
「一生ついていきますっーー!!」
若い青年の声を中心に、アレスの言葉に感銘を受けて歓喜の声を上げている者が数多くいた。
皆、この国を思ってくれているアレスの言葉に心を打ち抜かれたのだ。
鳴り止まない歓声と拍手が続く。会場は大盛り上がりであった。
「否定しろとは言ったが、誰が国民をたらし込めと……全く余計なことを……」
収まりきらない会場の熱に、耐えきれなくなったタテロットがぼやきながらふらふらと退散して来た。
「あら、私は素敵だと思いますよ。とてもアレスさんらしいです。それに、他の方々もとても良い顔をしていますわ。」
「それは…そうだね。」
さっと駆け寄って来てくれたフィオナに、タテロットは口元を緩ませていた。
「アレス、私はいつもどんな時も君らしくいてくれる君が大好きだ。心から愛してる。これ以上の言葉はない。」
「え、テト…?」
なぜか恍惚とした表情で抱き寄せてくるテトに、嫌な予感がしたアレスは身をよじろうとしたが、僅かに遅かった。
逃げられないように後頭部を支えられて、優しく口付けてきた。
その瞬間、会場から一層大きな拍手が送られた。
この翌日、聖女とロワール公爵の婚約は、タテロットの婚約よりも大きく取り沙汰されることとなった。
その事実にタテロットは盛大にむくれていたが、フィオナは注目を集めずに済んだことを心の底から安堵し、アレスに感謝していたのだった。
フリーデン王国で、王太子妃付き侍女のことを聖女と呼ぶようになったのはまた少し先のお話。
こちらでその後の話は完結となります!番外編と言いつつ、長くなってしまいました^^;
ここまで読んで下さった方、本当にありがとうございます!!
今度こそ番外編っぽいものを書ければなって思ってます笑




