その後の話18
絶望を突きつけられたような顔をしているフィオナに、タテロットは優しい微笑みを向けた。
「だから君といたい、そんな風に迫ったら卑怯な男だろうか?」
「そんなこと言われたら…」
涙を堪えたせいで声が震えた。
この国の魔法使いの宿命を知っていたはずなのに、それを目の前に突きつけられると心がえぐられそうなほど痛みがする…
この国のために尽力して来た者の末路がこれでは、あまりにも酷すぎるわ。
王族として、魔法使いとして、この国を立派に守り抜いた彼が短命になるなんて…その事実はもう変えられないとしても、先を行く彼の望みを少しでも叶えてあげられるのなら……
「殿下とのご結婚、喜んでお受けいたします。」
強く握られていた手を自分の意思で握り返したフィオナ。
自分の選択に悔いはなかった。この国のために命を削った彼のためになれるのなら、それは何にも変え難いほどの誉れであった。
そのはずだったのだが……
「ありがとう、フィオナ…君のことを必ず幸せにする。生きていてこんなに嬉しかった日はない。僕は心から幸せだ。この先何十年と君といられると思うと、心が浮き足だって駆けて行ってしまいそうだ…」
繋いでいた手を自分の方に引き寄せ、その腕の中に収めてこようとしたタテロットに、フィオナは肩を叩いて待ったの意思を示した。
「え?何十年って…??」
「ああ、魔力を酷使した分減った寿命は2〜3年ほどだろう。それも身体に気を遣えば、平均寿命よりは長く生きられるはず。王族の身体は他の者より丈夫に作られているからね。」
なんてことない顔で言い切った。
自分で老い先短いと言って来たことを簡単に翻して来た目の前の男に、フィオナは怒りで身体を震わせた。
「殿下…?それは仰っていたことと違うのではないですか?」
相手の立場も自分の立場を忘れ、責める口調でタテロットに迫るフィオナ。
手を振り離そうとしたのに、タテロットの力が強く離すことは叶わなかった。
「そう言うな。君を想う気持ちは本物だ。幸せにすると誓った言葉も。だからそばにいて欲しい。」
捨てられた子犬のような潤んだ瞳で見つめてくるタテロット。
フィオナは昔から彼のこの目に弱かった。タテロット自身もそれを分かっていて、ここぞというタイミングで行使して来たのだ。
「私、王妃なんて器じゃありませんわよ…」
「大丈夫、君は僕に愛されるだけでいい。他は好きなことをしていて。」
「みんなから反感を買うかも…」
「僕の支持率は史上最高だ。誰にも文句なんて言わせないよ。」
「私が殿下の隣に立つだなんて…」
「それは至上の幸せだね。ふふ、君の言い訳は全て否定してあげるから安心して。嫌な理由が僕以外なのであれば、それは全部なんとかするから。だから、僕を選んで。」
拗ねた子どものように唇を尖らせて言い訳を並べるフィオナに、タテロットは完全勝利の笑顔を浮かべている。
彼女が頷きやすいように、彼は手を差し伸べた。
控えめにその手を取るフィオナ。
もう片方の手は既にがっしりとタテロットによって繋がれていたため、両手を繋いだことになった二人。
なんとも格好が付かない様だったが、フィオナは幼少期を思い出し、くすっと笑みをこぼした。
「フィオナ、愛してる。」
タテロットは彼女の片手を離すと、もう片方の腕で彼女のことをそっと包み込んだ。
「君を一人になどするものか。」
口の中だけで呟いた彼の強い意志は、フィオナの耳に届くことはなかった。
ー ドンドンドンッ!!!
「タテロット様!火急の知らせにございますっ!」
タテロットがようやくフィオナから返事をもらえたその時、それをぶち壊すフランタンの声が部屋の中に響いた。
「なんだ」
地を這うような低くドスの効いた声で返事をしたタテロット。
フランタンが魔力持ちの人間だったら、容赦なく彼の魔力で吹き飛ばされてたに違いない。それほどの殺気が当てられている。
だが、日常的に彼の殺気に触れて来たフランタンが動じることはない。
僅かに開いたドアの隙間から、報告を続ける。
「聖女が王宮内に現れたと、魔道隊を中心に大変な騒ぎになっております!」
フランタンは、必死の形相で緊急事態だと伝えた。




