その後の話16
魔力制限が解除された今、王宮へと続く幅の広い街道の両側キラキラと魔法ランプで照らされている。幻想的な雰囲気であった。
アレスは馬車の窓から外を覗き込み、初めて王宮を訪れた時の高揚感とテトとダンスをした時の胸の高鳴りを思い出した。
気付いたら飛ばされていた縁もゆかりもない異世界で、彼女は確かに懐かしさを感じていた。
魔物の脅威と直面する前の、あの穏やかな日々が頭に思い浮かぶ。
これからも、
こんな穏やかな日々が続きますように…
アレスが祈るような気持ちで横に座るテトのことを見上げると、彼は穏やかな笑顔を返してくれた。
二人を乗せた馬車は王宮の裏門からゆっくりと中に入っていく。
「ロワール公爵様、お待ちしておりました。」
馬車から降りたった先、出迎えてくれたコピルト魔導隊大隊長が深く頭を下げた。
彼の後ろには、魔導隊がずらりと整列している。そこには、現在定期巡回で国境付近に派遣されている第一魔導隊以外が集結していた。
皆大規模掃討作戦で前線に立っていた者であり、テトに命を救われた者達だ。
全員同じ姿勢で頭を深く下げ、中には当時のことを思い出して肩を振るわす者までいる。
「魔導隊を代表して、改めて御礼を申し上げます。此度の作戦では我々の命を救って頂き誠にありがたく存じます。救われたこの命、王国のために使っていく所存にございます。」
肩を震わせ声を震わせながら頭を下げ続けるコピルト。テトは、そんな彼の頭を上げさせるよう、軽く肩を叩いた。
「命があればそれで良い。何より、これは私の愛するアレスのためにしたことだ。感謝の言葉なら彼女に言え。…だが、直接言葉を交わすことは禁ずる。」
大真面目な顔で言い切ると、目を細めて愛おしそうにアレスの肩を抱き寄せるテト。その瞬間、全員の視線がアレスに一旦集中する。
「はぁ!!?」
予期せぬ形で全員の注目を集めてしまったアレスは、驚いて結構な大声を出した。
今度は別の意味で頭を上げられず肩を振るす者が多数発生した。
一層周囲からの注目を集めたアレスであった。
「なぁあれって………」
「お前も思ったか?」
「雰囲気は違うけど、ドレスのせいだな。瞳とか声は同じだ…間違いないな。」
並んだ魔導隊の一番後ろ、興味本位で混ざって様子を見ていた青年二人がアレスを見てざわつき始めた。
「おい、何を話をしている?ロワール公爵様の御前だぞ。」
「小隊長、あの方が聖女様です!俺たちを救ってくれた聖女のアレテト様ですよ!」
「あれは噂じゃなかったのか…」
「俺たちが彼女のことを運んだって何度も言ったじゃないですか。ロワール公爵様のお隣にいますし、間違いないです。」
「これは…至急王宮に伝えねばならんな。」
青年達の話を真に受けた小隊長は、列から抜けて王宮へと走り出してしまった。
「テト?なんか後ろの方騒がしくない?早く戻りたいのかな?」
「私たち二人のことが羨ましいだけだろう。」
「…私は、テトの頭ん中お花畑が羨ましいわ。」
そんなことは露知らず、いつものやり取りを繰り広げる二人。
この後、王宮に混乱をもたらす要因になるとは微塵も考えていなかった。
「アレス、そろそろ行こうか。」
すっと腕を差し出すテト。
緑と金色の組み合わせの衣装に魔法ランプの光が当たる。アレスは眩しそうに目を細めながら彼の腕を取った。
「褒賞って何がもらえるのかな。」
「望めば何でも用意してくれると言っていたぞ。」
「何でもか…じゃあテトの就職先が良いかな。なるべく高給取りなやつ希望で。」
「私は無職ではない………………」
煌びやかな衣装を纏い、見た目麗しい彼のエスコートで優雅に歩くアレスだが、中身は相変わらず彼女のままであった。




