その後の話15
「そこで何してるのよ…」
祝賀会へ向かう準備を終えて迎えの馬車を待つフィオナは、同じ部屋の中ドアのすぐ横にもたれ掛かりながら佇むダミのことを睨んだ。
だが、睨まれた本人は気にすることなく、大きな口を開けて欠伸をしている。
「逃げないように見張ってんの。」
「今更逃げないわよ。逃げたいけど。」
「もういい加減腹括れば?」
まだ時間が掛かりそうだと感じたダミは、呑気に言うと一人掛けのソファーに向かう。
彼もジュリアと共に祝賀会へ参加するため正装を着ており、ジャケットに皺がよらないよう気を付けて座った。
「他人事だと思って……結婚適齢期なんてとっくに過ぎて仕事しかして来なかった人間よ。それがどうして王太子殿下に…」
「あ、それは違うぞ。」
「え?」
鏡で最終チェックをしていたフィオナは、首がもげるほど勢いよくダミの方を振り向いた。
王宮で開催される公式行事のパートナーに任命され、あんなにタテロット一色のドレスを贈られ、これから王宮から迎えが来るという、もうそれは求婚以外の何物でもないと思っていたフィオナ。
それをダミに否定され、驚くと共に自分の勘違いが恥ずかしくて顔が熱くなる。
フィオナは火照りを冷ますように、グローブを付けた手でパタパタと顔を仰いだ。
「近日中に即位して国王になる。だからフィオナは国王陛下の伴侶だな。」
ニヤッと笑いかけてくるダミ。
「は!?それ、もっと大変じゃない!!」
勢いよく立ち上がったフィオナは、へなへなと力無くまた椅子に座り込んだ。
あり得ない状況に頭痛がしてきた彼女は、額を抑えて俯いている。
「いいじゃん、別に。アイツのこと、嫌いじゃないんだろ?子供のときはよく一緒に遊んでたじゃん。」
「あの時は、彼の身分を分かってなかったのよ。それに、なんだかいつも寂しそうにしてるから放っておけなくて…」
「それワザとだって。アイツ、あの頃からフィオナのことを想ってて、どうやったらお前の気を引けるかって毎回色んなことを試してたんだよ。それで、寂しそうにしてる時が一番効果があるって気付いたらしい。ほんと健気だよな。」
「……そんなの嘘。だって、途中で何も言わずにいなくなっちゃって、会えなくなって、それからもう何十年経ったと思ってるのよ。」
「あの頃は色々と複雑だったんだよ。アイツはアイツなりにお前を守ることを考えて、お前を巻き込まないって決めたんだ。本当なら今もそのつもりだったんだろうけど、どっかの最強の魔法使いのおかげで、そんなことはもう気にしなくて良くなった。それだけだろ。」
ダミはチラリと窓の外を見やると、軽やかにソファーから立ち上がった。
「ま、これでもまだ嘘だと思うなら本人に聞いてみるんだな。」
お役御免とばかりに、ダミはヒラヒラと手を振りながら部屋を出て行った。
「そんなことってある…?」
一人になった部屋で呟いたフィオナ。
王太子からの誘いだから失礼にならないように、贈られたものを身につけて挨拶だけしようと思っていた彼女だったが、ダミから思いがけない話を聞きその考えが揺らいだ。
フィオナは、これは今回の大規模掃討作戦で尽力したレジトリス家に対する褒賞のようなものだと思っていた。
自分が王太子の隣にいることで、この家の権力を他の貴族たちに見せつけることが出来ると。そのための材料として良いように扱われたとしか考えていなかった。
そこにタテロットの心があるなど考えたこともなかった。
「フィオナ様、お迎えに上がりました。」
一瞬、バルコニーから逃げようかなと考えたフィオナだったが、実行する隙を与えぬ間に王宮から迎えの者がやって来た。
こうなったら、真正面から本人に聞いてやるわ。嘘か冗談か誠か、この目で確かめてやる…
「ありがとう。」
気持ちを固めたフィオナはドレスの裾を掴んで優雅に微笑むと、侍女の手を借りゆっくりとした足取りで王宮の馬車へと向かって行った。




