その後の話14
大規模掃討作戦に関わった者達を集めて開かれる祝賀会当日、アレスは朝から支度に追われていた。
この日のためにテトが用意してくれた豪奢なドレスを使用人の手を借りてせっせせっせと身に付けていく。
あまりに多いパーツやアイテムに、アレスは『もうこれで十分なんだけど…』と口にした所、使用人から『公爵夫人となるお方がそのような戯言を…』と盛大に説教をされてしまい、今は大人しく着せ替え人形と化している。
「アレス様、御準備が整いました。」
彼女の前に姿見を持ってくると、使用人は一礼をして視界に映らないようにすっと後ろに下がった。
「確かに、めちゃくちゃ可愛いけどさ……服着るのに数時間掛ける意味が分かんないわ…しかも重っ……お腹きっつ……着るだけで緊張する…ゆるゆるのスエットとパーカーと適度な毛玉が恋しい…………」
1人ぼやくアレス。
この世界に来た時は、あの時の格好を恥じていたというのに、今は全力で無いものねだりしている。
「アレス、支度が終わったと聞いたが、その…私の贈ったドレスは問題なかっただろうか…」
同じように支度を終えたテトが不安げな様子でアレスの部屋に顔を出して来た。
「大丈夫だよ、ありがとう!ちょっと緑が多い気がするけど…でもこのチェック柄とかレース使いとか斬新で可愛いしって…………は?」
着ているドレスのことを褒めちぎりながらテトの方を振り返ったアレスは絶句した後に、静かにキレた。
「そうか、気に入ってもらえたのなら何よりだ。」
アレスの言葉を聞いて、安堵した様子で微笑むテト。
「いや、ちょっと待って!!何よこれ!聞いてないんだけどっ!!!」
一転、声を荒げ始めたアレス。
彼女は自分とテトの装いを交互に見ては口をぱくぱくさせている。
感情が先に立ち過ぎて、言語を司る脳内の回路が上手く作動していないらしい。
アレスとテトの装いには全く同じ生地が使われていた。
それは色を揃えたというレベルではなく、柄や差し色の使い方、使う場所まで全く同じで、数メートル離れていてもペアルックだと確信を持てるほど酷似していた。
しかも、白や黒などのありきたりな色ではなく、エメラルドグリーンと金色というとてつもなく目立つ自然界には無い組み合わせで。
アレスが絶句してキレ出すのも無理はない。
「とてもよく似合っている。そして何よりアレスは美しい。あまりにも美しく、これでは外に出すのが不安になるな…」
テトは、キレているアレスのことなどお構いなしに甘い顔と甘い声で囁いてくる。
彼にとって彼女の文句を言う声は小鳥の囀りと大差ないらしい。
アレスが真っ赤になる程上から下までじっくりと熱い視線で見つめると、テトは彼女の頬に軽くキスをした。
「っ!!」
アレスは熱くなった顔を隠すように両手で押さえた。
胸のドキドキが止まらず、先程までの怒りなどどこか遠くへ飛んでいってしまった。
顔を隠している彼女の両手を、テトが優しく引き離す。露になったアレスの瞳としっかりと目線を合わせて熱く見つめる。
「もう少しだけ見つめさせてもらえないか?」
アレスの両手を握りしめたままじっと見つめてくるエメラルドグリーンの美しい瞳に、アレスの頭は沸騰直前だ。
湯気が立ちそうなほど赤くなった顔で数度頷く。一刻も早くこの状況から解放されたくて必死だ。
「可愛い」
そんな彼女の必死な様子でさえ、テトは愛らしい振る舞いのように受け取ると、我慢しきれず真っ赤な紅を塗られたアレスの唇に口付けをした。
一度の触れ合いで満足出来るわけがなく、身体を抱き寄せて何度も唇を合わせる。重ねる度に深くなっていく口付け。
「ん…」
高なる胸の鼓動と繰り返し押し寄せる心地良さに思わず声が出たアレス。
もう降参とばかりにテトの肩をバッシバシと力一杯叩いた。
「…悪い。」
ようやく理性を取り戻したテトは、少しだけ気恥ずかしそうに顔を逸らすと、自分の唇についた紅を親指の腹で拭った。
潤んだエメラルドグリーンの瞳と甘美な余韻とその色っぽい仕草に、アレスは卒倒寸前であった。
視点が定まらないままぼうっと立ち尽くすアレスの元に、使用人が音もなく現れて彼女に化粧直しを施していた。




