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仕事の話


念願のミルクティーブラウンの髪、しかも、地毛と思うくらいの完璧な色味。そして、髪と合わせてちゃっかり変えてもらった同じ色の眉。

貴族のドレス姿に加え、綺麗な明るい髪色になったアレスは、どこからどう見てもこの世界の人間そのものであった。


この状況にご満悦の彼女は、テトにエスコートしてもらいながら、足取り軽くダイニングへと向かっていた。



ダイニングに着くと、テーブルの上には既に出来立ての料理が数多く並んでいた。


余裕で10人分の席を取れそうなほど広いテーブルに、向かい合って二人分の用意がされており、少し離れた壁際に給仕係が2名控えている。


サラダやパン、スープに加え、七面鳥の丸焼きやローストビーフ、白身魚と茸のクリーム煮などのメインディッシュまで並んでおり、朝から豪華な食事であった。



めちゃくちゃいい匂い…!!


その辺の高級ホテルより質が高い朝ごはんだ…

こ、これが…250mlの水のお返し…?恐るべし御貴族様…!!

こんな可愛い服を着させてもらって、髪色まで変えもらって、異人館みたいな素敵な場所で豪華な食事を振る舞って頂いて…なんという夢のような世界…これが異世界の本気か…




「アレス、昨日言っていた働き口の話なんだが…」


「はっ…」


テトの言葉に、アレスは一気に現実に引き戻された。


口に入れようとちぎったパンを落としたが、落ちる直前、ふわりと浮かんで皿の上に舞い戻って来た。

テトのさり気ない気遣いだったが、アレスは全くもって気付いていなかった。突きつけられた現実に、今はそれどころではない。




忘れてた!!!!!私働かないと!!!


働かざる者食うべからずだった!!!それは、異世界でも当たり前でした…

こんな施しだらけの生活、いつまでも続くわけがない…夢みたいな現実に浮かれてちゃダメだ。一刻も早く働きに出て、自立出来る術を身につけないと。ここは異世界、今までみたく惰性で生きるなんて出来なさそうだもん。




「私の嫁にならないか?」


「は?じょっ…」


ようやく目の前の現実を認識したアレスの耳に、信じられない言葉が飛び込んできた。


間髪入れずに、冗談でしょ!と軽く突っぱねようしたが、テトのあまりに真摯な瞳に思わず口をつぐんだ。冗談を言って良い雰囲気では無かった。



「今すぐにとは言わない。この国に慣れてからでいい。私は君がいいんだ。君と一生を共にしたい。いつまでも君の返事を待つつもりだ。」


「いや、ちょっと待ってよ…」


アレスは、頭を抱えて両端をテーブルの上についた。どの世界でもマナー違反極まりのない行為だったが、そんなことを気にする余裕はなかった。




こんな地位もお金もありそうな超絶イケメンが、出会って1日も経ってない相手にいきなりプロポーズ…?どこのラブロマンス映画だよ…シンデレラストーリーかよっ!

しかも、出会いは、あのスウェットにパーカーだよ?まぁ、テトもテトで、それなりに酷い恰好だったけどさ…


え…なんなの、これ…


どうしたらいい??

即決するほどまだ相手のことをよく知らないし、けれど、断固拒否するほど相手ことを嫌いなわけではないし…こりゃ困ったな…


答えが出ない時は…




「一旦保留で!」


片手を小さく顔の前に上げ、アレスはきっぱりと言い切った。面倒なことは全て後回しにする彼女の悪い癖が出た。



「…良かった。前向きに検討してくれてありがとう。」


適当に流したにも関わらず、テトはアレスの反応をかなり好意的に捉え、顔が綻ばせた。

一方のアレスは、良くない勘違いをさせてしまったことに狼狽えていた。



うわ、なんかめちゃくちゃ勘違いされた…


…でも、なんか良い人そうだし、彼の家にお世話になってるわけだし、こんなにイケメンだし、すぐにお断りを入れるほどの状況じゃない、かな…。今はまだこのままでいいよね?異世界に来たばかりだし?うん、そういうことにしておこう。



根っからの楽観主義のアレスが深刻に悩み続けられるはずもなく、思考して数秒で気持ちを切り替えた。




「今日はこれから一緒に街に出かけよう。服とか諸々必要なものがあるのだろう?実際にモノを見て、好きな物を好きなだけ選ぶといい。支払いは全て私が持つ。」


「え…なんだその破格の条件は…そんなに良くしてもらって、私は一体どうやってお返しをすればいいの…」


「嫁に来てくれれば一番なんだが?」


「…大変ありがたいご厚意として、お返しとかそんな野暮なことは考えず、素直に受け取ることにします。」


アレスは大真面目な顔で言い放った。



「ははっ。それが良い。」


彼女の焦った反応に、テトは声を出して笑っていた。


テトに揶揄われたと思ったアレスは、膨れっ面をして無視し、食事に専念することにした。次々と料理を口に運び、その度に頬をに手を当て、美味しさに舌鼓を打っていた。


テトは、目の前でコロコロと表情を変えるアレスのことを、愛おしそうな瞳で見つめていた。






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