その後の話⑩
いつもよりやや遅い時間となった夕飯時、いつものように熟練の給仕係の手によって完璧なタイミングで音もなく配膳され、豪華な料理が次々とテーブルの上に並ぶ。
そんないつもと変わらない静かなダイニングに突如高い音が響いた。
「それはつまり、私をデートに誘っているということか…なんということだ……」
いい歳をした大の男がフォークを床に落とし、片手で顔を覆い盛大に照れていた。
一方のアレスは、どうしてそうなった…と言わんばかりの顔で口を半開きにしている。なお、彼女の手には切り分けた肉の刺さったフォークがしっかりと握り締められている。
「ええと、どうしてそんな解釈になった??早とちりってレベルを軽く超越してるんだけど……」
「アレスが私と一緒に出掛けたいと言ったのだろう?」
「それはそうだけど…なぜにそれがデート呼ばわりされている…??肝心の目的語が上手いこと省略されてない??」
王宮から戻って来たテトと夕飯を共にしていたアレスは、ジュリアに会いに行きたいという話をしたのだが、それをテトはデートと解釈したらしい。
全くもってお花畑の彼の頭に、アレスは呆れてため息をついた。
「でもまぁ、どの道ひとりじゃ行けないし、理由や目的がなんであれ連れて行ってくれるならそれでいっか。うん、デートだよ、デート。」
雑にデートに切り替えたアレス。
変わり身の早い彼女は、テトの思い込みに便乗することにしたのだ。
こうして、あまりに温度差のある初デートの約束が取り交わされた。
「アレスとの初デート…まずは専用の服の仕立てとアレスと揃いのものを作り、場所は…誰にも邪魔などされたくはないからな、王都の街をひとつ貸し切るか。いや、彼女がもし他のものが良いと言った場合に備えて、念のため王都外の王宮御用達の施設も全て押さえておくか…あと他には…」
「ちょっと!そんなことしてたら数年かかるわ!それに、最後の方規格外のデートプランが出て来て怖いんだけどっ」
「公爵家の名を使えば、最短三日で全ての準備を整えられ…」
「変なところで権力を振りかざすなっ。もう迂闊にものを言えなくなるわ!」
『初デート』の言葉に浮かれまくっているテトに、アレスは釘を刺しまくった。彼女が手にしているフォークを突き立てそうな勢いだ。
「な…に………?」
肩で息をしながらツッコミを入れていたアレスだったが、テトの甘過ぎる視線に気付き、恐る恐る顔を上げて問いかけた。
「アレスは本当に可愛いな。」
「なっ!!」
必死の形相でフォークを振り回して声を荒げているにも関わらず、艶やかな絶世の美女を見ているかのような惚けた顔で見つめてくるテト。
相変わらず整っている顔での甘い表情は、アレスにとっては刺激が強かった。
「は、恥ずかしいこと言わないでっ」
「ああ悪かった。今じゃなかったな。続きは二人きりの時にしよう。」
「だから、そういうことじゃない!!!」
相変わらず仲睦まじいやり取りを繰り広げる二人に、控えていた使用人達は皆生温かい眼差しを向けていた。
「アレス、少しいいか。」
夕飯後、彼女の部屋まで送っていたテトは部屋の前で立ち止まった。
いつもならここでおやすみの挨拶をして去るのだが、今日は何故か中に入りたそうな雰囲気を醸し出している。
「え」
『夕飯後』『部屋の前』『二人きり』という条件が揃っている今、アレスの頭の中はパニックになっていた。よからぬ想像で彼女の脳内が埋め尽くされていく。
「いや、ちょっとそういうのはまだ早いというか、もう少し待ってほしいというか……」
「ん?こういうことは早い方がいいと思うんだが…せっかく準備を急いだのだがな…」
「じゅ、準備!??一体何を……」
「そう時間は取らせない。手早く済ませるから少しだけ時間をもらいたい。」
「て、てて、手早くって、何よその言い方は!!もう少し言い方ってもんが……」
「時間が惜しい。入らせてもらうぞ。」
「え、ちょっと…!!」
痺れを切らしたテトは、有無を言わせずアレスの手を取り彼女の部屋の中へと入って行ってしまった。
湯浴みの準備をしようと側に控えていた侍女たちは、主の意向を深読みして判断した結果、さっと気付かれることなく姿を消していた。




