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【本編完結】異世界転移したので、まずはそれっぽい名前を名乗るところから始めようと思います。  作者: いか人参
番外編〜ハッピーエンドのその先〜

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その後の話⑨


「私が頼んだ件、どうなった?」


二人しかいない完全防音仕様の会議室の中、タテロットの静かな声がよく響く。

その主君たる声に呼応するように、ダミはその場ですっと片膝をついた。



「御所望頂きました通り、つつがなく対応が完了しております。」


窓の外を見ながらひどく真面目な横顔で尋ねて来たタテロットに、ダミも頭を下げたまま真剣な声音で返答した。



「御託は良いから早く詳しく話せ。ここには僕と君しかいないから畏まる必要もない。いつも通りで良いから早く話せ。」


為政者の仮面をあっさりと殴り捨て、気安く返してきたタテロット。

そこにいつもの余裕のある微笑は見当たらず、彼はイラついた口調で捲し立てて来た。


ダミは臣下として申し分のない振る舞いをしているはずなのに、タテロットの反応は冷たく、纏う空気が一気に氷点下まで下がったような気すらする。



「…いや、詳しくも何も、手紙を本人に渡したってだけで、それ以上何があるってんだ。そんなに気になるなら最初から自分で渡せよ。まったく…」


許可を得た瞬間、ダミは立ち上がって近くにあった椅子に深く腰掛けると、態度を一変させた。主君に向けるべきでない迷惑そうな顔でタテロットの方を見ている。



「それは色々あるだろう?彼女のその時の反応とか表情とか目線とか瞳孔の開き具合とか息遣いとかその後の様子とか、僕はその辺りをもっとちゃんと報告しろと言ってるんだ。」


「は…………お前それ本気で言ってんのかよ。ちょっと…いや、かなり気持ち悪いぞ…」


「彼女とは幼少期に話したきりだ。それなのに、次代の国王となる自分のことを受け入れてくれるだろうかってそんなの不安で不安で堪らなくて、彼女の一挙一動が気になるに決まってるだろ。」


「ま、普通は嫌だろうなぁ。あの年齢でいきなり王妃になれだなんて、俺だったらいくら顔と性格の良い男でも願い下げ…」


「おい、もっと弁えろ。お前は僕の臣下だろ、少しは気を遣え。僕だって傷付く。もうやだ。煩い。」


「いや、お前が気にしなくていいって言ったんじゃんか……相変わらず勝手で面倒なやつめ…」


結局はフィオナの反応が気になって仕方がないというただの恋煩いだったと分かったダミは、心底面白くなさそうな顔をしている。

人の恋愛話など、既に想い人を手に入れた彼にはどうでも良い話だった。



「僕だって君の願いを聞いてやったんだ。あんな夜中に押しかけて来て婚姻書類にサインをしろだなんて、普通は不敬罪で投獄されるぞ。それを心優しいこの僕が庇い立ててやったんだから、もっと感謝されても良いはずだ。だからもっともっと恩を感じろ。そしてひれ伏せ。」


「無茶苦茶だな……でもまぁ分かったよ。とりあえず、フィオナが逃げないように協力はしてやる。その後のことは知らん。慰めてやらないからな。フランタンにでも頼んでおくんだな。」


「どうして振られる前提で話を進められないといけないんだ……」


ダミの単なる意地悪だと分かっているのに、フィオナにこっぴどく振られることを想像してしまったタテロットの顔は真っ青になっている。



「まぁ、せいぜい頑張れ。じゃあ俺はそろそろ戻るぞ。テトラスに仕事をさせないと、あいつはすぐにアレス嬢にうつつを抜かすからな。」


「ダミアン」


扉を開けようとしたダミが振り返ると、為政者の顔に戻ったタテロットがこちらに視線を向けていた。



「少し聞きたいのだが、ここ最近『聖女』の話を聞いたことはあるか?」


「セイジョ…?なんだそりゃ。人の名前か?」


「いや、聖女は特定の人物を指し示すものではなく、職位に類するものだ。この国の古代文学にも聖女という職位が存在していた。」


「それがどうかしたのか?」


「魔道隊の一部で、今回の魔物討伐はその聖女の力のおかげだという話が出ており、それが急速に広まっているようだ。」


「は、何だよそれ。お前も知ってるだろう?あの魔物の一掃と強固な結界はテトラスの大魔法によるものだって。そんな嘘話に惑わされるなよ。」


「無論、そんな話微塵も取り合うつもりはないのだが、少し厄介でね。各所でその聖女を探し出そうとする動きがある。この重要な時期に、変な派閥が出て来たら面倒だと思わないか?」


「…それはそうかもしれないが、第一、そんな存在しない人物を祭り上げたところで何が出来るって言うんだ。そんなのいつか自然崩壊するだろうよ。」


「本当に存在しなければ、な。」


タテロットはすっと目を細め、何もない空間に視線を移した。



「その聖女は、『アレテト』と名乗ったらしい。どこかで聞き覚えのある名だと思わないかい?」


「嘘だろおい…………………」


タテロットと同じ人物を思い浮かべたダミは、頭を抱えた。 



くそ、面倒ごとを増やしやがって…

この蜜月の時にっ………



心の中で呪詛を吐きまくるダミに向かって、タテロットはにっこりと微笑みかけた。

それは、彼の内側を知らなければ天使と見紛うほど屈託のない笑顔であった。



「ということで、ダミアン宜しくね。」


そんなにこやかに手を振るタテロットに対し、ダミは怨みつらみを目一杯込めた舌打ちを残して会議室を後にした。





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