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【本編完結】異世界転移したので、まずはそれっぽい名前を名乗るところから始めようと思います。  作者: いか人参
番外編〜ハッピーエンドのその先〜

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その後の話④


日が沈み、大規模掃討作戦に生活魔道具を投入して間もない今、街灯の明かりはなく真っ暗な道が続く。

馬車の中も同様に光はなく、窓から入り込む僅かな月明かりだけであった。


薄暗い車内に、車輪が石畳の上を回転する音だけがやけに響く。




「今までのように魔法が使えないこと、黙っていて悪かった…」


暗くて表情が見えずとも、アレスにはテトが心から詫びていることはその声音から手に取るように分かった。



「私はもう…今までのように魔法でアレスのことを守ってやることが出来ない…」


テトの声には悔しさが滲み出ていた。


大切なこの国を守るためだけに極めた大魔法はいつしか愛する人の幸せのためとなり、今その想いが成就したにも関わらず、今度は己の無力さに嫌気が差す。


大魔法の大成と引き換えに魔力を失うことなど、とうの昔に覚悟していたはずなのに、真に愛する人が出来た今、どうしても欲が出てしまう。



最強の魔法使いでなくなった今、己に価値なんてあるのだろうか。このままアレスの隣にいて良いのだろうか…こんな変わり果てた何もない自分でも彼女は受け入れてくれるのだろうか…




「私、テトの魔法に守られたことなんて一度もないよ。」


「そんなずは…」


テトは、アレスの言っている意味が分からなかった。


軽く思い返しただけでも、自分の渡した石や魔法で彼女を守ったことは片手分はある。絶対に役立っていたはずなのに、一度もないというアレスの真意が見えない。



「私を守ってくれたのは、いつだってテト自身だよ。いつも心配してくれて励ましてくれて気にかけてくれて待っていてくれて…だから安心出来たの。貴方の魔法があるから安心してたわけじゃない。それとももう、私の心配はしてくれないの?」


「そんなことは断じてない!アレスのことは心の底から大切で、心から愛している。いつだって心配で気掛かりで放っておけない。君のことを考えない時などないくらいに。」


「…うん、予想以上に真っ直ぐでちょっと照れるけど。でもそう言ってもらえて私はすごく嬉しい。テトのその言葉が、私に対する想いが、私にとっては魔法以上の価値があるんだよ。」


アレスの飾らない言葉を聞いたテトは、自分の心に風が吹き抜けたような気がした。


長く寒い冬の終わりを告げるような、温かく穏やかな風が彼の心を優しく包み込む。



『魔法の価値しかない』


一番そう思っていたのは結局自分自身だったのだと気付かされた。


いつだって周りのせいにして、諦めて心を閉ざして孤独を選んだ。でもそれは、自分に自信のない己が選択したことだった。

魔法しかないつまらないやつって人から思われる前に、自分で決めつけて自分から距離を取った。


何もかも縛っていたのは自分自身だったのだ。




「やはりアレスには敵わないな。」


淡く微笑むテトの表情にはもう翳りはなく、少年のような屈託のない笑顔であった。


物心付いた時からこの国の未来を憂い、一人だけでそれを背負ってきた。

アレスと出会ってからも心の片隅にはいつもその翳りを残していた。そして、魔物の脅威が去った後今度は自身の行く末の憂いを抱え込んでいたテト。


その何もかもから解放された今、テトは初めて心の底から笑うことが出来たのだ。



初めて見るテトの真っ直ぐな笑顔に、アレスは心臓の鼓動が五月蝿いくらいに高鳴っていた。

ずっと見ていたいくらい魅力的で惹きつけられるのに、恥ずかしくて今すぐに目を逸らしたい、でも目が離せなかった。


自分の感情がよく分からなくて、なんだか泣きそうになる。




「アレス」


薄暗い車内なのに、エメラルドグリーンの瞳に穴が開くほど見つめられていることがよく分かる。


この先の展開を予想したアレスはひとりパニックに陥っていた。


決して嫌じゃない、でも初めてのことでどうしたら良いか分からなかった。ただ受け入れればいいと頭では分かっているのに、恥ずかしくて死にそうで心がついていかない。




「ちょ、ちょっと待って!」


気付いたら口走っていた。

だが、テトがその言葉に頷くことはなく、向かいに座るアレスの前に立つと、彼女のすぐ隣に右膝を乗せてきた。



「え」


固まるアレスを尻目に、彼女に覆い被さるように背もたれに左手をつく。


薄暗い中でも視認できるほど顔を近づけると、エメラルドグリーンの瞳で真っ直ぐにアレスのことを見つめた。



「無理、待てない。」


いつものテトらしくなく、子どものように拗ねた声を出すと、瞳を閉じてそのままゆっくりと口付けをした。


どうしていいか分からなかったアレスも、触れた唇の甘さと優しさに負け、目を閉じて受け入れた。

そこにはもう恥ずかしさや照れはなく、ただただ至上の喜びだけが溢れていた。





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