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【本編完結】異世界転移したので、まずはそれっぽい名前を名乗るところから始めようと思います。  作者: いか人参
番外編〜ハッピーエンドのその先〜

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その後の話②


「ふははははっ。お前は、女性に金の心配をされてるのか!どれだけ甲斐性のない男なんだ。」

 

無駄に広いこの部屋に、心底おかしそうに笑うタテロットの声が響く。

アレスは、指を折って必死に当面の生活費の計算をしている。



「…煩い。アレスは少し勘違いしているだけで、私が金に困るようなことはこの先一生あり得ない。」


「なんなら王宮の仕事を紹介してやろうか?そうだな…私の側使いなんてどうだ?給金は弾んでやるぞ。」


「お前は…人のことを馬鹿にするのも大概に…」


「ちなみになんですけど、具体的にいくらくらいもらえます??」


「こらっアレス!!」


「ははははははっ!!!!」


アレスが混ざってきたことにより、余計に話はややこしくなり、タテロットは終始笑いっぱなしで、テトは冷や汗を掻きまくりであった。


タテロットは、ひとしきり笑った後、外に控えていたフランタンに言って紅茶と茶菓子を持って来させた。


その配膳とともに、改めて二人に着席を促す。


三人で使うには大き過ぎる長方形のテーブルの端と端に、テトとアレス、そしてタテロットが順に腰掛けた。




「テトラス、以前より気になっていたんだが、君の制限魔法、一体どんな条件をつけていたんだ?」


タテロットが真剣に問う中、アレスは目の前に運ばれて来たチョコレート菓子に手を伸ばした。


王都でもチョコレートは珍しくかなりの高級品だ。

前にいた世界では毎日のように食べていたそれに、アレスの手が止まらない。


見かねたテトが自分の皿に乗っていた分もアレスの前に差し出す。



「通常、この禁忌とされている制限魔法は一種類だけ己に条件を課す。だが私は、その効力を高めるためにそれを二重にして掛けたのだ。それも、魔術書に書かれていた数年という期間の倍の時間を掛けて。その効果は見立ての通り絶大であったな。」


自分の長年における研究の賜物だと言わんばかりに、テトは誇らしげな顔をしている。だが、よくよく見ると、その瞳には僅かに動揺が入り混じっていた。


王族として人の機微に敏感に生きて来たタテロットがそれを見逃すはずがなかった。




「で、どんな制限を掛けたんだ?」


はぐらかされることなく、再度同じ問いをしたタテロット。



「・・・」


言いたくないのか、テトは黙って目の前のティーカップに口を付けた。

その横で、アレスは至福の表情で次々に茶菓子を口に運んでいる。

対照的な二人の様子は、地獄と天国が隣り合わせになっているかのようであった。



「君が黙秘を貫くというのなら、僕は正式にアレス嬢を王宮に迎えるよう書簡の用意を…」

「愛だ。」


アレスを人質にとられたテトは、嫌そうな顔をして重い口を開いた。

話し始めたテトを前に、タテロットも黙って話の続きを待つ。



「私が課した条件は二つ。一段階目は、好いた相手から贈り物をしてもらうこと。二段階目は、その相手から愛してると言葉をもらうこと。…もういいだろう。」


「なるほどねぇ…僕には愛の力が足りなかったのか。」


納得して頷いているタテロット。テトは気まずそうに顔を晒した。



「あ…………だからあの時愛してるって言わせたかったの?」


あんな切迫した場面で言い直しを強要されたことをずっと疑問に思っていたアレス。これでようやく話が見えた。



「悪かった。しかし、アレスの気持ちを聞いて心の底から嬉しかった。あの時も今もそしてこれからも、私の気持ちに嘘はない。」


「私だって、テトにはちゃんと気持ちを伝えようと思っていたから別に良いんだけど……って、私テトに何か贈り物なんてしたっけ?一段階目をすっ飛ばして二段階目の制限を解除したってこと?」


「それは、その………」


着席していても頭ひとつ分高い長身のテトがこれ以上ないほどに縮こまっている。相当話したくないらしい。



「テトラス、愛する者に対して秘匿するというのは些か不誠実なんしゃないか?」


これは面白そうな話を聞けそうだと思ったタテロットは、すかさず援護射撃をしてきた。口元がニヤけないように保つことに必死だ。


ここにフランタンがいれば、またお戯れを…と頭を抱えていたに違いない。




「そうそう。下手に隠そうとするよりも、話した方が楽になるよ?」


タテロットの援護射撃に、アレスも意気揚々と乗っかって来た。こちらはニヤけ顔を隠す気がなく全面に晒している。

二人してテトのことを揶揄うことに余念がなかった。


観念したテトは、思い切り顔を晒して窓の外を見つめたまま呟いた。



「…水。」


緊張で喉が渇いたのだと思ったアレスがテーブルの上にあった水差しに手を伸ばそうとしたが、テトにやんわりと止められてしまった。



「テト?」


「アレスと初めて会ったあの日、君に水をもらっただろう?それだ。あれで一段階目の制限が解除されたんだ。」


「水…?私、テトにそんなの………あっ!!!!」


ようやく初めて会った時のことを思い出したアレス。



「えっ!!?だからあの時私に水が欲しいって懇願して来たの!?人の肩を掴んでまで!?え、何それちょっと怖いんだけど……」


「テトラス…お前は一体何をやったんだ…」


自分で自分の身体を抱きしめて怖がるアレスを見たタテロットは、テトに蔑んだ目を向けた。何やら勝手に色々と勘違いされているらしい。



「無体など働いていないっ!」


「いや別に何もされてないけどさ…というか、あの時私が水を持っていなかったらどうしたの?」


「水でなくても、衣類の一部など本人が差し出したものなら何でも条件に当てはまるはずだ。」


「え………………」


「お前という奴は…これは王宮で徹底した再教育が必要だな…」


「例え話だ!」


勝手な方向に話を持っていく二人に、テトは椅子から立ち上がり息を切らして抗議した。その顔は、必死の形相である。



「魔力を操る者なら水の存在は感覚で分かる。だからあの時、君が水を持っていると知った上で希ったのだ。」


「それは分かったけど…でもどうしてあんな場所で助けを求めてたのよ…」


「それは…好きな相手を見つけるためだ。」


「「は……」」


アレスとタテロットの呆れと蔑みと哀れみの混じった声音が重なった。

二人とも、テトに対して冷え切った目を向けている。


話の切り出し方を完全に間違ってしまったと、この場に味方のいないテトはひとり頭を抱えた。





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