その後の話①
王国が輝かしいほどの緑の光に包まれたあの日から一週間、アレス達を乗せた馬車はようやく王都へと辿り着いた。
テトの大魔法により、魔力の結集体である緑の光をその身に受けた者は動ける程度まで魔力を回復させることが出来たのだが、魔道具の魔力は尽きたままだ。
仕方なく通常の馬車で帰還したため、かなりの時間を要してしまったのだ。
「アレス、長旅疲れただろう。今日は久しぶりの邸でゆっくりと休むと良い。」
テトは、彼のすぐ隣でウトウトと船を漕ぐアレスに優しく声を掛けた。
馬車の揺れでアレスが必要以上に疲れてしまわないよう、彼の腕はしっかりと彼女の腰に回されている。
「ん?やっと着いたの…?んーーーーーーっ!!疲れたあああああっ!!!」
テトの声で覚醒したアレスは、ぐうーっと大きく身体を伸ばした。
「来る時は一瞬だったのに、普通の馬車だと結構な時間が掛かるんだね。ほんと、魔力ってすごい力なんだね。」
「…ああ、そうだな。」
目の当たりにしたファンタジーの世界にキラキラと目を輝かせるアレス。その興奮は覚めやらない。
だが、そんな彼女の隣にいるテトの表情は暗い。
「テト?」
「私は王宮に行かなければならない。アレスは先に邸に戻っていてくれ。すぐに戻るから。」
「私も一緒に行くよ。寄り道したら面倒だろうし、すぐに終わるなら待ってるよ。」
「助かる。」
元々邸に直行するつもりだったが、テトは御者に伝えて自分達の馬車もこのまま王宮へ向かうように指示を出した。
数台の馬車が連なって王宮へと続く街道を走って行く。
アレスが最後に見た街とは違い、そこには多くの人で溢れていた。
王宮からのお達しを聞いて続々と市民が避難先から戻って来たらしい。
皆大急ぎで開展準備を進める中、既に店を開いている強者もいた。
「トトさんっ!!!!」
見覚えのある店先に見知った顔を見つけたアレスは、馬車の窓から身を乗り出し思い切り手を振った。
彼女が窓から落ちてしまわないよう、心配したテトが彼女の身体に腕を回している。
「アレスちゃんっ!!!あんた元気だったかい!?」
「うんっ!!トトさんも元気そうで良かったーーー!!!」
声を張り上げてで一言交わすと、あっという間に馬車は通り過ぎてしまった。
たったの一言だというのに、あの閑散としていた町並みに知り合いの元気な姿を見たアレスは、胸から込み上げるものがあった。
ついこの前まで、この国は存亡の危機にあったと言うのに、それを微塵も感じさせないほど活気に満ち溢れている。
それがすぐ隣にはいるテトのおかげだと思うと、アレスは誇らしくて堪らなかった。
思わずニコニコとテトの顔を覗き込むが、彼の顔はどことなく暗いように感じた。
「テトラスにアレス嬢、よく戻って来てくれたね。」
王宮で案内された部屋に待機していると、タテロットが一人で現れた。側近のフランタンは部屋の外に待機させている。
「タテロット王太子殿下におかれましても、」
「不要だ。」
テトが跪いたまま形式だけの口上を述べようとしたが、タテロットによって制止されてしまった。
アレスの手を取って立ち上がったテトは訝しむ顔でタテロットを見たが、彼の起こした行動に眉を顰めた。
「どういうつもりだ。」
「この国を魔物の脅威から守ることが出来たのは一重に君のおかげだ。国を救った英雄に感謝の意を示して何が悪い。」
タテロットはテトに向かって深く頭を下げたまま言葉を返した。
「君のことを疑って悪かった。この国を救おうとした君のやり方が正しかった。…僕は間違った方向に進もうとしていたみたいだ。」
「それは結果論だ。この国は助かったんだ。この先最低でも1000年は安泰であろう。それで良いじゃないか。」
テトは、タテロットの肩を掴むと無理やり頭を上げさせた。
「そうか…そうだな。ではせめて、英雄を支えた功労者としてアレス嬢を僕の第一夫人に迎えることで最大限の謝意を示させて…」
「貴様っ……………」
テトの怒号が飛んだ。
アレスのことを背中に隠すと、鋭い眼光でタテロットのことを睨み付けた。
だが、それだけだった。
いつもなら怒号とともに飛んでくる魔力による威圧が飛んでこない。
その事実を知ると、タテロットは一瞬だけ目を伏せた。
「やはり、か…」
「ああ。」
タテロットの言わんとしていることを理解したテトは、聞き返すことなく頷いた。
「え?何の話…?」
一人だけ事情の分かっていないアレスは、二人の会話か気になり、テトの背中からひょっこりと顔を出した。
テトとタテロットの顔を交互に見る。諦めたタテロットが口を開いた。
「テトラスの魔力はもうほとんど残っていない。これまでの100分の1にも満たないだろう。自らの精神に長年制限を付与してあれだけの大魔法を展開したんだ。こうなってもおかしくはないと思っていた…」
タテロットは悔しさを滲ませる声で言った。
この国の王子として自分に出来ることを必死にやっていたはずだったのに、結局テト一人にその責を負わせてしまったことに自責の念が込み上げる。
この国は、史上最強の魔法使いを失ってしまった。
「え、うそ…………」
テトがもう今までと同じように魔法を使えなくなってしまったことに、アレスは驚いて両手で口を押さえた。
「アレス、黙っていて悪かった…魔法の使えない私に何の価値もなく、君のことを失望させることになり本当にすまないと思っている。何もない私には君の隣にいる資格も無いのかもしれないが、それでも私は、」
「テト、無職になっちゃったってこと…?早く仕事見つけないと!見つかるまでは私の貯金で養ってあげられると思うけど…」
「は………」
テトの想定の遥か斜め上をいくアレスの心配に、彼はすぐにはその言葉の意味を理解することが出来なかった。
その後の話を少し続けて書いていこうと思います。
また宜しくお願いします(´∀`)




