覚悟
戦況は芳しくなかった。
途切れることなく、結界の綻びから雪崩れ込む魔物の数々。
火を吹き、魔力の衝撃波を飛ばし、鋭利な爪や牙で斬撃を繰り出す。あまりの威力と、休むことなく弱まることなく続く攻撃に防戦一方となっていた。
「隊列を乱すな!負傷者はすぐに後ろへ下がれ!魔力切れを起こすものには魔力の補充を!」
テトは大声で指示を飛ばしながら、風魔法を巧みに操り宙を舞うように攻撃を回避しながら火魔法で対抗している。
出し惜しみせず、最大火力で迎え撃ってはいるが、あまりにも数が多く、全てを消し炭にすることができない。そのため、鳥族の魔物の翼を重点的に狙い、まずは全ての魔物を地に落とすことを優先とした。空から攻撃されては一瞬で全滅してしまう。
テトが地に落とした魔物を魔導隊がトドメを刺しに行く。
銃型の魔道具に魔力を込め、弾丸の如く打ち込んでいく。狙うは核だ。魔力を持つものには視認することができる、魔物の中枢、それは人間で言う心臓のような部位だ。
盾となる三人の魔道隊隊員が魔道具で防御壁を作り、その後ろから狙撃に長けた隊員が核を狙い撃ちする。一度では分厚く頑丈な皮膚に穴を開けることが出来ず、同じ箇所に何度も打ち込む必要がある。魔物の攻撃に耐えつつ、寸分狂わずに同じ箇所に魔力の弾丸を撃ち込み続けることは至難の業だ。
「ぐはっ!!」
盾となっていたうちの一人が血を吐いた。
魔力切れの兆候だ。それでもなお、膝を折らず盾として魔力を注ぎ、その場に立ち続ける。
ここで自分が退けば、せっかく貫通しかけている穴が魔物の再生能力であっという間に塞がってしまう。仲間が掴み取ってくれた好機を自分が無駄にするわけにはいかないと、歯を食いしばった。
「お前は一度下がれ!」
だが、隊長が負傷者の首根っこを掴み、後方に投げ飛ばした。
この場で魔力切れを起こして生き絶えれば、あっという間に魔物に捕食され、その身体や髪に残る魔力を吸収されてしまうからだ。ただでさえ無尽蔵にある魔物の持つ魔力、仲間の遺体でその魔力を増幅させるなど絶対にさせたくなかった。
投げ飛ばされた隊員を騎士達が受け取り、さらに後方へと運び出した。
朝が来れば、国中からかき集めた魔道具か輸送されてくる。魔道具に残る魔力は人に補填することが出来るため、物さえ届けば彼をまた戦場に送り出すことが出来るのだ。
負傷者を再度戦場に立たせるなど、本来であればさせたくないが、魔力を持つ者が限られている今、そんなことは言っていられなかった。
凄惨な状況が続く中、また一人魔力切れを起こし、後方に運ばれていった。
同刻、真逆の位置で魔物と対峙するタテロットが率いる軍団も最悪の戦況であった。
同じように大量の魔物に襲われ、タテロット以外の者は次々と魔力切れを起こして倒れていった。
「フランタン!」
戦況の把握や負傷者の管理、タテロットの意思伝達などの任務を行っていたフランタンを大声で呼び付けた。
気付いた騎士がフランタンのことを呼びに行き、タテロットの元へ連れて来た。
「全員退避させろ。」
「それはどういう意味ですか!?」
「これは命令だ。今すぐ全員を退避させろ。足手纏いだ。」
「タテロット様はどうなさるおつもりですか!!」
「この場を最大火力で焼き尽くす。お前達まで焼いてしまったら気分が悪いからな。分かったら早く各員に指示を出せ。ここはもうもたん。」
「御命を…捨てるおつもりですか?」
「元よりそのつもりだ。今更何を言う。この命を丸ごと魔力に変換して最大出力すれば辺り一帯の魔物は一掃できるだろう。その後は…悪いがテトラスに指示を仰いでくれ。ああ見えて、アイツは僕に次ぐ王位継承者だからな。」
「キイイイイイイイイイエエエエエエ!!!」
話している二人に向かって、魔物が突っ込んできた。タテロットは素早く魔力を展開し、フランタンのことを風魔法で飛ばして後ろに下がらせると、火魔法を放った。だがそれだけでは動きは止まらず、タテロットを捕食しようと焼かれてもがきながら接近してくる。
タテロットは火魔法を片手で放ちながら、もう片方の防御壁を風魔法に切り替え魔物に放った。
「ギヤアアアアアアアアアアアアア!!!」
火を風の力で魔物の周りに留まらせ、且つ、大量の酸素を送り込むことで火力を更に引き上げた。これには流石の魔物も断末魔の叫び声を上げて絶命した。
一匹仕留めたが、魔物が順番待ちをしてくれるわけがなく、また別の魔物が襲いかかって来た。タテロットは分割した風魔法を足に付与し、風の力で大きく飛翔し、斬撃を避ける。
「このままでは埒が明かない。早く全員を退避させろ!これは命令だ!」
魔物の攻撃を避けながら、タテロットはフランタンに向かって声を張り上げた。
その瞬間、魔物の斬撃がタテロットのこめかみを掠めた。赤い血が散る様がフランタンの目に入った。
「…っ!!!」
「タテロット様!!!」
駆け寄ろうとしたが、フランタンの目の前に別の魔物が立ち塞がり、それ以上進むことが出来なかった。魔力を持たないフランタンは、魔物と直接対峙することはできない。そのことを分かっていても、主君のため前線に出て来たのだ。
通用しないと分かっていたが他に選択肢はなく、自分の剣で魔物を斬りつけようとした。だが、魔物に触れることすら出来ず、風圧で弾き飛ばされてしまった。
己の無力さに絶望して地に膝をついてしまいたくなる。
「お前は、お前にしか出来ないことをやれ!悩むな考えるな心を折るな!!」
聞いたことのない主君の怒号とともに、一気に視界が開けた。
タテロットが風魔法で魔物を地に叩きつけたのだ。
「……御意!!」
この国の王太子殿下であられる方が顔から血を流し、その御身を挺して臣下を守り前線に立ち続ける。それを覚悟の上だと言う。
タテロットの決意に、フランタンはもうそれを止めることは出来なかった。それならば、一つでも多く足枷となるものを排除して差し上げよう、そう心に決めた。
覚悟を決めたフランタンは、後方まで一気に走り抜け、全員退避の王太子命令を伝えた。




