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【本編完結】異世界転移したので、まずはそれっぽい名前を名乗るところから始めようと思います。  作者: いか人参
本編

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再会


アレスが王宮に連れて行かれた翌日、ジュリアは朝早くから店を訪れ、片付けと清掃を行っていた。街に人がおらず、アレスも来なくなった今、ここに残る理由がなくなったのだ。


昼前には片付けが終わり、他の店を真似てドアを木の板で封鎖した。



「よしっ」


気合いを入れて数日分の着替えと貴重品を入れた旅行鞄を両手に持つと、辻馬車を求めて大通りまで出てきた。


ひとまず実家に向かおうと辻馬車を待ったが、1時間経過しても一台も通らなかった。普段であればひっきりなしに行き交っているのだが、やはり他の者達も郊外に避難しているようで、街の交通機関は機能していなかった。


ジュリアの実家までは馬車で数時間かかるため、徒歩で向かうのは無理だ。

あと1時間待って馬車が通らなければ、実家に行くことは諦めて、一人暮らしをしているアパートに戻ろうと決めた。




待つこと更に一時間、やはり馬車が通ることはなかった。


諦めたジュリアは、アパートに向けて歩き始めた。

家にある食糧は残りあと僅か、街で開いている店は一つもない、どうやってこれからの日々を乗り切るか…道すがら頭を悩ませていた。


そんな中、ふと昨日までのアレスとの日々を思い出し、無性に懐かしくなっていた。たった1日だけというのに、普通におしゃべりをしてお菓子を食べていた日常が遥か昔に感じられる。



「ダミアン様のお申し出、素直に受け取れば良かったかな…」


弱気になったジュリアは、誰に言うわけでもなく一人呟いた。その瞳には涙が浮かんでいる。


唐突に襲ってきた孤独感に、心が押しつぶされそうになる。どうしようもないほどに寂しさと心細さを感じる。

昨日までの強い自分は、アレスがいたからこそ虚勢を張れていたのだという事実に気づいてしまった。




『落ち着いたら必ず迎えに行きます!!』




頭の中でアレスの声がした。

彼女だって不安なはずだったのに、最後の最後まで自分の心配をしてくれて、前向きで心強い言葉を掛けてくれた。

彼女の言葉と笑顔を思い出し、前向きであれ強くあれと自分の心を頑なに縛っていたものが解かれ、心がほんのりと温かくなった気がした。



「こんな弱気な姿、アレスさんに笑われてしまうわね。」


ジュリアは両手で軽く頬を叩くと、弱気になった心を捨て、気合いを入れ直した。





アパートの前に一台の馬車が止まっていた。

見るからにランクの高い車種であり、ゆっくり近付いて馬車のドア付近を見ると、王家の紋章が目に入った。



「どうしてこんなところに王家の馬車が…?」


ジュリアが不思議に思いじっと馬車を眺めていると、勢いよくドアが開いた。



「ジュリアっ!!!!」


馬車から飛び出してきた人物は、こちらに駆け寄ってくると、ぶつかる勢いでジュリアのことを思い切り抱きしめた。



「フィオナ様!?どうしてこちらに…!!?」


いきなり現れたフィオナに、ジュリアは驚きの声をあげた。



「良かった、無事で。ジュリア、貴女も王宮に避難するのよ。」


フィオナは有無を言わせず、彼女の手から旅行鞄を一つ奪うとその空いた手を掴んで馬車まで引っ張っていった。



「い、いえ、私は…」


「良いから行くの!ジュリアのことはあのバカ弟に頼まれてるんだから。アレスさんも王宮に避難しているって聞いたわ。きっと心細い思いをしているはず。二人で行って安心させましょう。」


ダミアンの自分に対する思い、そして、アレスの現状を思うと、もう拒む理由はなかった。フィオナの言葉に頷くと、ジュリアは自分の意思で馬車に乗り込んだ。




「それにしても、どうして王家の馬車なんです?」


「それが…私のことを王宮で保護するようにタテロット王太子殿下が命じて下さったそうなのよ。子どもの頃以来関わりなんてないはずなのに、私のことをよく覚えていたわよね…」


王宮に向かう馬車の中、二人きりの車内でフィオナは嬉しいような悲しいような複雑な表情を浮かべながら事の詳細を話してくれた。



「そのようなことが…タテロット王太子殿下は、昔からフィオナ様のことを大切に想ってらっしゃいますから。素敵ですわ。」


「そ、そんなことないわよ!」


照れたフィオナはそっぽを向いた。

そんな彼女を、ジュリアは微笑ましそうに見ている。

このいっときだけは国に迫る脅威も明日が見えない不安も忘れ、久しぶりの再会に穏やかな空気が流れていた。




王宮に着いた二人は、早速アレスの場所を王宮の侍女に尋ね、教えられた部屋に向かった。

だが、アレスは部屋にいなかった。



「アレスさん、どこか出掛けているのでしょうか…」


「おかしいわね。もう暗くなるわよ。無事でいてくれればそれで良いのだけど…」


「大丈夫ですよ。王都で魔物が出現した話はまだ聞いたことがないですし。また夕飯の時間に様子を見に行きましょう。」


「ええ、そうね。」


アレスが聖女のフリをしてテトの元へ向かったことなど予想だにしていない二人は、不安を残したまま自室に戻っていった。




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